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Act7-131 「蠅の王国」へ

 本日六話目です。

 これにて第七章も終わりです。

「デウス。あなたどうして」


「レア姉。いまはデウスがここにいるよりもだぞ?」


「……そうね。デウス。いまの言葉はどういうことかしら?」


 いきなりのデウスさんの登場にレアが少し狼狽えていた。


 そんなレアをマモンさんが落ち着かせている。


 マモンさんの言葉でレアは冷静さを取り戻したみたいだ。


 そんなレアにデウスさんはいつものように鼻を鳴らすと、いくらか感情的に言った。


「どうもなにもない。実際に見てきたのだ。首都「グラトニー」が陥落するところをの」


「それって」


「グラトが負けたところを見たというか?」


 レアとマモンさんの表情がこわばった。グラトニーさんが負けるのをただ見ていただけだったのかと聞いているんだろうな。


 友人が命の危機に瀕しているのに、黙って見ていただけなのは、いくらなんでも考えられない。


 しかしデウスさんは「見てきた」とは言っても、「助けに行った」とは言っていなかった。


 つまりはただ見ていたということなのだろう。もしくは間に合わなかったか、だ。


 レアもマモンさんもそのあたりのことはわかっている。


 だから聞いているんだ。ただ見ていたのか。それとも間に合わなかったのかを、だ。


 その返答次第では、この場が荒れることになるのは目に見えている。


 はたしてデウスさんは──。


「……直接は見ておらん。が、奴らの首魁は堂々と言い放っておったぞ。「暴君「蠅王」グラトニーを討ち果たした」とな。奴らの首魁がそんなことをできる器ではないと思ったが、わざわざそんなことを言うということはだ」


「……負けたと見ていい、ってところかしら?」


「そう考えるのが妥当であろうよ。妾たちが知っているグラトであれば、そんな戯言を聞けばへらへらと笑いながら、その首魁の首を物理的に飛ばすであろうよ」


「たしかに、な。その首魁が生きていることを踏まえると、グラトが負けた、ということなのか?」


「信じられぬことではあるが、妾はそう考えておる」


 デウスさんはまぶたを閉じて、重たい息を吐いていた。


 感情を読みづらい人ではあるけれど、いまは簡単に感情を読める。


 怒りと悲しみがないまぜになって、デウスさんの胸の内に渦を巻いている。


 それはデウスさんだけではなく、レアとマモンさん、そしてベルフェさんも同じだ。


「七王」の一角が戦死した。そんな異常事態に同じ「七王」である四人が動揺するのも無理はなかった。


「ラースとプライドはどうしているの、デウス?」


 いつもの一部を繰り返す特徴的な呼び方をやめて、ベルフェさんは真剣な表情でデウスさんを見つめている。デウスさんは驚くこともなく頷いていた。


「ラースには連絡をしたが、それっきりじゃな。プライドの奴は連絡したときにはすでに国を飛び出た後であったよ」


「……あいつらしいな」


 マモンさんが苦笑いしている。でもその言葉には俺も納得できる。


 あの情に篤い王様が友人の危機を知って、玉座でふんぞり返っているわけがない。


 いまごろキーやんの背中に乗って、全速力で「蠅の王国」に向かっていることだろうね。


「……デウスさんがここに来たのは、レアとマモンさん、それにベルフェさんを呼びに来られたんですか?」


 四人の話し合いに割り込むように切り出す。デウスさんは俺を見ると静かに頷いた。


「緊急事態じゃからの。集められるだけの戦力を集めるに越したことはなかろう。であればじゃ、ほかの「七王」たちに声をかけるのは当然のことよ。いますぐ「蠅の王国」へと移動したいのじゃが」


 デウスさんはレアたち三人ではなく、俺の方を見つめながら言う。それがどういう意味なのかは言われるまでもなかった。


「俺も行かせてください。デウスさんたちよりも弱いけれど、それでもできることはあるはずです!」


「無論じゃ。そなたには是が非でも来てもらうつもりであった。いまは少しでも力が欲しい。ゆえにそなたの嫁たちにも来てもらうつもりであった。……まぁ、想定外の戦力も使用可能になったのは僥倖であったがの」


 そう言って俺からティアリカさんを見やるデウスさん。


 デウスさんもティアリカさんのことを知っていたみたいだね。


 でもいまはそんなことを言っている場合じゃない。


「行きましょう、デウスさん。「蠅の王国」へ!」


「うむ。この場にいる者のほぼすべてを連れて「蠅の王国」まで妾の力で転移しよう。よいかの?」


「はい、問題は──」


「お待ちください」


 問題はない。そう言おうとしたのだけど、それよりも早く水を差されてしまった。


 誰だと思っていると、あのいけ好かない女こと仮面の獣人カティアとか言うのが、いつのまにかゴレムスさんの家の中にいた。


「そなたは?」


「「お初にお目にかかります」、「狼王」陛下。プーレ様付きの従者カティアと申します。僭越ながら私も同行させていただきたく存じます」


「……「お初にお目にかかります」、のう? まぁ、よかろう。さきほども言うたが、いまは戦力が少しでも欲しい。来たいのであれば来るがよい」


「ありがたき幸せ」


 カティアは仰々しく膝を着いた。あー、やっぱりこの女はいけ好かん! 


 なんだ、その無駄に芝居がかったポーズは!? 


 こちとらマジモードなんだよ! 水を差すようなことをするなよ! 


 そう言いたいけれど、いまはそんなことを言っている場合じゃなかった。


「改めて、行きましょう。デウスさん!」


「うむ。行くぞ!」


 デウスさんが詠唱を始める。全員がデウスさんのそばへと、詠唱を始めるのと同時に地面に浮かび上がった魔法陣の上に立っていた。


 魔法陣の上に立っていないのは、ユシリーズさんとここの住人であるゴレムスさんだけだった。


「ドラ姉! 無茶しねえでくんろ!」


「わかっている。黙っていろ、愚妹」


「ドラ姉は相変わらずだなぁ」


 ドラームスさんも俺たちに同行してくれる。いろいろと事情があるんだよね。でも嫁になったわけではないので、そこんところ勘違いしてしないように!


 とにかく俺たちはデウスさんの力によって、「翼の王国」の「禁足地」から「蠅の王国」へと移動することになった。


 なにがどうなっているのかはまだわからない。わからないけれど、できることを精いっぱいやろう。


 決意を秘めながら俺たちは、その場から転移し、「蠅の王国」へと向かったんだ。

 いままで一番長い章になってしまいましたが、どうにか終わりました。

 六時更新より特別編となります。

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