Act7-85 嫌な予感
本日六話目です。
恋香との舌戦が硬直状態に陥ろうとした、そんなときだった。
急に地面が揺れたんだ。いや地面というか、「禁足地」全体が揺れ出したというか。とにかく大きな地震がいきなり起きたんだ。
地震自体、いきなり起きるものだけどね。もっとも地震のメカニズム自体は単純なものだ。
地下深くにあるプレートが、重なり合うことでひしゃげてしまったプレートが元に戻ろうとした際に起こる衝撃。それが地震だ。
日本が地震大国と呼ばれているのも、ちょうどひしゃげたプレートが複数集まったところに日本があるからだ。
諸外国で地震の被害が大きくなりやすいのも、諸外国ではあまり地震が起きないため、耐震建築があまりされていないという事情もあるみたいだけど。まぁ、それはいい。
いま大事なのは、この世界に来て初めての地震を経験したってこと。これがただの地震であれば、俺も気にはしない。
でもこの地震はなんかヤバい気がする。どうヤバいのかは説明できないけれど、なにかよくないことが起こりそうな気がする。
その前兆として起きたって感じがするんだよね。どうしてそう思うのかは説明できないんだけどさ。
「いまの地震は」
『……なにやら不穏ですね』
「恋香もそう思う?」
『ええ。ほかの地域であれば、私も気にはしませんけど、この「禁足地」で起きたというのであれば、話は別です』
恋香もきな臭さを感じたようだね。
しかしここでだから、か。地震自体はすでに治まっていた。
結構大きな地震だったけれど、揺れている時間は強さの割には短すぎる。
地震っていうのは強ければ強いほど、発生している時間も長くなるものだけど、いまの地震は立っているのがやっとなレベルだったのが、ほんの一瞬だけ起こった。そのほんの一瞬というのが気にかかる。
もしかしたら似ているけれど、似て非なるなにかが起きたってことなのかもしれない。そのなにかはいまのところさっぱりわからない。でもなにかが起こるのであれば──。
「っ、また!」
『どうやらなにかが起きてしまったみたいですね』
──地面が再び揺れた。それも揺れるのと同時に吐き気を催すような臭いが沸き起こっていく。
夏場のゴミ捨て場の臭いが、暑さで発酵された臭いの方がまだましだと思えるほどにこの臭いはきつい。
でもこの臭いには憶えがあった。いや、忘れられない。だってこの臭いは──。
「あのときのラスティの臭い?」
そう、この臭いはあのときのラスティの、巨大なアンデッドと化したラスティが発していた臭いだ。
忘れることなんてできない臭いだ。カルディアを目の前で喪ったときの臭いだもの。忘れられるわけがなかった。
「息女。あのときとは?」
不意にドラームスさんの声が聞こえた。この人、いままでどこにいたんだろう?
って言っている場合じゃないな。ドラームスさんはこの臭いを知っているみたいだ。
「……カルディアって嫁がいたんです。でもその子は巨大なアンデッドと化した、その子の伯父さんと戦って傷ついてしまった。それが直接の死因というわけではないけれど、きっかけを作ったんだ。そのとき、その伯父さん、ラスティはこれと同じ臭いを発していた」
「理解。その伯父さんという者は、「カオスグール」と化していたと思われる」
「「カオスグール」って?」
『神代における最悪の化け物のことです。もともとは戦うほどに強くなる性質を持った生物が、なにかしらのきっかけでグール化したことにより、その性質が悪性化したのです。そうして産まれたのは、食えば食うほど強力になる「カオスグール」と呼ばれる化け物になったのです』
「そんな存在にラスティが」
プライドさんの手であっさりと消滅してしまったけれど、たしかにあのときのラスティは最悪と謳われてもおかしくない化け物にはなっていた。
でもあのときのラスティが神代の化け物と同じ存在になっていたなんて。
でもどうしてラスティはそんな化け物になっていたんだ?
正直ラスティは獣人ではあったけれど、戦闘向きではない、いわゆる文官タイプの獣人だった。
そのラスティがカルディアをあそこまで傷つけられるほどの化け物にした誰かがいるってことなのだろうか?
考えられるのはアイリスだった。あの女がなにかをやったに違いない。ということは今回もアイリスの手によるものなのだろうか?
「否。ここに限っては誰かの手によるものではない。なにせここ「禁足地」にはその大元が眠っている」
「ということは、神代のカオスグールがここに?」
「是。しかし聖上により破壊されたはず。残っていてもせいぜいわずかな肉片だけであり、そのうえ聖上の張られた結界により、増殖しないよう処置されているはずなのだが」
ドラームスさんも現状を把握できていないみたいだ。
しかし結界ね。もしかして「禁足地」に魔物がいないのもその結界によるものなのかな?
「是。正確には魔力を常に発するような存在が入れなくなる」
「どういう風にですか?」
「自分たちでは到底かなわない恐ろしい魔物に襲われたという幻覚を見せて、みずから傷付けさせるというものである」
「……なんか聞いたことがある内容だな」
「ですねぇ~」
それってワイバーンや竜族たちが言っていた内容じゃないか?
たしかゴレムスさんのようなゴーレムに襲われたと言っていたけれど、あれって幻覚だったのか。
どおりでゴレムスさんが俺たちを見ても攻撃を仕掛けてこないはずだよ。
まぁ、俺が母さんの娘だということもあるんだろうけれど、実際はゴレムスさんがワイバーンと竜族たちに攻撃を仕掛けていないわけだ。彼らが勝手に傷ついたってだけなんだろう。となるとだ。
「嫌な予感がするなぁ」
『奇遇ですね。私もですよ』
「……下手にプライドだけがあるみたいでしたからねぇ~」
俺と恋香、そしてサラさんの意見が見事に一致した。どう考えてもあの人やらかしそうなんだよなぁ~。
「誰のことを言っている?」
「「「光の長老の息子」」」
どう考えてもあの人、ベルフェさんに叱られっぱなしではいられないタイプだろうし。
となるとひとりでも乗り込んできそうだ。その結果、結界を発生させている要みたいなものを破壊したとか。
「ああ、ありえそうで怖い」
「ですねぇ~」
『生真面目さんってやらかすときは徹底的にやらかしますからねぇ~』
三人の意見がまた一致するのと同時に、どこからともなく獣の雄叫びが聞こえてきたんだ。
どうやらあってほしくない予想通りになってしまったっぽいなぁ。
続きは六時になります。




