Act8-31 正直に答えるのとうかつな発言は別物です。
俺が「お姉ちゃん」と呼んだことで、理性がぶっ飛んでしまったジズ様。
そんなジズ様に迫られながら、恐怖に震えた俺。
……本当に喰われるかと思ったよ。だってそのくらいジズ様の目がマジで怖かったよ。
だって目が完全に血走っていたし、呼吸もすごく荒くなっていたもの。
麓で佇んでいた穏やかな雰囲気はどこに行ったのかと問いただしたい気分だったよ。
でもそんな時間も終わり、いま俺たちはと言うと──。
「ふふふ、そうでしたか。あなたが「ベルル」の街の領主の名代ですか」
「わぅ。ひいじぃじ、じゃなくて、クルス領主に名代を任命されたシリウスです」
ジズ様は「清風殿」の謁見の間、その玉座に腰掛けながらシリウスと穏やかに会話を交わしている。
……なぜか俺を膝の上に座らせて、頭を撫でながらという状態で、です。
……意味がわからない? 大丈夫。俺もまったく意味がわからないよ。
あのあとどうにかジズ様を冷静にしたのだけど、気づいたときには小脇に抱えられていたからね。
「それでは、「清風殿」へ参りましょうか」
ニコニコと笑いながら「清風殿」に向かうとジズ様が言ったことで、誰も俺を小脇に抱えるのはなぜというツッコミを入れることができなくなってしまった。
ジズ様はジズ様でサカイさんに「ご苦労でした」と労いの言葉を掛けていたし、サカイさんはサカイさんで「恐悦至極」と言って泣いていたからね。
……あの涙が心酔する主のダメすぎるダメな姿を見たからのものではないと信じたいな。
いや、見てもなお、ああ言えるということは、もしかしてジズ様の暴走は日常茶飯事なのかな?
しかしそれにこたえてくれる人は誰もおらず、俺は小脇に抱えられながら、「清風殿」の謁見の間に、ジズ様が腰掛ける玉座に一緒に座らされてしまっていた。
おかげでシリウスが俺を見る目が厳しいのなんの。
あれは「パパはどうしてすぐに浮気するようなことばかりするのかな?」と目で言っているね。
違う。違うんだよ、シリウス。
パパは浮気なんてしていないんだ。
ママたちを裏切ってはいないんだよ。
今回ばかりはパパも意味がまるでわからないんだよ。
今回ばかりは詐欺どころか、状況さえも掴めていないんだよ。
だからそんな目をしないでおくれ。
でもそんな俺の嘆きはシリウスに届かず、シリウスは相変わらず冷たい目で俺を見つめていた。
なんでこうなったんだろうね。パパ、マジわからん。
「ふふふ、シリウスちゃんは礼儀正しいですね。こんな娘ができるなんて、とても嬉しいですよ」
「わぅ?」
シリウスが固まった。いや、シリウスだけではなく、ティアリカさんとエレーンもまた固まっている。
けれど、俺たちを固まらせたジズ様はおかまいなしに鼻歌を歌っておいでです。
誰か弁護士ではなく、翻訳家を呼んでくれないかな? ジズ様の言いたいことがまるでわかりません。
「えっと、どういうことでしょうか?」
「うん? だってシリウスちゃんは妹ちゃんの娘ちゃん。そして妹ちゃんは私のお嫁さん。であれば、シリウスちゃんは私の娘ちゃんでしょう? 「鎮守の森」にふたりが来たのは、妹ちゃんがお姉ちゃんの嫁さんになるために、私と妹ちゃんの娘となるあなたとあとは見届け人が来たのだとばかり──」
「ご自重くださいませ、ジズ様。そしてそろそろ主様を解放していただきたいのですが」
「ダメ。妹ちゃんは私のお嫁さんなのだから! 絶対に放しません!」
ジズ様が叫びながら、俺を腕の中に掻き抱いてしまう。ふくよかなお胸様で顔が埋まってしまう。
うん、それはいいんだ。
たださ、なんで俺はジズ様のお嫁さんになっているんだろうね? まったく意味がわかりません。
「……ジズ様が仰りたいことは置いておくとしまして。今回参拝いたしましたのは、ジズ様にお許しをいただきたいことがあるのです。詳しくは、うちのパパに聞いてください」
シリウスもなんだか面倒になってきたようで、俺に丸投げしてくれたよ。
いや、わかるよ? わかるんだけど、これってどう考えても修羅場になりそうな予感しかないんだけど。
とはいえ、いまさらなかったことにはできないし、覚悟を決めましょうかね。
「妹ちゃん。私に許してほしいことってなにかな? シリウスちゃんの妹ちゃんを宿したいということであれば、いますぐにでも──」
「そういうことではなくてですね。えっと、うちの嫁たちに贈り物として「雫石」を採取したいので、その許可を──」
下手に言い繕わずに、正直に答えた。するとジズ様から笑顔が消えた。そして──。
「……どこのアバズレどもかな? 私の妹ちゃんに手を出す「嫁たち」とか言うメスどもは?」
──とても恐ろしい笑顔を、笑っていない笑顔を浮かべて、ジズ様はそう言われたんだ。




