Act0-8 宴の始まりは、試練の始まり~さらば、キーやん~
こちら、ス○ーク、現地に到着した。
ご苦労だった。では、今回のミッションを。
誰だ!?
うっわぁぁぁぁ。
ス○ぇぇぇェーク
と、使いまわされたネタをしつつ、こんばんは←前置き長い
今日からゴールデンなウィークなので、特別にもう一話更新します。
明日はいつも通りの一日一話になる予定です。……めいびー←ぼそり
そう言えば、PVが200突破しました。
一週間でようやくと言えばいいのか、一周で、と言えばいいのか、いまいち判断に困りますが、お越しくださり、ありがとうございます。これからも頑張ります。
次は目指せ二週間です。
では、前置きもそろそろ飽きてこられたでしょうし、どうぞ、本編に。
「みな、今日もご苦労であった。特に勇ちゃんが、とっさのアドリブができないことはわかったので、今後はしっかりと話し合いの末に、必殺技を決めようと思う」
「いや、だから、たまたま、ああなっただけで」
「本日もお疲れさまだ。みな杯を」
ラースさんが演説というか、乾杯の音頭をしていた。
その際、勇ちゃんさんが、食って掛かったというか、不満げな顔をしていたけれど、ラースさんはさらっとスルーし、手に持っていた杯を高く掲げた。
それを合図に、夕餉の場所と案内された大部屋の中にいる全員が、それぞれに持つ杯を掲げていた。不満げだった勇ちゃんさんも倣っている。俺はどうしたものかと思ったけれど、ほかの人たちが全員掲げているのに、おれだけしないのは、なんとなく気まずい。こういうとき、日本人の「右に倣え精神」は非常に効果的だった。いい意味でも悪い意味でも。
「では、乾杯!」
ラースさんの声を合図に、全員が乾杯と口にし、高らかな音を奏でていく。俺はちょうど隣にいたグラトニーさんとエンヴィーさんと乾杯させてもらった。ふたりとも、とても楽しそうに笑っていた。笑いながら、用意されている食事にと手を伸ばしている。
ちなみに食事は、立食形式のもので、さまざまな料理がところ狭しに並んでいた。パスタやピラフといった洋食や、麻婆豆腐っぽい中華らしき料理もあれば、肉じゃがらしき、和食テイストな一品まである。それだけを見ると、日本のデパートやホテルにあるビュッフェレストランを思わせる内容だ。まさに和洋折衷だった。いや、この場合は和洋中折衷とでも言えばいいのか、本当にいろんな料理が並んでいた。
正直な話、異世界料理という、未知のなにかを食わされるんじゃないか、とびくびくしていたが、地球、特に日本でお店を出しても通用しそうな内容に、ちょっと驚かされてしまう。いい意味で俺の予想を裏切ってくれたようだ。少し安心した。
もっとも使っている食材はこの世界原産のものだから、いくら見た目は地球の料理っぽくても、味までは同じとは限らない。たとえば、麻婆豆腐っぽいものだって、食べてみれば、真っ赤な見た目に反して、激甘という可能性だってある。ためしにと取り皿に麻婆豆腐っぽいそれを盛ってみた。
「……ん~。匂いは、麻婆豆腐っぽいな」
見た目に反して、甘いという可能性はなくなった。いや、もしかしたら匂いはそれっぽいだけで、味は甘いという可能性がある。実際、麻婆豆腐っぽいそれからは、辛そうな匂いはした。しかし激辛特有の鼻を刺すような痛烈な刺激臭はない。となれば、激辛っぽい見た目ではあるけれど、そこまで辛くはない。もしくは、匂いに反して甘いという可能性があった。なにせここは異世界なのだから、地球の常識は通じないと考えていいはずだ。となれば、レッツチャレンジ。麻婆豆腐の大皿近くにあった、レンゲっぽいものを取り、取り皿の中身を一掬いし、口に放り込む。同時に、痛みが駆け巡った。なぜか知らないけれど、目の辺りが痛い。ただただ痛い。その場にうずくまりそうになったところに、すっと水の入ったグラスを差し出された。差し出されたそれを取ると、俺はそのまま一気に口の中に流し込む。それでもまだ痛い。が、口の中に入っていたときよりかはまだましだった。
「ははは、なかなかに勇敢なお嬢ちゃんだな。獅子の王国産の獅子殺しを使った激辛豆腐を初見で大量に食うなんてな」
そう言って豪快に笑っているのは、金髪に赤い目をしたお兄さんだった。全身真っ赤な服を着て、胸元を露出させている。露出した胸元からは、鍛え抜かれた胸筋が見えた。いや胸筋だけではなく、全身が筋肉の鎧で覆われているけれど、ボディービルダーみたいな感じではなく、必要な分の筋肉を必要な分だけ纏っているとでも言えばいいのか。とにかく、筋肉質ではあるけれど、意外とスマートな体格をしていた。
「あ、ありがとうございます。えっと」
「お? 名前か? 俺の名は獅子王プライドという。お嬢ちゃんが食べた、激辛豆腐は、うちの国の名物でな。ラースのやつに頼んで、今日の夕餉に混ぜてもらっていたんだが、お嬢ちゃん以外は誰も食べようとしない。たしかに辛くはあるが、まずいわけではないんだがな」
お兄さん、いや、プライドさんは腕を組んで考え込んでいた。激辛豆腐。うん、まんまのネーミングだった。いや、たしかに辛そうな見た目ではあったけど、異世界なのだから、俺の常識は通じないと思ったんだが、まさかここだけは通じるとは。甘い匂いがしなかった時点で、気づけと言われそうではあるけれど、見た目に反して、匂いはそこまで辛いとは思わなかった。だから辛くてもちょっとぴりっとくる程度だと思っていたのに。まさかの激辛だったとは。これもある意味俺の予想を裏切っていた。いい意味かどうかは言うまでもないけれど。
