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Act7-126 時間をください

 九月の更新祭りを始めます。

 今回は先月と同じで二十四時間更新になります。

 できるだけお付き合いいただけるとありがたいです。

 まずは一話目です。

「……ずるいですね。大将は」


 しばらく黙っていたティアリカさんが口にしたのは、そのひと言だった。


 ずるいと言いながらも、ティアリカさんはおかしそうに笑っている。その表情は憑き物が落ちたかのように、どこか晴れやかなものだった。


「なんだ。いまさら気づいたの? 俺はとんでもなくずるい奴だよ?」


「ふふふ、ご自分でお認めになられますか」


「否定する意味もないからね」


「なるほど。であれば、お認めもしますか」


 ティアリカさんは笑っている。思わずドキッとしてしまうくらいに、その笑顔はとてもきれいだった。


「……なんだか、「旦那様」が見惚れているような気がするのですよ」


 ……違う意味でドキッとさせられてしまった。でもいまは振り向かない。


 振り向いたら心臓が止まりそうだもん。だから振り向かないまま、ティアリカさんを見つめることにした。


「……手前は、カティちゃんのことを愛おしく思っております」


「カティのこと、すきってこと?」


 こてんと首を傾げるカティ。やっぱり視線はあらぬ方向へと向いているけれど、その仕草をティアリカさんはとても微笑ましそうに見つめている。


「ええ、好きですよ。カティちゃんのことが大好きです」


 ティアリカさんの言葉に、カティが満面の笑顔を浮かべた。


 花が咲いた笑顔っていうのはこういうことを言うんだろうなと思うほどに、カティの笑顔はとてもかわいらしいものだった。


「カティも! カティもね、ティアリカままのことが」


「なのでちょっと待ってくださいね」


「わふぅ?」


 ティアリカさんの言葉の返事にカティも自分の気持ちを語ろうとしていたけれど、ティアリカさんに止められてしまった。


 カティは不思議そうに首を傾げるけれど、ティアリカさんはそんなカティに申し訳なさそうな表情を浮かべていた。


「……カティちゃんのことは大好きですが、それが娘への想いなのか、それともかわいい子ゆえのものなのかが、まだ手前自身もわかっていないのです。だから、少しだけ時間をくださいな。この胸の想いがどういうものなのかを確かめたいのです。決して長い時間はいただきません。少しだけ時間がほしいのです」


 それはティアリカさんの嘘偽りのない正直な気持ちだというのはよくわかった。


 カティを愛おしく思っていることは本当だけれど、でもそれがどういう意味での愛おしさなのかがわからない。


 だからこそ確かめたい。それは決しておかしなことではなかった。……バカ正直だとは思うけどね。


 だってさ、正直なことを言う必要なんてないじゃん。あえて本心を隠して、話を合わせるだけにしても、何の問題もないのに、この人はバカ正直に自分のいまの気持ちを口にした。


 適当にはぐらかすのではなく、カティを思えばこそ、あえて正直に自分の気持ちを語った。よく言えば誠実。悪く言えば不器用だ。


 でもそういう姿勢はとても好ましい。そしてそれは──。


「……じかんをあげればいいの?」


「はい。ほんの少しだけ時間をください」


「カティのこと、きらいにならない?」


「ならないとお約束します」


「……やくそくだよ?」


「はい、約束いたしましょう」


「わかった。カティ、がまんするの」


 ぎゅっと服の裾を掴みながら、カティは俯いてしまった。


 いま気づいたけれど、カティはいつのまにかちゃんとした服を着ていた。


 グレーウルフのときにシリウスが着ていた服とは、まるで違う服だ。


 かと言って、いまのシリウスが着ている服とも違う。


 どことなくティアリカさんが着ている服に似ているような?


「……カティ。いまさらなんだけど、その服はどうしたんだい?」


「わふぅ? ティアリカままがくれたの」


「ティアリカままが?」


 ティアリカさんに顔を向けると、ティアリカさんは静かに顔を反らした。


 よく見ると冷や汗を掻いているような。……なんとなく事情を察することができた気がするよ。


「……いつまでも外套姿なのはかわいそうかと思いまして、ちょちょいと仕立て上げたのです。ありあわせの素材なので、大した性能ではございませぬが」


「その割にはだいぶ気合が入っているような気がするけれど?」


 カティの服は色とりどりの刺繍が入っていた。その刺繍ひとつひとつに魔力がこもっているような気がするけれど、きっと気のせいだろうね。……気のせいってことにしておこうかな。


「な、なんですか!? なにが言いたいんですか、大将!?」


「いや、いろいろと屁理屈こねていた割には、ちゃんとままをしているなぁって」


「そんなことは」


「そんなことはあるんじゃないの? いやぁ、ティアリカもすっかり「まま」の顏をするようになったね、うんうん」


 能天気な声が不意に聞こえてきた。見れば、大きなあくびを掻いたベルフェさんがにやにやと笑いながら立っていたんだ。

 続きは一時になります。

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