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Act8-16 娘にせがまれて愛を叫んだら、なぜかいつものように嫁たちに追いかけられました←

 サブタイが長いけれど、それがすべてを物語っています←

 衛兵の朝は早かった。


 ギルドマスターとしてであれば、まだ寝ていられる時間なのに、衛兵であれば、起きて仕事をしなきゃいけなくなる。


「ねむいの」


「我慢だ、シリウス」


 シリウスが目を擦りながら文句を言っている。


 でも眠いのはパパも同じなのだから、文句はだめです。なんて言えたらいいのだけど──。


「元はと言えば、パパがおバカさんなことをするからいけないんだよ! なんで私たちが衛兵にならなきゃいけないの!」


 ご立腹そうに俺の周囲をちょこまかと回るシリウス。


 実にかわいらしい光景だけど、あまりシリウスにばかり構っていると──。


「……わふぅ~。シリウスおねえちゃんばかりずるいの」


 ぷくっと頬を膨らまして、カティが不満げなお顔を浮かべていますね。


 まったくうちの愛娘ズと言ったら、なんでこうも愛らしいのやら。


 パパを萌え殺す気かい? いいよ、やってごらん。でもパパはそう簡単には萌え殺される気は──。


「カティもぱぱといっしょがいいの」


「ダメですよ、カティちゃん。ぱぱはこれからお仕事があるのですから。お行儀よく待っていましょうね?」


「でも、カティは」


 ティアリカさんに抱っこされながら、カティは耳を力なく垂れさせてしまう。


 尻尾も明らかに元気がない。


 あかん、なにこの子? 対俺用最終兵器か? 


 さっそくぱぱを萌え殺しに来ているとはね。


 カティ、恐ろしい子だ。でもそういうところも愛らしいぜ。


「ふふふ、大丈夫ですよ。しっかりいい子にしていたら、お昼には帰ってきてくださいますからね。それまでは、ティアリカままと一緒にお待ちしていましょう?」


「……わふぅん」


「うん。いい子ですね、カティちゃん」


「カティ、いい子?」


「はい、いい子ですよ。偉い偉い」


 カティの頭を撫でながら、ティアリカさんは笑っていた。それからカティの手を取ると──。


「では、ぱぱに行ってらっしゃいと言ってあげましょうね」


「……わふぅ。ぱぱ、いってらっしゃいなの」


「お帰りをお待ちしておりますね、旦那様」


 にこりと笑うティアリカさんと、涙目のカティ。その姿に衝動が駆け巡っていく。


 これが新婚さんというものなのか?


 それもできちゃった婚の新婚さんというのは、こういうものなのか!? 


 ああ、わかる。わかるよ。


 これであれば、たしかに世にいるお父様方は奮起しますよね。


 むしろこれで奮起しない父親など存在しない! 存在していいわけがない!


「パパ、目を見開いて鼻血を出すのは、マジきもいから、やめた方がいいと思うの」


 シリウスが胸に突き刺さるひと言をくれるが、いまの俺はその程度の「パパ遊び」では、崩れ落ちることはないぜ?


「……パパのくせに」


 ぷくっと頬を膨らましてご立腹なシリウス。


 パパのくせにというのは、ちょっといただけないが、でもそういうところもかわいいね。


 なんだかんだと言いつつも、シリウスがパパを大好きだってことをパパは知っているんだ。


 シリウスのツンデレはいわばご褒美です。


 シリウスといい、カティといい。うちの愛娘ズはどうしてこうもいちいち愛らしいのやら。


 パパ、マジ幸せ。


「……パパのことなんて好きじゃないもん」


 シリウスが顏を背けるも、その尻尾がふりふりと振られているね。


 まったく素直じゃないな、シリウスは。


 でもそういうところも堪らなくかわいいよ。


 世界一かわいいよ、と某王国のようにコールしたいです。


「カティは、かわいくないの?」


「カティも世界一かわいいよ! というか、うちの愛娘たちは世界一かわいいよ!」


 衝動の赴くままに叫んだ。


 ちなみに現在俺たちがいるのは、クルスさんから宛がわれた社宅という名の一軒家だった。


 社宅というわりにはかなり広い。


 部屋数が十くらいある、とても大きな家だった。


 むしろこれ一部屋にひとり詰め込めば、独身者用の社員寮にできるんじゃないかな?


 たぶんもともとはそういう用途なんだろうけれど、あえてその用途を無視して、俺たちの家にしてくれたんだから、クルスさんってば太っ腹だなと思う。


 そんな社宅の前で娘たちへの愛を叫ぶ俺。おかげでご近所さん方の目がとても生暖かいです。


 なんというか、微笑ましいものを見ているように、にこにこと笑っていますし。


 なんだろう、この居心地の悪さは? 


 単純に愛娘への愛を叫んだだけなのに、なにこの反応? 


 意味がわかりません。


 でもまぁ、問題はない。


 愛娘への想いを叫ぶことのなにが悪い! 


 たとえ悪くても全俺が許す! 


 ゆえに問題など──。


「ティアリカままは?」


「……うん?」


 カティが言いたいことがいまいちわからんよ? 


 え、なにがティアリカままは、なのかな? 


 ぱぱ、ちょっと意味がわからないよ?


「ティアリカままは、かわいくないの?」


「か、カティちゃん!?」


 ティアリカさんが驚いている。


 あ、うん、かわいいね。かわいいけれど、娘をかわいいと叫ぶこととはまた別物というか。


「……ティアリカままをかわいいといってあげないの? そんなぱぱ、カティ──」


「わかった。言う。言うから、それだけは言わないで!?」


 続く言葉がなんであるのかなんて考えるまでもなかった。


 だから慌ててわかったと言うと、ようやくカティは満足してくれたみたいだ。


「じゃあ、おおきなこえでいって? いまカティとシリウスおねえちゃんにいったのとおなじ、ううん、それよりももっともっとおおきなこえでいって?」


 見えていないはずの目がじっと俺を捉えている。


 いままではあらぬ方を見ていたはずなのに、いまだけはちゃんと俺を見つめている。


 母を想う娘の気持ちってすごいなぁと現実逃避しつつも、大きく息を吸い、俺は叫んだ。


「ティアリカままも世界一かわいいよ!」


 全力でなぜか嫁じゃないティアリカさんへの愛を叫ぶ。


 どうしてこんなことをしているのか、意味がわからない。わからないけれど、これでカティも満足して──。


「「「浮気者にはオシオキです」」」


「……デスヨネェ~?」


 家のドアが開き、中から臨戦態勢の嫁ズが登場しました。


 同時に俺は衛兵の詰め所へと向かってダッシュした。


 ダッシュしないと殺される。


 だって後ろからは嫁ズという名の悪魔たちが追いかけてくるのだから。


 逃げずにはいられない。


「わぅ。ティアリカさん、顔真っ赤なの」


「あ、あんなことを叫ばれたら、誰だって」


「わふぅ。ティアリカまま、かわいいって」


「か、カティちゃん。そういうことはですね」


「わふぅ?」


「わぅ。ママたちよりもお嫁さんっぽいかもしれないの」


「し、シリウスちゃんまで!?」


 後ろからはそんな穏やかな会話が交わされていたそうだけど、俺にはそんな会話を聞いていられる余裕は皆無だった。


「だ、ダレカ、ダレカタスケテぇぇぇぇ!?」


 嫁ズという悪魔たちに追いかけられながら、俺は絶叫をさせられることになったんだ。

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