「プライドさんですか。ん? ってことは、キーやんの飼い主さんですか?」
そういえば、キーやんが、獅子王プライドさまのペットだと自分で言っていた。ということは、この人がキーやんの飼い主さんということになる。キメラをペットにするのは正直どうかとは思うけれど。
「お? あいつに会ったのか。どうだった、俺のペットは? かわいかっただろう?」
「かわいいかどうかは横に置きますが、優しくしてもらえました」
「そうか、そうか。あとでこいつを差し入れしに行ってやるとしよう。あいつはこれが好きでな。飯に出してやると、泣きながら喜ぶんだ」
「泣きながら、ですか」
「ああ、もう満面の笑みを浮かべて、泣きながら食べてくれるんだよ。うん、あの食いっぷりは見事なものだと毎回思うぞ」
プライドさんは胸を張っていうけれど、きっとキーやんは本気で泣いているんだと思う。誰が好んで、こんな罰ゲームみたいな辛さの食べ物を好んで食べるだろうか。キーやんも本音では食べたくないんだと思う。でもプライドさんの手前、そうとは言えず、無理して食べているんだと思う。もしくは辛味を感じないうちに、食べ終えようとしているんだろう。けれどそれを見て、プライドさんが勘違いして、キーやんの大好物だと思い込んでいるというところかな。もしくは本当に泣くほど大好きなものって可能性もあるけれど、そっちの可能性はどうにも薄い気がしてならない。
「……プライド、もう何度も言っているけどな、キーやんは、激辛豆腐が好きじゃねぇと思うんだよ。むしろ苦手だと思うんだが」
「なにを言う、グラト。苦手であれば、きっぱりと苦手と言うだろうに。だがあいつは一度たりともそんなことは言っておらん。ということは好きだということじゃないか」
「私もグラトニーと同じ意見ですよ、プライド。実際、あなたが激辛豆腐をキーやんに食べさせ、あなたが去った後、ぱたりと倒れ、数時間ほど痙攣したままだった、とうちのコアルスが言っておりましたよ?」
プライドさんに待ったをかけるように、グラトニーさんとエンヴィーさんが哀れみを感じさせる表情でプライドさんの説得にかかっていた。どうやら俺の予想通り、キーやんは激辛豆腐が苦手のようだ。そもそも数時間ほど痙攣したまま動けなくなるような料理って、料理といえるのだろうか。それはもう一種の兵器といってもいいような気がするんだけど。
しかしそんな俺の、いや、プライドさんを除いた、おそらくここにいる全員が一致した答えを、プライドさんはあっさりと否定してくれた。
「いやいや、あいつはその痙攣さえも楽しんでいるのだろうよ。痙攣とは、いわば体が根をあげた合図だ。しかしそこを乗り越えられれば、次は乗り越えたところが限界となる。そうしてあいつは少しずつ限界を越えている。それを楽しみにしているんだよ。さすがは我がペットだ」
嬉しそうにプライドさんは語った。しかし、この場にいる全員、それは違うと思ったはずだ。実際俺は思った。その意見は明かにおかしい、と。だけど、それを指摘できる人は誰もいないようだった。むしろ言っても無駄だという顔を、グラトニーさんとエンヴィーさんが浮かべている。見れば、ラースさんや勇ちゃんさんも気の毒そうな顔をしていた。誰に対してのものではあるのかは、言うまでもない。
「さて、ほかに食べるやつもいないみたいだし、さっそくあいつに差し入れしてくることにしよう。お嬢ちゃん、食べるならいまのうちに確保しておけよ?」
「あ、もういいです」
「そうか? 遠慮することはないんだが」
遠慮するな、とプライドさんは言うけれど、これは遠慮ではない。生存本能が拒絶しているだけだ。キーやんのことを思えば、少しでも量を減らしてあげるべきなのだろう。けれど俺には、そんな勇気はない。食べ終わったあと、数時間も痙攣したままでいられるような勇気なんて持ち合わせてはいない。キーやんには悪いが、残りはすべてキーやんにお任せしようと思う。
ごめん、キーやん。恨むのであれば、君のとんでもない飼い主さんを恨んでくれ。この場にいないキーやんに向かって、俺はそっと心の中で十字を切りながら、そう思った。
「まぁ、いいか。では、俺は少し出てくる。また後でな、お嬢ちゃん」
プライドさんは、激辛豆腐の盛られた大皿を手に、大部屋を後にした。その後ろ姿に、俺は静かに合掌した。それは俺だけじゃなく、グラトニーさんとエンヴィーさんも同じだった。
「……キーやん、すまねぇな。俺にはプライドを止めることはできねぇ」
「コアルスに治療しておくように言いつけておきますので、頑張ってください」
グラトニーさんとエンヴィーさんは悲痛そうな顔でそう言った。
その後、プライドさんは空いた大皿を手に部屋に戻ってきた。聞けば、キーやんは食べ終わるなり、白目をむいて眠ってしまったそうだ。起こしても起きなかったので、ゴンさんに任せてきたそうだ。
うん、それは眠ったのではなく、気絶したと普通は言うと思う。あ、でも違う意味での眠りについた可能性はなくもない。……キーやんには本当に悪いことをしたようだ。