Act8-12 パパは辛いよ
「……ん。失礼いたしました」
「……いや、こちらこそ」
俺とクルスさんはそれぞれに頭を下げた。
俺はククルさんの椅子になっていたこと。クルスさんは「加齢臭」と言われて泣いていたこと。それぞれに対する謝罪だ。
そんな俺たちふたりに頭を下げさせた張本人はと言うと──。
「……わふぅ」
「……わぅ~」
「ふふふ、かわいいですね」
うたた寝をしているシリウスとカティをそれぞれ腕の中に閉じ込めてご満悦のようです。
そんなククルさんに、うちの嫁ズがジェラシーを燃やしている。
シリウスならばまだいいとしても、カティは嫁ズにはなついていないことが、より一層ジェラシーを燃やさせているんだろうね。
「うぅ、カティちゃん、かわいいのですよ」
「羨ましいですねぇ~。なんで私たちにはなついてくれないのに、ほかの方たちにはあんな簡単にぃ~」
「……ククルったら、オシオキよね。ままであるはずの私を差し置いて、あんな羨ましいことをっ!」
……三者三様の反応を見せる嫁ズ。でもレアのそれは単純に恐ろしいです。
プーレはやや涙目になっているだけだし、サラさんは羨ましそうに指を咥えているだけ。
でもレアは笑いながら、親指の爪を噛んでいた。
それだけならいいのだけど、爪を噛みすぎて血が出ているというのに、お構いなしに爪を噛み続けている。
そしてよく見ると、レアの目はハイライトが消えている。
あ、違うか。レアだけじゃなく、プーレとサラさんの目からもハイライトが消えているね、はい。
どうしてうちの嫁ズはみんなヤンデル属性があるんだろうね?
そういうところも俺は好きだけども。
まぁ、それはいいか。
いまは中断した話の続きだ。
「クルスさん。先ほどの続きですが、お聞きしたいことがあります」
「なんでしょう?」
お互いに佇まいを直してから、中断された話の続きを始めた。
普段こういうことをすると、驚かれたり、困惑されたりするのだけど、クルスさんにはそういう反応は一切ない。
……なんとなくだけど、この人とは似た匂いを感じる。
切り替えの速さといい、愛娘に虐げられる点でといい、親近感が沸くね。
「愛娘に虐げられるパパ同盟」でも設立しようかな?
「……おバカなことを考えていませんか、カレンさん? たとえば「「娘に虐げられる父親同盟」を設立しよう」とか」
か、勘が鋭いっすね。でも残念ながら、そうじゃないんだな。
「違いますよ、ククルさん。「愛娘に虐げられるパパ同盟」です! ただの娘じゃない! 愛娘に虐げられるパパだからこそ、ダメージがあるんですよ!」
「その通りだ、ククル! 我々は娘を心の底から愛するがゆえにだな!」
「……キモい」
「ごふっ!」
ククルさんの何気ない一言にクルスさんが膝を折った。なんてひどいことを! これがあんたのやり方なのか!?
「……シリウスちゃん、カティちゃん、起きてください」
「……わぅん?」
「わふぅ~?」
あ、なんかふたりを起こしたぞ、この人? いったいなにを──。
「実はおふたりのパパが、なにやらふたりの寝顔をペロペロしたいと息を荒くして見つめていてですね」
「あんた、なにを言い出すんだよ!?」
ふたりの寝顔をペロペロしたいだと!? そんないまさらなことをこんな場で思うわけがないでしょう!? 俺がするのはせいぜい寝ているふたりの頬を突っつく程度であって──。
「……そんなことをしていたんだ?」
「……ぱぱ」
──あ、あれ? なんだかふたりからの好感度がご臨終しているなような?
いやいやまさかね?
だって俺はふたりが大好きなパパであってからに──。
「パパ、クソキモい」
「くそきもーい!」
「がふっ!」
──愛娘たちからの心ない一撃が突き刺さる。
ふふふ、きれいな川が一瞬見えちまったぜ。
「……これに懲りたら、下手なことは言わないことです。次はそうですね。先ほどの「キモい」を録音していますので、それを朝耳元で連続再生するように──」
「「やめてください、しんでしまいます!」」
なんて、なんて恐ろしいことを言うんだ、この人は!?
そんなに俺とクルスさんの心を折って楽しいのか!?
「楽しいですね。シリウスちゃんとカティちゃんも楽しいでしょう?」
「パパ遊びは面白いもん」
「ぱぱあそび、カティ、だいすき!」
……無邪気な言葉が胸に突き刺さるね。見れば、クルスさんはまた泣いていた。そういう俺も泣いている。ふふふ、目頭が熱いぜ。
「そういうわけですから、さっさと話を進めてくださいね?」
優雅に脚を組みながらククルさんは話の続きを催促された。これ以上なにか言われる前に話を進めるべきだね。
「……単刀直入にお聞きします」
「……はい、どうぞ」
クルスさんの目が死んでいる。でもそういう俺の目も死んでいるだろうな。
そんなことを頭の隅で考えつつ、俺は聞きたかったことを口にした。




