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Act8-13 本心の言葉

 恒例の土曜日更新です。

 まずは一話目です。

「──単刀直入にお聞きします。クルスさんは、あのアホエルフが言っていた、「魔大陸」の統一は可能だと思われていますか?」


 そう、俺が聞きたいのはそれだ。


 あのアホエルフは、「魔大陸」を統一すると言っていた。


 つまりはほかの「七王」たちを排除すると言ったんだ。


 でも俺にはあのアホエルフがレアたちを倒せるとは思えない。


 けれど現実に、グラトニーさんはあのアホエルフに斃されたんだ。


 どう考えても親の七光りとしか思えない、あんなのにグラトニーさんは負けた。


 逆に言えば、グラトニーさんを斃せるなにかが、あのアホエルフにはあったということ。俺が気になっているのはそれだ。


 そもそも親の七光り野郎に、グラトニーさんが負けるなんて思えない。


 でも実際に負けたということは、あれはただの七光りではない。


 グラトニーさんにとってみれば、致命的ななにかを持っていたんだと思う。


 たとえば人質とか弱点とかね。でなければ、あんな七光り野郎に負けるようなグラトニーさんじゃないだろう。


 もしくはすべてが演技で、実際はグラトニーさんをも凌駕する実力者だったということもありえるけれど、それは最悪の想定になるから、あまり考えたくはないね。


 とはいえ、常に最悪の想定はしておくべきだから、頭の隅で想定はし続けておくべきだ。


 もっともグラトニーさんを凌駕するとなると、レアたちじゃないと太刀打ちできないってことになってしまうから、できるだけ考えたくはないというか、あってほしくないことだな。


「……昨夜までの私であれば、不可能だと言っていたでしょうね」


「いまは違う、と?」


「実際に陛下は斃されたのです。であれば、ほかの「七王」陛下も斃されてしまうこともありえるかもしれない。そう考えるのが妥当ではないかと」


 クルスさんは言葉を選びながら、本心を語っているようだ。


 プーレとサラさん、そしてタマちゃんが驚いた顔をしている。


 三人にとってみれば、クルスさんの答えは想定外のものだったんだろうな。


 だってクルスさんの言ったことは、あのアホエルフに与してもいいと言ったようなものだもの。


「蠅王グラトニー」という王が敗死した。


 であれば、同格であるほかの「七王」陛下にも勝てるかもしれない。そう思うのは当然のことだろう。


 特に「七王」陛下方のように、数千年間も「魔大陸」を支配し続けた絶対強者に打ち勝ったというのであれば、それも「勇者」という存在ではなく、市中にいただろう存在が勝ったんだ。


「七王」陛下など恐るるに足らず、と考えてしまうのも無理はない。


 増長してしまうのも当然のことだった。……クルスさんは違うけれど、ね。


「ご、ご領主様。なんてことを言われているのですか!?」


「そうですよ、それじゃ、ボクたちを裏切るって」


「……裏切りは許しませんよぉ~?」


 プーレは慌て、タマちゃんは憤慨し、サラさんに至っては殺気を溢れさせている。


 三者三様の反応を見せてくれているが、どうにも言葉尻だけを捕らえすぎているよね。


「三人とも落ち着きなよ」


「なんでそんなに落ち着ているんですか、レンさんは! いまこの人は──」


「うん。俺たちを裏切るつもりはない、と言いきってくれたよね」


「は?」


 タマちゃんがあっけに取られた顔をしている。それはプーレとサラさんも同じだ。


 でも三人を除いたほぼ全員は、クルスさんの言葉の意味を、その言葉の真意に気付いていた。


 もっともシリウスとカティはわかっていないだろうけれどね。


 カティなんて、「わふぅ?」と首を傾げているもの。そういうところも本当にかわいいよね。


「クルスさんが言ったことをもう一度言ってみようか。「ほかの「七王」陛下も斃されてしまうこともありえるかもしれない。そう考えるのが妥当ではないか」とそう言っていたよね?」


「だから、裏切るということでは?」


「ううん、違うよ。裏切るつもりであれば、わざわざそんなことを言わないでしょう? だって裏切るつもりであれば、「私は絶対に裏切りません。なにせ「七王」陛下方が負けるわけがないではないですか」とか言えばいいんだ。俺たちが信用するようなことを、耳当たりのいいことだけを言えばいい。わざわざ本心を語る必要はない。だって語ってしまったら、「私は怪しいですよ、裏切っちゃいますよ」と言っているようなものじゃんか。そんな相手を信用する?」


「……しないのです」


「でしょう? 裏切るつもりであれば、俺たちを最大限信じさせなければならない。なのにそんな裏切るつもりですよ、なんて言うようなことはしない。そんな相手を信頼するわけがない。信用されるわけがない。でもクルスさんは本心を語った。つまりは「今後そういう考えの領主と出会うこともある。常々警戒してください」と言ってくれたんだよ。俺たちを裏切らないと約束してくれたようなものなんだよ」


 極論ではあるけれど、みずから有利な立場になろうとする人って、たいていなにかしら腹に抱え込んでいることが多い。


 逆にみずから不利なことを言う人は信用できる人が多い。


 すべてがすべて、そうとは言えないけれど、クルスさんは典型的な味方になってくれるタイプだ。


 なによりもククルさんの実のお父さんなんだ。


 それだけでも信用に値する。そこから今回の本心を語ってくれたんだから、信用度はうなぎ上りだよ。


 むしろこれで信用できないとなると、いったいどういうことをすれば、信用できるのかって話になってしまう。


 とにかくプーレたちとシリウスとカティを除いた五人以外が落ち着いていたのは、そういうことだった。

 続きは二十時になります。

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