Act8-7 たしかな血の繋がり
本日二十話目です。
「そういうことでしたか。街の近くで大きな魔力を感じましたもので、慌てて兵たちを連れてきたのですが、なるほど、レヴィア様方が転移なさったからとは。であればあの大きな魔力も納得できます」
ダンディーなエルフのおじさまは、顎髭をなぞりながら、しきりに頷いていた。
さっきまではなにやら臨戦態勢になっていたのだけど、どうやら誤解は解けたみたいだ。おかげで国境の街である「ベルル」に入ることができていた。
ちなみにいまの俺たちはダンディーなおじさまの後を追いかける形で歩いていた。周囲にはおじさまの護衛をしていた兵士さん方の姿がある。このおじさまは、この「ベルル」の街の領主様にして、グラトニーさんに仕える重臣のひとりでもある。
兵士さん方は、このおじさまの警護をされている。だからこそおおぜいで街の外まで出てきたわけなんだ。
その兵士さん方はおじさま同様にさっきまでは臨戦態勢だったのだけど、いまではすっかりと落ち着いてくれている。もっとも緊張状態にはあるみたいだけどね。
無理もないよね。なにせこっちには「七王」のうち四人が揃っているんだ。緊張しないわけがないよね。
でもおじさまは特に緊張もしていないようだった。
とはいえ、緊張していないのはあくまでもレアに対してだけだ。
マモンさんたち相手にはいくらか緊張しているようだ。
どうしてレアには緊張していないのかは、実に単純な話だった。
なにせこのおじさまは──。
「ところでレヴィア様、ククルは元気でしょうか? あやつと来たら、ろくに手紙もよこしませんので。新しい夢ができて、その夢に邁進しているのはいいのですが、少しくらいは実家に帰ってきてもいいのに、あのバカ娘と来たら──」
エルフのおじさまはつらつらと俺の直接の上司であるククルさんの愚痴を言っていた。
それもそのはず。このおじさまはククルさんの実のお父さんなのだから。
お名前はクルスさんで、愚痴を言いつつも、ククルさんを愛しているのがよくわかる。
俺もシリウスやカティが将来家を出て、一人暮らしをし始めたら、同じように心配するだろうからね。
気持ちはよくわかります。娘を持った親はみんな娘のことが心配するんだ。
うん、そういう意味では俺とクルスさんはいいお酒を飲めそうです。
……まぁ、俺は未成年なので酒はご法度ですが。
「ふふふ、相変らずねぇ。クルスは」
「娘を持つ父親であれば、当然のことです。だというのにあのバカ娘は、口を開けば、やれウザいだの、やれ加齢臭がするだのと抜かしよりますからな。……そのひと言ひと言で、この父の心がどれだけ穿たれているのかを理解することもなく、うぅ」
クルスさんがほろりと涙を流した。その姿に兵士さん方が「また始まった」と顔を顰めている。
どうやらクルスさんにとって、ククルさんは目に入れてもいたくないほどにかわいい存在のようだ。
……俺にとってみれば、ただの恐怖でしかないんだけど、あの人。
そんなあの人でもやはり親にとってはかわいい愛娘なんだろうね。
そんなクルスさんの姿に、レアは小さくため息を吐いた。
「……本当に相変わらずの親バカよね、あなた」
「娘がかわいくない父親がいるとお思いで!?」
「……そうね。以前であればそこまでするかと思っていたけれど、いまならよぉーくわかるの」
ちらりとレアが俺を見やる。その視線から逃れようと顔を背けたが、一瞬の間に背けた方へと回り込まれてしまった。
「逸らしちゃダメですよ? 「旦那様」」
にっこりと笑い掛けながら、レアが言い募る。どうやら言い逃れどころか、聞いていないふりさえもさせてもらえないようだ。俺がなにをしたというのだろうか?
「「旦那様」とは、そちらのお嬢さんで?」
クルスさんは驚いた顔で、俺を見やる。
なんと言えばいいのやら。
ちょっと迷っているとシリウスがなぜかクルスさんの前に出て、じっとクルスさんを見上げた。
クルスさんは不思議そうな顔をして立ち止まった。
「なにか用かね?」
「ごあいさつしておこうと思ったの」
「あいさつ?」
「うん。ククルばぁばのパパなんでしょう?」
シリウスが何気なく発した言葉に、場の空気が凍り付いた。そして──。
「衛へぇぇぇぇーい! 「エンヴィー」まで伴を用意せよぉ! 我が愛娘を手籠めにしたあげく、あの子が産んだ孫娘さえも手籠めにした狼藉者をひっとらえに行くぞぉぉぉ!」
──クルスさんは目を血走らせながら叫んだ。その姿はククルさんを容易に連想させてくれる。
「ああ、この人はたしかにククルさんのお父さんだ」
豹変したクルスさんの姿を見て、俺はしみじみとそう思ってしまった。
続きは二十時になります。




