表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
843/2046

Act8-45 シリウスの言葉

 十月の更新祭りを始めます。

 今回は土曜日ということもありまして、十二話更新となります。

 まずは一話目です。

 シリウスはいまにも泣きそうな顔をしていた。


 泣きそうな顔で俺をじっと見つめている。血の繋がりなんてないはずなのに、その表情はカルディアを思わせてくれる。


「シリウス。どうしたんだ?」


 アイリスがいる。俺が殺したいと願い続けてきた女がいる。


 けれどその怒りと悲しみ、そして恨みをシリウスにまで向けるわけにはいかない。


 沸き起こる負の感情をできるかぎり抑え込んで笑い掛ける。


 これでシリウスも笑顔になってくれればいい。


 そう思ったけれど、現実はそううまくはいかないようだ。


「ダメだよ、パパ」


 シリウスはより一層泣きそうな顔を浮かべていた。


 それこそいまにも涙をこぼしてしまいそうなほどに。


 愛くるしい笑顔が消えてしまっていた。


 胸が痛い。そして怒りが沸き起こる。


 あいつがいるから、アイリスが生きているから、カルディアを殺したあいつが生きているから、シリウスから笑顔がなくなったんだ。


 そうだ。すべてあいつが生きているのが──。


「怖い顔をしないでよ」


「え?」


「そんな怖い顔をしないでよ、パパ」


 ──シリウスが涙を流した。


 でもそれは聞き間違いかと思うような内容だった。


 だってシリウスは俺に対して言っているんだ。


 俺が怖いと言っているんだ。


 すぐにはその意味がわからなかった。


 理解することができなかった。


「なにを言っているんだ、シリウス。パパは」


「怖い顔だもん! それこそいまにも暴れ出してもおかしくないくらいに、ううん、誰かを殺そうとしているような顔をしているもん!」


「っ」


 なにも言えない。実際俺はアイリスを殺しに行くつもりだった。


 あいつが生きているのが、あいつが呼吸をしているのが、いや、あいつが存在しているのが俺には我慢ならなかった。


 なんでカルディアは死んだのに、あいつは生きているんだ? 


 カルディアが死んだのであれば、あいつだって死なないといけない。


 だってあいつはカルディアを殺した。


 人殺しだ。人を殺したのであれば、その償いはその死を以てでないとならない。


 言葉だけの償いなどなんの意味もない。


 あいつはいますぐに首だけの姿になるべきなんだ。


 そうだ。でないとおかしい! 


 カルディアを殺したんだ。


 俺が愛した人を殺したのだから、あいつだって死ぬべきなんだ。


「違うよ、シリウス。パパはあいつを殺したいわけじゃなく、殺さないといけないんだ。だってあいつはカルディアママを殺したんだ。であれば、その償いはその命でないと」


「じゃあ、私も死なないとダメなの」


「は?」


 今度こそ言われた意味が理解できなかった。


 いきなりなにを言いだすんだろうか。


 シリウスが死なないといけない? 


 なんでそうなる? なんでシリウスが死なないといけないんだ? 


 シリウスはなにも──。


「だって私も人を殺しているもの。だから罪を償わないといけないのであれば、私も死なないといけないの」


 ──まただ。また言い返せなかった。


 シリウスはたしかに人を殺していた。


 あの黒騎士たちを大量に殺した。


 あの黒騎士たちにももしかしたら、大切な誰かがいたのかもしれない。


 愛してくれていた人たちがいたのかもしれない。


 シリウスはその人たちから、あの黒騎士たちを奪った。


 アイリスがカルディアを奪ったように、だ。


 アイリスはダメで、シリウスは許される。


 そんなことはあるわけがない。


 同じく命を奪ったんだ。


 アイリスが罰されるのであれば、シリウスも罰されなければならない。


「だから私も死ぬべきなの。死なないといけないの。そうでしょう、パパ?」


 シリウスは泣きながら俺を見つめていた。


 カルディアによく似た紅い瞳は俺をじっと見つめていた。


 見つめられながら俺はなにも言えない。言えないまま、ただ時間だけが過ぎていった。

 続きは二時になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