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Act8-4 宣戦布告

 本日十七話目です。

 空に映し出されたのは、残酷な現実だった。


「……グラト」


 レアが痛ましそうに顔を歪めていた。


 歪めながらも涙を流すことなく、グラトニーさんの、変わり果てたグラトニーさんを見つめていた。


 それはレアだけではなく、マモンさんもデウスさんもそしてベルフェさんも同じだった。空に映し出された光景を見て、心を痛めているようだった。


 無理もないよね。グラトニーさんとは、もう数千年も一緒に「七王」として君臨していたんだ。


 いわば戦友みたいなものだ。その戦友の死をこうして見せられたら、なにも言えなくなってしまうんだろうな。


 そんなレアの肩に腕を回し、そっと抱き寄せた。レアはいつもなら顔を紅くするのに、いまはなんの表情も浮かべていなかった。


「見たくないなら見なくてもいいよ。俺が代りに見ているから」


「……いえ、見させてください。見なくちゃいけないんです」


 レアは気丈に振る舞った。でもそれが振る舞っているだけなのは、その場にいた全員が理解していた。


 だって俺の腕の中のレアはかすかに震えていたから。


 そんなレアをそっと掻き抱いた。


 レアが息をわずかに飲み込んだ。そして──。


「少しだけ。胸を貸していただけますか」


「嫁を慰めてこその旦那、だろう?」


 笑い掛けると、レアはおかしそうに笑った。


 でも笑った端からレアの目からは涙がこぼれていった。


 胸に強くレアの顏を押し付ける。


 レアはなにも言わない。声もあげないまま、静かに涙を流していた。


 そんなレアの姿に誰もなにも言わなかった。ただ吹き抜ける風と風に乗って香る草花の匂い、そして──。


「いまこそ。そう、いまこそ宣言しよう! 我こそは次代の「蠅王グラトニー」であると!」


 ──空気を読むことなく、馬鹿笑いしているアホエルフの声がこだましている。その姿に苛立ちを憶えた。いや苛立ちを憶えないわけがない。


 レアから教えてもらったことだったけど、「七王」は基本的には世襲制ではある。


 けれど当代の「七王」を討ち果たした者が、新しい「七王」の座につくこともある、と。


 今回の場合はあのアホエルフが次代の「蠅王」として君臨することになるんだろう。


 ……その手でグラトニーさんを討ち果たしたのであれば、ね。


 だが俺が見た感じ、あのアホエルフがそれほどの強者だとは思えない。


 もっとも強さとひと口に言っても、いろんな強さがあることも事実だ。


 たとえばレアたちみたいに一騎当千の力を持った人たちというわかりやすい強者もいれば、一軍を率いてこそ力を発揮できる強者もいる。


 だから一概にあのアホエルフが弱いとは言いきれない。


 もしかしたら、一軍を率いるタイプなのかもしれないんだ。


 その力でグラトニーさんを凌駕したというのであれば、あのアホエルフが「蠅王グラトニー」を襲名するのも理解できる。


 しかし前提を覆すようだけど、俺にはあのアホエルフがそれほどの器だとは思えないんだよね。


 むしろあれはどこからどう見ても無能タイプだろう。


 もっと言えば親の七光りタイプだ。


 親が重要な役職に就いているから、それなりの地位に立てているタイプだ。


 中には最初は親の力であっても、徐々に自分の力で上り詰めていく人もいるけれど、あれはそういうタイプではなさそうだ。なにせ──。


「ふはははは、我こそが「蠅王グラトニー」である! 無能なる先王が成し遂げられなかったことも、我であれば成し遂げられると。いや成し遂げると宣言しようではないか」


 ──こういうときに尊大アピールする輩っていうのは、たいてい小物だからね。


 そもそも大物であればレアたちも、このアホエルフが誰なのかもわかっているはずだ。


 しかしいまだにこのアホエルフが誰なのかを、レアたちが口にすることはなかった。


 つまりは取るに足らない存在としか思われていなかった、それなりの地位にいた親の七光りの小物ってことだ。


 でもその小物がグラトニーさんを討ち果たしたことは事実だ。


 小物であってもなにかしらの隠し玉を持っていることは明らかだった。


 だからこその尊大さをアピールしているんだろう。


 その尊大な自称「蠅王」様は、高笑いしながら、マニュフェストを口にした。でもそれは──。


「我は宣言しよう! 我はこの「魔大陸」を手中に収めると! そう、他の六国を統一し、この「魔大陸」の真なる支配者になることをこのときを持って宣言しよう!」


 ──殺してくれと言っているようなものでしかなかったんだ。

 続きは十七時になります。

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