Act7-76 似た者親子
『それで「旦那様」はちゃんと「刻」属性を覚醒されたんですかぁ~?』
いまさらなことですがぁ~、ちょっと気になりました。
いえ、胸に開いていた大穴がなくなっているのですから、問題はないと思いますけどね。それでも気になるものは気になるのですよぉ~。
というか本当に大丈夫ですよねぇ~? 一応穴は見えませんけれどぉ~、母神様の言うことはなんだかいまいち信用できないんですよねぇ~。
『失礼ねぇ~。あなたが愛する香恋の母である私を信じなさい!』
『……「旦那様」をお慕いすることと母神様を信じることは別物だと思うのは私の気のせいですかねぇ~?』
『気のせいよ、気のせい。うん、気のせいダヨ?』
『なんで片言ですか』
『気にしたら負けよ、サラちゃん』
うん、やっぱり信用できませんねぇ~、この人。というかおとぎ話の母神様のご活躍が急に色褪せてしまいますねぇ~。
本当にこんな人が開闢の剣である「空破」の使い手なんでしょうかぁ~?
「空破」と言えば鍛冶師の憧れなのです。
それはもう一本の神剣である「ベルフェスト」も同じなのです。
というか神器自体が鍛冶師にとってみれば憧れの逸品ですからねぇ~。
私も鍛冶師の端くれとして、神器作成は夢ですからねぇ~。
もっともそのためには神鋼と謳われる「オリハルコン」を作らないといけないわけですがぁ~。
そもそもそこから無理なんですけどねぇ~。
だって「アダマンタイト」を超える硬度に「ヒヒイロカネ」さえも及ばない柔軟性を誇る金属なんて、どうやって鍛えろと言うんですかねぇ~?
あ、でも鍛冶王様であればできるのでしょうかぁ~?
なにせあの「ヴァンデルグ」や「クロノス」を鍛え上げた鍛冶王様のご子孫様ですからねぇ~。
もしかしたら「オリハルコン」の生製法もご存知なのでは?
いや、そもそもここには母神様がおられるのですから、「オリハルコン」の生製法をご教授していただくべきなのでは──。
『ん~。教えてあげてもいいんだけどねぇ~。いろいろと規則が決まっているから無理なのよ、ゴメンね』
謝られてしまいました。どうやら一足飛びで「オリハルコン」にはたどり着けさせてもらえないみたいですえぇ~。
まぁ、さすがに「旦那様」のお母様とはいえ、この世界の想像主である母神様が一鍛冶師である私にそこまでサービスをしてくれるわけもないですから、無理もないですねぇ~。
『いや、別に教えられるのよ? ただ、どうやってもいまのあなたたちじゃそこまでたどり着けないからね』
『? どういうことでしょうかぁ~?』
いまの私たち? たちということは「旦那様」のお力も必要と言うことなのでしょうかぁ~? 「刻」属性が必要とかなんですかねぇ~?
でも覚醒したのであれば作れそうな気もしますけどねぇ~。
『いろいろとあるのよ、サラちゃん』
『いろいろですかぁ~』
『ええ、いろいろと、ね』
母神様はそれ以上はなにも言われませんでした。私もなにも言わずに「旦那様」に抱っこされたままでしたが、「旦那様」が立ち止まるのとほぼ同時に母神様は言われました。
『まぁ、いろいろと天然な娘だけど、よろしく頼むわね、サラちゃん』
『言われなくてもお支えしますよぉ~、「お義母様」』
『あら、はーとを忘れているわよ?』
『言いませんからぁ~』
『つれないわねぇ~』
そんな当たり障りのない会話を交わすと「母神様」はまたねとだけ言い残されると念話を切られてしまいました。
突然話しかけてきたと思ったら、突然切ってしまうのだから、本当に自由なお方です。でもそういうところも──。
「あー、やっと着いた」
──私の大好きな「旦那様」にそっくりです。本当に親子だなぁと思いながら、「旦那様」の腕の中から「旦那様」を見上げるのでした。




