Act7-80 心の底の願い
お待たせしました。
八月の更新祭り、24時間Ver開始です。
まずは一話目になります。
「「旦那様」! 「旦那様」はいずこにぃぃぃ!?」
「れ、レア姉、落ち──」
「落ち着けるか、このこんこんちきが!」
「いや、意味がわから──ぎぃやぁぁぁ!」
……朝早くからこんにちは、プーレなのです。
現在レア様が朝から暴走中なのです。おかげでマモン様という犠牲が早くも出てしまっているのです。え? どういう風な犠牲なのか、なのです?
……人生知らない方が幸せなこともあると私は思うのですよ。いま繰り広げられている光景はその最たるものだと私は思うのです。
筋骨隆々な男性がとてもきれいな女性に頭をわしづかみにされて、高速で振り回されるとか、そんなありえない光景なんて知るべきではないのです。
あ、とはいえ、決してレア様がマモン様に同じことをなさっているというわけではないのです! 決してそんなことをレア様はされていないのですよ!
ただ、その「旦那様」を心配するあまり、くるくるとされているだけなのです。
そうくるくると回転されているだけなのですよ。
決してもう片方の手でゴレムス師匠の頭をわしづかみにして回転されているわけではないのです。
そう決してゴレムス師匠が「ぷ、プーレちゃん、助けてくんろぉぉぉ」と叫ばれてはいないのです。
ええ、そんな光景は決して目の前で繰り広げられているわけではないのですよ!
「プーレママ、現実逃避しすぎだよ?」
シリウスちゃんの言葉がぐさりと胸に突き刺さります。たしかに。そう、たしかにこれは現実逃避かもしれないのです。
でも現実逃避をしたらいけないという法律は「魔大陸」の各国にはないはずなのですよ。だから現実逃避をしても問題はないのです!
「……パパみたいなことをプーレママも言うんだね」
「それは「旦那様」のお嫁さんですから、あ」
し、しまったのです! 言葉を間違えてしまったのですよ!
シリウスちゃんは一見平静としていますが、目元に隈ができているのです。
どうも昨日の夜に、サラさんと一緒に「旦那様」がお部屋を出て行かれてから、シリウスちゃんは一睡もせずに「旦那様」のお帰りを待っていたそうなのですが、「旦那様」は結局帰ってこられなかったのです。
もしかしたら先に食堂に来ているのかと思ったそうなのですが、食堂どころかゴレムス師匠のお家のどこにも「旦那様」はいらっしゃいませんでした。
それは「旦那様」にデートのお誘いをされたサラさんも同じです。
おふたりを最後に見たのはシリウスちゃんであり、それ以降は誰もおふたりを見かけていないのです。
そのせいなのか、シリウスちゃんは──。
「……わぅ~。パパ」
──シリウスちゃんの尻尾が力なく垂れ下がっています。耳も同じなのです。
いつも元気にピコピコと動いているはずなのに、いまは見る影もなく落ち込んでしまっています。
いや、ただ落ち込んでいるだけならいいんですけど、シリウスちゃんったら──。
「やっぱり、私が悪い子だから捨てられちゃったのかな。いい子じゃない私はいらないと思われちゃったのかな?」
──これなのです。どうも「旦那様」に捨てられてしまったと勘違いしてしまっているのですよ。
あの「旦那様」がシリウスちゃんを捨てるなんてあるわけがないのですよ。
そもそも「旦那様」がシリウスちゃんを嫌うどころか、シリウスちゃんに嫌われると考えただけで卒倒するのが「旦那様」なのですよ?
その「旦那様」がシリウスちゃんを捨てて消えてしまうなんてあるわけがないのですよ。
シリウスちゃんもわかっているはずなのですが、状況が情況だからか、私たちの話をまるで聞いてくれていないのです。
「シリウスちゃん。さっきから言っていますけど、そんなことはないのですよ?」
「でも、ならパパはどこに行ったの? パパはちゃんと言うもん。どこに行くって言ってから行くもん。なのに私になにも言わずにどこかに行っちゃったんだもん。だからパパは。パパは」
シリウスちゃんが涙目になりました。さっきから涙目になっていましたけど、いつこぼれてもおかしくないほどにシリウスちゃんの目は涙でいっぱいになっています。
「パパ、ごめんなさい。いままでのこと全部謝るから、出てきてよ。もう意地悪なことしないから、素直になるから、また頭を撫でて」
わぅと鳴きながら、シリウスちゃんはついに泣き出してしまったのです。
そんなシリウスちゃんを私は抱きしめてあげることしかできません。情けなくて私も泣きそうなのですよ。
「……どこに行かれちゃったんですか、「旦那様」」
レア様を止めることも、そしてシリウスちゃんの涙を拭ってあげるのも「旦那様」にしかできないのですよ。
だからさっさと出てきてください。レア様は最悪いいとしても、シリウスちゃんを慰めあげてほしいのです。
「早く戻って来てください、「旦那様」」
泣きじゃくる愛娘を抱き締めながら、いなくなってしまわれた「旦那様」に、私は心の底からのお願いを口にするのでした。
続きは一時になります。




