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Act7-62 ホムンクルス

 ロボット。ドラームスさんはたしかにそう言った。


 ドラームスさんは嘘や冗談の類を言うタイプじゃない。


 ということは、本当にロボットってことなのか? 異世界なのに? ファンタジー系の異世界なのに? ロボットなの?


「息女。あくまでも貴女の世界で言えばだ。我らがロボットというわけではない」


 ドラームスさんは歩みを止めない。歩みを止めないまま、俺が考えていたことをはっきりと否定した。


 ロボットではないけれど、俺がわかりやすいように言えばロボットということなのかな?


「是。その認識で合っている」


 振り返りながらドラームスさんは頷くと、今度はサラさんを見つめた。


「奥方。貴女にわかりやすく言えば、ロボットという存在は、我らのように自然界ではおおよそ発生しないであろう存在のことを指す」


「それがろぼっと、ですかぁ? 魔物でもなく、本来存在しないはずの存在ですかぁ」


「是。その認識で概ね合っている」


 ずしんと足を踏み鳴らしながら、ドラームスさんは歩いていく。その足音はメカやロボットが歩く際の機械音とはまるで違う。俺やサラさんたちの足音とほとんど変わらない。


 背中の装甲だって鉄や鋼でできているのではなく、岩でできたものだ。とはいえ、普通の岩とは違って、触れるとかなり滑らかで、手触りがよくて、ずっと触れていたくなるようなシロモノだった。


「ホムンクルスとは違うんですかねぇ~?」


「似て非なる存在と言える」


「そうなんですかぁ~?」


 サラさんが首を傾げながら俺を見つめている。


 ロボットとホムンクルスか。たしかに人が作りだした存在という意味合いは同じだ。


 けれどその実情はまるで違う。


 ロボットはあくまでも非生体の存在。対してホムンクルスは生体の存在と言う違いがある。


 ロボットは見た目からしてロボットというか、メカメカしい雰囲気を全身から放っている存在だ。


 けれどホムンクルスの見た目自体は人とさほど変わらない。


 でもどちらも中身は見た目に反して未熟であることが多い。


 ホムンクルスはこの世界でまだ出会ったことのない存在だから、この世界での実情はわからないけれど、精神的に未熟、ないしは精神的に不安定な存在というイメージが強い。


 少なくとも俺の認識では、作られた存在だからこそという精神的な欠陥がある存在だった。


 ロボットはと言うと、大手の携帯会社が作ったロボットを見るかぎり、最初は登録された行動しかできないけれど、徐々に学習し成長していくという過程が存在している。


 もっとも学習し成長していくというのは、人間でも同じだけど、ロボットの場合はそれがより顕著に感じられる。


 ロボットもホムンクルスもどちらも人の手で生み出された存在ではあるけれど、こうして考えてみると似て非なる存在というのは、あながたち間違ってはいないな。というかそういうしかないというか。


「そうだね。ロボットもホムンクルスも人の手で生み出された存在という意味合いであれば同じだ。けれど実情はだいぶ違うんだ。そもそもホムンクルスは見た目は人とさほど変わらない。でもロボットは見た目からして人とはまるで違う存在なんだよ。ドラームスさんやゴレムスさんのように骨肉ではなく、岩や金属でできた存在なんだよ」


「ふへぇ~。なるほどぉ~」


 サラさんは不思議な声をあげながら頷いている。でも絶対に理解していなさそうな気がするよ。


 というか俺でもいまの説明だけでは理解できないだろうから、無理はないと思うけどね。


「そうだな。サラさん、この世界のホムンクルスってどういう存在なの?」


 もう少し説明してもいいんだけど、それはこの世界のホムンクルスのことを知ってからでもいいと思う。


 むしろそうした方がより説明しやすくなる。


 情報というのは重要なものだからね。それを知るのは決して悪いことじゃない。


 ホムンクルスと出会うことなんて、そうそうありえないことだとは思うから、ただの無駄骨になる可能性は高いけれど、知って損することでもないはずだ。


「ホムンクルスですかぁ~。そうですねぇ~。「旦那様」の世界ではどうなっているのかはわかりませんがぁ~。この世界では基本的に色白というか、色素が薄い存在ですねぇ~」


「病的に真っ白ってことかな?」


「ですねぇ~。見た目だけで言えば、人魔族と共通するところが多い種族ですねぇ~」


「あぁ、そう言えば」


 アルトリアを始めとした人魔族はみんな真っ白な髪や肌に赤い瞳の持ち主で、そして共通して美形という話だ。


 実際アルトリアは見た目かなり美人さんだ。その分ちょっと精神的に子供っぽいところもあるけれど、それもアルトリアの個性でもあった。


「ただ人魔族とは明らかに違うのはぁ~。その精神の未熟さですかねぇ~」


「あー、こっちの世界でもそうなんだ?」


「ええぇ~。ホムンクルスは本来の手順を踏まずに生み出された存在だからなんでしょうかねぇ~。精神的に闇を抱える者が多いのですよぉ~。たとえば、どんな手段を用いてでも自分が欲しいと思ったものは、無理やりでも手に入れるとかぁ~。認めた者以外は認めないどころか、存在を否定さえもしてしまうようなぁ~。そんな危なっかしい精神の持ち主が多いんですよぉ~」


「認めた者以外は認めない、か」


 サラさんの言葉をオウム返しするように口にしながら胸騒ぎを抱いた。


 でも、まさかね。そう、まさかだ。そんなことはないと思う。


「「旦那様」、どうされましたかぁ~?」


 サラさんが不思議そうに首を傾げている。


 ちょっと様子がおかしいと思われてしまったのかもしれない。


 いけない、いけない。動揺しすぎだね、俺。そんなことがあるわけがないというのに。


「なんでもないよ。それで他には特徴があるの?」


「そうですねぇ~。人魔族に非常に似ているのですがぁ~。人魔族は基本的には色白や白髪、赤目になることが多いのですがぁ~。ホムンクルスは例外なく色白、白髪、赤目になるのです。顏自体は人魔族に輪をかけて美形になりますのでぇ~。かえって神聖化されることも少なくはないようですねぇ~」


「……そっか」


「どうかされましたかぁ~?」


「……なんでもないよ。なんでも」


 不安がぬぐえない。不意に生じた不安が心の中で広がっていく。でもありえない。ありえるわけがない。それだけを考えていく。


「ん~?」


 サラさんは納得していなさそうだけど、どう説明していいのかがわからなかった。なにも言わないということしか選択できなかった。


「そろそろ見えて来る」


 不意にドラームスさんが言う。いまのところなにも見えてはいない。


 けれどたしかにこの先にここを出る方法がある。


 それがなんなのかはわからない。わからないけれど、いまは心の中に芽吹いた不安から目を逸らしたい。そう思わずにはいられなかった。

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