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Act7-125 本心の言葉を

「手前は、鍛冶王にも剣仙にもなってもいいのでしょうか?」


 ティアリカさんは、ためらいがちに口を開いた。


 ティアリカさんにとってみれば、いままでの生き方を変えろと言われたのだから、ためらうのも無理はない。


 そもそも他人の生き方を、もったいないからと言って変えさせようとするのって、いま考えてみればとんでもないわがままだなと思うよ。


 でも俺はあえてそのわがままを貫きたい。


 だって最高の鍛冶師と凄腕の剣士が同時に俺のところに来るってことになるからね。


 経営者として見ても人件費がそれだけ浮く。


 でもそれ以上に、見てみたいんだ。ティアリカさんが剣を振るう姿をもっと見ていたい。


 だからこれは俺のわがままだ。


 でもそのわがままをティアリカさんは、聞いてくれるようだ。


 ならもう一押ししようか。


「ティアリカさん次第だよ。あなたが鍛冶師としても、剣士としてもありたいのであれば、そうすればいい。でも俺としては」


「大将としては?」


「カティがティアリカままに懐いているから、最低でもティアリカさんとしてはいてほしいかな? まぁ、ティアリカさんがカティを好きじゃないというのであれば、仕方がないけど」


 ちらりとカティを見やると、カティの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。


「ティアリカまま、カティのこと嫌い?」


「ひ、卑怯ですよ、大将!?」


「卑怯結構! 娘の笑顔のためならパパはなんでもします!」


「……そのせいでカティを泣かしたら意味がないと思うけど」


「元も子もないだぁよ」


「外野しゃらっぷ」


 シリウスとゴレムスさんがなにやら呆れているが、いまはそういうことを言いたいんじゃないんだよ!


「パパなんて嫌い」


 シリウスが頬を膨らまして顔を背けた。外野と言われてご機嫌ななめになってしまったみたいだ。


 む、胸が痛い。死にたくなるくらいに痛いが、いまは我慢だ、俺!


「と、とにかく、娘のためなら俺はなんだってするんだよ、こふっ」


「……吐血しながら言われると、説得力がスゴいですね」


 やれやれと肩を竦めながらも、ティアリカさんは足元のカティを、涙目になって見上げているカティを見つめた。


「カティのこと嫌い?」


「……嫌いではありませんよ。カティちゃん」


「本当に?」


「ええ。とても愛らしいと思っていますよ」


 目線を合わせられる高さにまで屈むと、ティアリカさんはカティの頭をそっと撫でくれた。


 灰色の耳には優しく触れながら、カティの髪を、まだ少しだけボサボサな髪をといていく。


 カティは心地良さそうに耳を動かしている。


「……逆に聞いてもよろしいですか? なぜ手前が「まま」なのでしょう?」


「カティのままは嫌なの?」


「そうではないのです。ただどうして手前なのかなと。手前とは昨日会ったばかり。なのになぜ手前をと思ったのです」


 ティアリカさんの疑問はさっき俺がカティに尋ねたのと同じものだ。


 さっきは「ティアリカままだから」と言われたから、今回も同じかなと思ったのだけど、カティは少し考え込む顔をしてから言った。


「ティアリカままから、本当のままと同じ優しい匂いがしたの」


「手前から、ですか?」


「わふぅ! だからティアリカままをままだと思ったの!」


 カティは元気よく頷いた。目が見えないから、少しずれたところへと頷いていたけど、ティアリカさんに向かって頷いたことには変わらない。


「……ですが手前は、カティちゃんの本当のお母様では」


「いいんじゃない? 本当とか偽者とか、そんなのは関係ないよ」


「大将」


「大事なのは、当人同士の気持ちでしょう? 相手を母親と思うか、娘と思うかってことが大事なわけであって、血縁とかは関係ない。あなたはカティを娘といるのかってこと。この子を愛しく思えているのかってことが大事なんだから」


「愛しく思えているのか、ですか」


「うん。どうなの、ティアリカさん」


 少しずるいと思うけれど、こうでも言わないとこの人は本心を語ってはくれないだろうからね。


 さて、これでお膳立てはすんだ。果たしてどうなるのかな?

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