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Act7-71 開かずの扉

『香恋!』


 誰かの声が頭の中に響いた。


 誰の声だったでしょう?


 よく覚えていない。


 聞き慣れた声ではあるけど、誰の声なのかはわかりません。


 いったい誰の声だったでしょうか?


 まぁ、どうでもいいんですけどね。


 この場にいるすべてを、「サラ」以外のすべてを無に還せばいいのです。


 無に還せば、「サラ」はもう傷つかないでしょうし。


 うん。それが一番です。


 だからさっさと──。


『いい加減にしなさい、香恋!』


 あぁ、うざったいですね。


 誰ですか、「私」の頭の中でごちゃごちゃと抜かすのは?


 そっちこそ、いい加減にしてくれませんかね?


『私のまねをしているのでしょうが、いい加減にしてくれませんかね? 肖像権違反で訴えますよ?』


 は? 誰がまねをしていますか? ふざけたことを言わないでくださいよ。


『ふん。その口調は私のまねでしょう? 私に敵わないから、私のまねをした。つまりはプーレやレアたちを私に譲ると、NTRしていいと言っているのと同じで──』


 ふざけたことを抜かしているんじゃねえよ! この脳内ピンク! 誰がおまえにそんなことを──。


『……なんだ、言えるじゃないですか。あなたらしくなりましたね、香恋』


 あれ? この声は恋香? っていうか、いままで俺なにを?


『はい。恋香ですよ。いい加減寝ぼけていないで起きてくださいね』


 寝ぼける。


 なんのことを──。


『いいからさっさとまぶたを開きなさい!』


 恋香の声とともに前を見る。


 無数にいたゴーレムたちが、すべてスクラップになっていた。


 いやゴーレムたちだけじゃない。廃棄場が、ゴーレムだらけではあったけど、荒れてはいなかったはずの廃棄場自体が、荒れ果てていた。


 壁はところどころが崩れていたし、地面は底の見えない穴が空いていた。その見えない穴の近くには傷つききったサラさんが横たわっていた。


「サラさん!」


 慌ててサラさんの元へと向かう。体を揺さぶろうとして、サラさんの胸には穴が開いていたことを思い出した。


 まずは傷を治さないと。でもあんな大怪我を治せるような治療魔法は俺には使えない。使えても初歩の「治癒」くらいしか使えなかった。


 それでもやらないよりかはましだった。


「とりあえず、「治癒」を使って」


『ああ、大丈夫ですよ。必要ありません』


 サラさんの胸の傷へと「治癒」を使おうとしたけれど、なぜか恋香に止められてしまった。


 必要がないというのはどういうことなのかはさっぱりわからない。いったいなんで必要がないなんて──。


『だってもう治っていますからね』


「え?」


『論より証拠です。胸を見てごらんなさい』


 恋香の言うことを聞くのは癪ではあったけれど、言われた通りサラさんの胸を見ると、開けられていた穴はすっかりと塞がっていた。


 いや穴だけじゃない。それ以外の大小さまざまな傷もすべてがきれいに塞がっていた。


「いったい、これは?」


『そりゃあ、あれだけ「刻」属性の力を行使すればね。というかあれ以上使っていたら、かえってサラの身が危なかったほどです。過剰回復一歩手前でしたから』


「「刻」属性? 俺が?」


 母さんしか使えないはずの力を俺が使った? 


 あ、でも正確には兄貴たちも使えるんだよな。


 母さんの血を分けた子供であるから、俺や兄貴たちが使えても不思議ではないんだよね。


 もともと俺は「刻」属性の片鱗は使えていたわけだし。


 でも使えていたのは片鱗までであって、それは半神半人と化したいまでも同じだった。


 その「刻」属性を俺がいま使っていたのか。ちょっと信じられないな。


『「開かずの扉」を無理やりこじ開けられましたからね。……これからのことを踏まえてなんでしょうが、本当に甘い人ですね』


「え?」


『独り言です。気にしないでください』


 恋香がなにかを言っていたから聞き返したのに、なぜか不機嫌になってしまった。いったいどうしたんだろう?


『それよりもサラを抱えて、安全なところに移りましょう。ここは穴やゴーレムだらけで物騒すぎます。いいところはありますか? ドラームス』


「是。ここより少し離れた場所に平地あり」


 不意にパタパタと翼がはためく音が聞こえてきた。


 振り向くとなぜかドラームスさんが子竜形態で飛んでいた。というか、いままでどこにいたんだろう?


「ドラームスさん、いままでどこに?」


「TYPE-Gたちの輪の外に飛ばされてしまっていたので、合流できなかった」


「いったい、いつ?」


「それは」


『細かいことは後でいいですよ。それよりもまずは休みましょう』


 恋香に呆れ声で言われてしまった。でも事実だ。いまは事実確認ではなく、サラさんを休ませることが先決だった。


「案内よろしく、ドラームスさん」


「是。任された」


 ドラームスさんが頷くと、俺たちはサラさんを抱えて、休める場所へと移動を始めたんだ。

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