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Act7-72 喧嘩するほど仲がいい

 サラさんを抱えての移動は苦じゃなかった。


 むしろ嬉しいとさえ思える。というか、安心できるというか。サラさんが生きてくれているのがわかって、すごく安心できる。


 なにせ目の前で胸に穴を開けられてしまったのを見てしまったんだ。また俺は守れなかったのか、と無力感に包まれてしまったもの。


 でもサラさんは生きている。いまもちゃんと呼吸をしてくれている。ただ目を醒まさないんだ。


 恋香が言うには「刻」属性の力で一気に治療させてしまった影響が出ているのではないかということだった。


『「刻」属性で治療できるのは、あくまでも怪我までです。それまでに消耗した体力は戻りません。そこは治療魔法と同じです。まぁ、治療魔法自体が「刻」属性の力を内包したもの。つまりは「刻」属性から派生したものであるのだから、「刻」属性でできないのであれば、治療魔法でもできないのは当然のことですが』


 恋香はさも見知ったかのように、とても自信満々に話していた。治療魔法が「刻」属性から派生したということを俺が知らないと思っていたんだと思う。けれど残念なことに俺は知っていた。おかげで恋香が「なんで知っているんですか!?」とうるさかった。


 でも今回は恋香に助けてもらったみたいなので、いつものようにスルーはしなかった。


 スルーはしなかったけれど、適当に相手はした。まぁ、スルーしなかっただけでもいいかなと思う。


「理解。息女方の仲、良好なり」


 ……ドラームスさんがまさかのぶっこみをしてくれた。


 ちょっと待とうか?


 誰と誰が仲がいいと?


 俺とこの脳内ピンクが仲良しだと?


 ドラームスさんの目は節穴かな?


『ちょっと待ちなさい、ドラームス! 私とこの脳内むっつりのどこが仲がいいと!?』


「それは俺のセリフだよ、この脳内ピンク!」


 ほら、こうして言葉と言葉で殴り合いを行うほどには、俺と恋香の仲は険悪なわけであって──。


「喧嘩というものは同じレベルでしか行われない」


 ぐさりと胸に突き刺さる言葉を投げ掛けられてしまった。


 突き刺さりすぎて口の中が、血の味になってしまったもの。恋香も「ごふっ」と言っているし。いまのドラームスさんの言葉は俺たち双方に対して、とんでもない破壊力だったという証拠だね。


「そしていまの一連の流れを見る限り、ご息女方はよくいまのようなやり取りを行っていると思われる」


「……否定は」


『悔しいができません。香恋がさっさと私にプーレたちをNTRさせればいいものを──』


「だからふざけたことを抜かすなと言っているだろうが、この脳内ピンク!」


『はっ! ふざけたこと? いずれそうなるという事実を口にしたまでですよ!』


「上等だよ、この野郎!」


 頭の中にいる恋香に向かって中指を立ててやった。恋香は恋香で、俺に向かって親指を下にしただろうけど。


 上品ぶったことを言うくせに、そういうことをするあたり、こいつの底は見えたようなものだね。


 この残念ピンクめ!


「是。やはりご息女方は仲がいい」


「どこがですか!?」


『こんな脳内むっつりと仲がいいなんて、反吐が出そうなんですけど!?』


「そっくりそのまま、返してやるわ!」


『なんですと!?』


 恋香が怒りを露にしているけど、そんなことはどうでもいい!


 いま大事なのは、この色ボケをこてんぱんにのしてやることであってからに──。


「常にいまのようなやり取りを行われているのであれば、仲がいいと断定されても無理はない。喧嘩するほど仲がいいとも言う」


 ──ぐうの音も出ないような言葉を投げ掛けられてしまった。


 ドラームスさんの言葉に俺も恋香も同時に止まってしまう。


 まぁ、そりゃ憎しみ合うほどに険悪というわけではないよ?


 しょっちゅう喧嘩をしてしまうことはたしかだし、その分だけ仲は悪いと思うし。


 でも決して仲がいいというわけでは──。


「ドラームスさんの言うとおりですよぉ~?」


「サラさん?」


『気がついたのですか?』


「ふふふぅ~、いまだってほぼ同時に声をかけてくれましたしぃ~。おふたりが仲良しさんなのは、みんな知っていますよぉ~? けほけほ」


 咳き込みなからサラさんは笑っていた。


 その際、わずかにだけど血を吐いていた。傷は塞がったけど、回ってしまった血まではどうしようもないみたいだ。


「大丈夫?」


「……大丈夫とは言えませんねぇ~。胸に大穴を開けられてしまいましたから。でも臓器に傷がつかなかったのは幸いでしたぁ~」


 サラさんは笑いながら、咳き込んでいた。よくみるとサラさんの顔色はあまりよくない。血の気が少し足りないのか、いつもよりも青白かった。


「臓器は傷ついていない?」


 見た感じ、臓器も関係なく胸を穿たれたと思ったのだけど、サラさんが言うには臓器を掠めもしなかったみたいだ。まるで臓器を避けて、胸に穴だけを開けたようだ。


 いや、穴が開く程度に細胞同士の結合をほどいたという方が適切かな?


「……なんでそんなことをしたのかはわかりませんけどねぇ~。あたたた」


 不意にサラさんが胸を押さえた。傷が開いたのかと思ったら──。


「う、うぅ~。「旦那様」に揉んで、もとい擦ってもらわないと治りそうにないですねぇ~、ちらり」


 ──なんてバカなことを言ってくれました。


 心配をかけるなという意味合いを込めて、頭を殴ってあげた。


「あいた!」とサラさんは頭を擦っていたけど、無視です。


「さっさと行きますよ、お嫁様」


「はぁい」


 ちぇ~と唇を尖らせるサラさんを見下ろしながら、次はないようにしたいと。今度は守りたいと俺は決意しながら、ドラームスさんの言う平地へと移動を続けたんだ。

 TwitterでもUpしていますが、8月の更新祭りは昨今の自分の在り方に喝を入れるため、8/31(金)に毎時更新の予定です。できるかどうかはわかりませんけど、見守っていてくださると嬉しいです。


P.S.「スロウス」の城に残っていたはずのプーレがいつの間にか合流していましたので、7-50に少し手を加えました。混乱させてしまい、申し訳ありません

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