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Act0-73 友達 その九

四回目の更新となります。

次は十六時です。

 後ろから追いかけて来る、ダークネスウルフどもが俺を疲弊させる役だとすれば、この先にはあのダークネスウルフどものボスがいるはずだ。


 ダークネスウルフ自体がCランクの魔物だった。


 そのダークネスウルフを束ねている以上、ただのダークネスウルフとは思えない。


 ダークネスウルフの強力な個体なのか、それともさらに進化した個体なのかまではわからないけれど、一筋縄ではいかない相手であることは間違いない。


 そいつが待ち受けているであろう、この街道をこのまま突っ走ったところで、挟撃を受けるだけなのは、目に見えていた。


 かと言って、森の中に入るのは危険だった。


 あの先遣隊の連中が出てきたのは、森だった。


 つまり森はやつらのテリトリーということになる。ただでさえ、数の上では劣勢だというのに、さらに不利になるような真似はしたくない。


 けれど、このまま突っ走っても、結局は同じことだ。


 あいつらの虚を衝くことができれば、まだなんとかなるかもしれないが、その方法が思いつかない。


 まだ体力には余裕がある。


 でもいつまでも戦い続けられるわけじゃない。


 どこかで体力の限界は訪れる。その前にあいつらをどうにかできればいいのだけど、こっちの都合に合わせてくれるわけもない。


 絶体絶命と言える状況だった。


 まだ立ち止まって戦った方がよかったのかもしれない。まだ生存率が高かったかもしれない。


 だが、あのときはこんなことになるとは思ってもいなかった。


 もしくは、あのとき、あの先遣隊のリーダーの行動から、この状況を予見できていれば、まだましだったかもしれない。


 たらればを言っても意味がないのはわかっている。


 だが、なにかひとつ違えば、逆転の可能性はあったはずだ。けれど、いまのままでは、その逆転の可能性は万に一つもない。


 せめて、こっちにも戦力があれば、どうにかなったかもしれない。


 モーレを守りながらでは、どうあっても生き残れるとは思えない。


 だけど、守ると言ったんだ。モーレを守るって。


 だから、できるかぎりのことはする。たとえば、モーレを逃がすために俺が囮になるとかね。


 でも、そのためにはダークネスウルフどもを、引き付けなきゃいけない。


 俺ひとりであれば、戦い抜ける可能性はある。


 だが、戦い抜くために、モーレを逃がすっていうのはどうだろうか。


 悪くない案ではあるけれど、他の魔物に襲われてしまったら、意味がない。それでは守ったことにはならない。


 守るためには、モーレのそばにいなければならない。


 けれど、守り切れるかもわからない。八方ふさがりに近い状況だった。


 どうしたものか。


 現状を好転させる糸口が掴めなかった。


 それでもいまは走ることしかできない。そうして走り続けていると、後ろから唸り声が聞こえてくる。


 ダークネスウルフだった。


 だが、いままでとは違い、一匹ではなく、二匹いる。


 一匹一匹では大して疲弊させられないと踏んで、二匹送り込んできたのだろう。


 Cランクの魔物を捨て駒にするとか、普通ありえないが、有効な手段ではあった。


 舌打ちをしつつ、脚に風属性を再度付与させ、跳び上がった。


 頭上から一匹の頭を右足で踏み砕く。


 そのまま右足を支点にして、後ろ回し蹴りを、もう一方の個体めがけて放った。


 ダークネスウルフの顏が半分になった。顔の半分を失ったダークネスウルフは、静かに倒れた。


「これで十九頭目か。もうじき二十頭の大台だね」


 ため息を吐きつつ、走り出す。


 後ろから追いかけられている以上、立ち止まるわけにはいかない。


 後ろの連中を殲滅できればいいのだけど、数がどれくらいいるのかがわからない。


 二十頭近くを削っても、減らないってことは、その数倍はいるってことになる。下手したら、百頭くらいいるんじゃないか。


 Cランクの魔物が、これほどの規模で群れを作るとか、悪夢だ。そもそもなんでこの規模のダークネスウルフが発生しているんだろうか。


 自然に進化する個体がいたとしても、せいぜい数年に一頭程度だろう。それが百頭近くいるなんて、どう考えてもおかしい。


 でも、どんなにおかしいと声高に叫んだところで、現状が好転するわけじゃなかった。


「悪い夢なら、醒めてほしいよ」


 そう、ため息を吐いた。そのとき。モーレがぽつりと呟いた。


「……もしかして、これは幻覚なのかも」


「は?」


 モーレが呟いた言葉を理解できなかった。


 いや言葉の意味はわかるけれど、口にした内容があまりにも突拍子もないものだった。


 幻覚なわけがないだろう。


 なにせさっきから俺はダークネスウルフたちを倒している。


 肉を裂き、骨を砕く感触がある。生臭い血を浴びている。これらすべてが幻覚なわけがなかった。


「考えてもみてよ、カレンちゃん。これだけ大規模なダークネスウルフの群れが、自然発生したというのであれば、蛇王がとっくに討伐隊を編成しているはずだよ。でも首都では、そんな話は一度も聞いたことがない」



「それは、たしかに」


 そう、こんなにもダークネスウルフがいるというのは、明らかに異常だ。


 これがブラックウルフの大群であれば、多対一でも余裕で勝てる自信があるし、俺じゃなくても、Cランクのクランであれば、生き残ることは十分に可能だ。


 念のために、同ランクのクランでユニオンを組めば、まず負けないだろう。ブラックウルフ程度であれば、国が動くことはない。


 しかしダークネスウルフが大規模な群れを作ったとすれば、国家規模での「討伐」になる。


 それほどの危険度だからこそ、Cランクの魔物に認定されているんだ。そのダークネスウルフが大量発生したとすれば、あのエンヴィーさんなら、とっくに手を打っているはずだ。


 しかし討伐隊の編成はされていない。


 少なくとも俺は聞いたことがない。


 あのエンヴィーさんが、こんな危険な状況で手をこまねているわけがなかった。


 単純に集まるだけ集まってから、一蹴しようとしているのかもしれないが、そうであるのであれば、少しくらい動きはあるはずだ。けれどエンヴィーさんは平然としていたし、ククルさんも慌てている様子はなかった。


 あのふたりの様子からして、考えられるとすれば、人為的なものか、エンヴィーさんも気づかないほどの速さで大量に自然で進化したということか、もしくはダークネスウルフが大量に発生した、という風に見せられているか。


 人為的なものは、さすがにないだろう。


 ここまでのダークネスウルフを人為的に進化させるというのは、ありえない。そもそもそんなことをしてなんのメリットもないし、下手をすれば襲われて死ぬだけだ。


 エンヴィーさんが気づくよりも早く、大量に進化したというのもまた同じだ。


 そんなことが起これば、もっと大事になっているだろうし、ダークネスウルフだけではなく、森に棲むほかの魔物にも同じことが起きているはずだ。そうなれば、被害が大量に出る。


 けれどそんな大量の被害報告はない。


 そもそもエンヴィーさんが気づくよりも早く、自然に進化したということ自体がありえない。


 自然に進化するのは、せいぜい数年に一頭程度。それが百頭近く進化したとすれば、森の生態系がおかしくなっているはずだ。


 でも森は例年と変わらないみたいだ。となれば、やはり大量の自然進化はありえない。


 ありえるとすれば、モーレが言った幻覚ということになる。


 けれどそんなことをされた憶えはなかった。


 そもそもいつ幻覚をかけられたというのだろうか。というか、俺とモーレに幻覚をかけて、なんの意味があるのか。


「メリットはあるんじゃないかな? 餌を得られるっていうさ」


 モーレが呟いた。餌を得られる。


 つまり俺たちが餌ってことか。


 人間ではありえない発想だった。ということは、相手は魔物と言うことになる。


 魔物が幻覚を使っている。聞いたこともなかった。けれどモーレには心当たりがあるようだった。


「ダークネスウルフの上位種のナイトメアウルフであれば、できると思うよ」


 ナイトメアウルフ。悪夢の狼ね。


 たしかに現状は悪夢のようだ。ダークネスウルフが大量発生しているなんて、どう考えても悪夢だろう。


 だが、これが本当に悪夢であれば、幻覚の類であれば、話は別だ。

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