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Act8-44 この恨みと怒りが

 そこにいたのは鳥の糞やダンゴムシの突撃そしてサウたちによって、見るも無残になったアホエルフたちとは異なり、一切の汚れもない純白の少女だった。


 髪も肌さえもすべてが真っ白だった。


 それこそ降り積もる雪を見ているかのように、その少女はとてもきれいだった。


 街で見たら誰もが振り返りそうなほどの美少女。


 喧騒冷めやらぬ森の中で、場違いなほどにその少女の周囲はとても静かだった。


 まるで彼女の周囲だけが切り取られてしまっているかのようだった。


 そうそれこそ絵画のように、絵画の中から不意に現れたように、彼女の雰囲気はほかのすべてとまるで異なっていた。そしてなによりも、だ。


「いま、あいつなんて言った?」


 アホエルフが叫んだ名前。その名前は決して忘れることのない名前だった。


 でもその名前自体はありふれたものだ。


 そう、それこそ今日産まれたばかりの赤子のものでもおかしくないほどにありふれた名前だった。


 けれど俺は知っている。俺が追い掛けているアイリスは、俺が殺すと決めているアイリスという女がどういう女なのかを。


 白い髪、白い素肌、そしてきれいな赤い瞳。


 よくみると顔立ちもたしかに「彼女」を想わせる。


 別人ではあるけれど、たしかにとてもよく似ていた。


 姉妹と言われたら、納得するほどに「彼女」と、アルトリアと瓜二つだった。


「間違いない、あの女か」


「「旦那様」、いかがなさいましたか?」


 右拳を強く握りしめるのと、ティアリカが声をかけてくれるのは同時になった。


 なにかを言うべきなんだろうけれど、いまの俺には言葉を発する余裕はない。


 あの女を八つ裂きにしたくて堪らないからだ。


 いますぐにあの女の首を斬り落としたくてたまらない。


 いやそれだけじゃ生ぬるい。


 カルディアは全身がボロボロになっていた。


 両腕は砕けていたし、小さな切り傷はそれこそ数えきれないほどに刻み込まれていた。そして最後には心臓を貫かれてしまったんだ。


 カルディアはたしかに「蒼炎の獅子」を暴走させてしまった。


 プライドさんとカルディアたちの一族の絆の証である「蒼炎の獅子」を穢してしまった。


 でもそれには事情があった。


 事情があるからと言って、すべてをなかったことにはできない。


 すべてを許してもらえるわけじゃない。


 それでも、それでもカルディアがあそこまで傷ついて死ぬことはなかった。


 罪であれば生きて償っていけばよかった。


 カルディアの旦那として俺もその贖罪に付き合えた。


 けれどあいつはカルディアに贖罪をする時間を奪った。


 俺の目の前でカルディアを殺した。


 許せない。


 許していいわけがない!


 あいつだけは殺す。この手で殺してやる! 


 カルディアが負った傷と同じ分だけ、奴の体も壊してやる! 


 そうしないとこの怒りは、この悲しみは、この恨みは治まることはない!


 アイテムボックスから「黒狼望」を取り出す。ガルムがなにかを言っているが、もう聞こえない。


 俺の耳には奴の悲鳴と断末魔以外は聞く気はなかった。取り出した「黒狼望」を鞘から抜こうとした。


「パパ」


 柄を握る右手に、小さな手が触れた。


 小さいと言っても、俺とそこまで変わらなくなってしまっているけれど、まだ俺よりも小さな手が、俺の右手の甲にそっと添えられていた。


「シリ、ウス?」


 シリウスが俺の手に触れていた。俺の手に触れながら、とても悲しそうな顔で俺を見つめていた。

今夜十二時より十月の更新祭り開催です。

今回は十二話更新となります

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