Act8-25 似た者親子の笑顔は怖いです。
母の日の贈り物として選んだ「雫石」だけど、まさかの「グラトニー」と「清風殿」のふたつの「世界樹」でしか採取できないシロモノだったとはね。
というかさ、なんでそんな採取難易度が高いものを選びますかね?
もっと難易度が低い贈り物ってあると思うんだよね。
なのに、なんでアホエルフが占拠している「グラトニー」と「清風殿」でしか採取できないものを選ぶのかなぁ。
「てへぺろ、です」
エレーンは再びテヘペロをしてくれたが、それで済むと思っていないよね? それで済ましてもらえると思っていないよね?
「……わかっております。この不肖エレーン、この身を主様に捧げましょう」
と言ってなぜかメイド服に手を掛けるエレーン。って、ちょっと待て、コラっ!
「なんで脱ごうとするんだよ!?」
そもそも俺はひと言でも脱げと言ったか? 言っていないよね? 言っていないのに、なんでこの子は服を脱ごうとするのさ!?
「「できの悪い駄メイドには、ご主人様が直々に「教育」してやらねぇとな。へっへっへっへ」という主様の心の声を──」
「待て。なんだよ、それ? なんだよ、それは!? いつ俺がそんなことを言ったよ!?」
「ですから主様の心の声だと言ったのですが」
なにを言っているんだろう、この人は、というように首を傾げてくれるエレーン。
違う。そうじゃない。そうじゃないんだ。俺が言っているのは、俺がそんな変態じみたことを言うわけないだろうってことであって、心の声を聞いたというのを、聞いていなかったというわけじゃないんだ。
俺はそんなことをひと言も言っていないんだ。
「もちろん、わかっておりますよ? ただこうした方が主様の嗜虐心を煽って、「いい声で啼きな」と言ってもらえるかなと期待をしていただけであって──」
「……もういい。頭が痛い」
エレーンは相変わらずの変態だな。わかっていたよ。この変態メイド天使が、そう簡単にまっとうな性格になるわけがないというのは、わかりきっていましたよ。
それでも。それでもさぁ? もっとこうましになってくれると期待していたんだよね。……期待をかけすぎだったといまさらながらに打ちひしがれてしまっているけれど。
「……エレーン殿は、なんというか個性的ですね」
「わぅ。エレーンママは前々からこんな感じだったの。というかそれを言うのであれば、少し前のティアリカさんもあまり人のことを言えないレベルだったの」
「あ、あれは、あくまでも兄上のまねをしていただけであって、ですね」
「どちらにしろ、変態であったことには変わりないと思うの」
「……反論ができません」
「わふぅ。ティアリカまま、大丈夫なの。カティは、ティアリカままがへんたいさんであっても、だいすきなの」
「……フォローになっていないフォローですが、カティちゃんの気持ちは嬉しいですね」
ティアリカさんはため息を吐きつつも、カティの頭を撫でている。
カティは心地よさそうに尻尾を振っている。とても微笑ましい光景だね。
ただ、うん。変態と言われたことで、ティアリカさんがだいぶ傷ついているけれど、「ヴァン」さんだった頃は、とんでもない変態だったからね。
いまさらと言えば、いまさらだよね。
「しかし「グラトニー」では採取できないだろうし、残るは「清風殿」のものだけ、か」
さて現実逃避はここまでにして。現状母の日の贈り物として最適なのは「雫石」だけど、その「雫石」は「グラトニー」と「清風殿」の「世界樹」でしか採取できない。
けれど「グラトニー」は件のアホエルフが占拠してしまっている。残るのはジズ様の「清風殿」の「世界樹」だけ。
でも神獣様の社殿がある「世界樹」から勝手に採取していいのかな? 普通に考えたらそんな罰当たりなことをしていいとは思えないんだよなぁ。
「ああ、そのことでしたら、問題ありませんよ。ジズ様はとても温厚な方ですから。お伺いを立てたうえでの採取であれば、問題ありませんし」
「うむ。ジズ様は「六神獣」方において、一番温厚な方ですからな。きちんとお許しをいただければ、なんの問題もないでしょう」
不意に聞こえてきたのは、ふたりの上司の声だった。振り返ると、家の玄関にククルさんとクルスさん親子が、とてもそっくりな笑顔で立っていたんだ。とても嫌な予感がしますね。
 




