Act7-66 窮地
今日の更新は一話のみとなります。
ご了承ください。
一斉に動き出したゴーレムたちは、迷うことなく俺たちに攻撃を仕掛けてくる。
それもたちが悪いことに連携してだ。がむしゃらに殴ってくるだけかと思ったら、袋小路に追いやるためだったり、複数のゴーレムが同時に突進を仕掛けてきたと思ったら、本命は退路の先で待ち構えていたゴーレムによるダブルスレッジハンマーだったりと、一切気が抜けない。
というか殺意が凄まじい。
生き残れば認めるとか言っておきながら、生き残らせる気なんてないだろうとしか思えない。さっきから動き続けることを強いられていた。
加えて、サラさんとドラームスさんを抱えている現状が、より一層窮地を招いている。とはいえ、サラさんを放り捨てることなんてできるわけがない。
俺はもう誰も目の前で喪いたくない。だからサラさんを放り出すことなんてことはありえない。いまはただ動き回ることで血路を開くしかなかった。
そうして俺が血路を開く間、こうなる原因を作った当の本人は、一体のゴーレムの肩に乗って、俺が奮闘する様を優雅に観戦している。
「あははは、なかなかやるじゃない。でもまだまだよ。もっと楽しませてちょうだいな」
手を叩いて楽しそうに笑う女性。見た目は美人だけど、中身はてんで残念だ。残念で残忍な人だ。それでいて母さんとそっくりというのが気に食わない。
まるで母さんを侮辱されている気分だ。母さんはこの人みたいなことはしない。母さんは優しい人だ。
だからこんなことはしない。するはずがない。だからこの人は母さんじゃない。
「あらあら? それはどうかしらね? 「母神スカイスト」という存在は、とても残酷よ? 「母神スカイスト」は自分が望む結果を得るためであれば、なんだってするのよ? 相手を騙すことなんて当たり前、相手を唆し、親友や兄弟であろうとも殺し合わせるなんてこともできる。あの子はそういう子。あなたはあの子の表面の部分しか見ていないだけよ、「香恋」」
くすりと女性が笑う。母さんの声だ。顔も姿も声も。すべてが母さんのものだ。全部が全部俺の知っている母さんそのものだった。
でも違う。俺が知っている母さんとほとんど同じであっても、この人は母さんじゃない。母さんであるわけがない、と心が叫んでいた。
「違う! 母さんは、「母神スカイスト」はそんな人じゃない! あの人は少しずれているけれど、お転婆で天然な人であるけれど、あなたが言うようなことなんてしない!」
「へぇ? 実際に会ったこともない母親なのに?」
女性はにやりと笑った。それは母さんがしない笑顔だ。なのに見た目が見た目だから、母さんがしていると勘違いしてしまいそうになる。
言われたことは反論しづらいことだ。実際俺は母さんと会ったことはない。
言霊で何度か話をしているけれど、触れ合ったのはそこまでだ。
それでもわかるものはわかる。母さんがどういう人なのかは、たった数回の会話だけでも十分にわかる。
「俺は母さんを信じる! だって俺は母さんの娘だ! だから母さんを信じられる! 母さんはあなたの言うようなことは絶対にしないって。そう言い切れる!」
はっきりと、目の前の女性に対して言い切った。すると女性の顏から表情が消えた。それがまた恐怖を煽るけれど、こんなことくらいじゃ俺はもう止まらない。
「生意気な子ね。あの子に会ったこともないくせに、私が愛するたったひとりの妹に会ったこともないくせに、なにが信じるよ。ふざけないでくれない? 殺したくなるね。そう──」
──こんな風に。
女性の姿がいきなり掻き消えた。そう思ったときには首を絞められていた。
「くすくす、オシオキ程度じゃ全然足らないね。あなたには「躾」が必要ね、カレンちゃん」
にやりと女性が笑い、俺の首を片手で握りしめていった。自分の口から出るかすれた呼吸音を聞きながら、両手が塞がった俺は為すすべなどなにもなかった。




