Act7-60 年下の「旦那様」に翻弄される私
サラさん視点です。が、今回も閲覧ちゅーい回です。……なぜだろう←汗
ズルい。
ズルい、ズルい、ズルいのですよ。
どうして私ばかり一方的に攻め込められなきゃいけないんでしょうか?
「旦那様」はとても余裕があるというか、とても意地悪ですし。
というか、カッコよすぎじゃないですかね?
いきなり抱き抱えられるとは思っていませんでしたので、完全に不意打ちでしたよ。
おかげで醜態を連続で晒すことになるなんて、考えてもいなかっですし。
でも、「旦那様」があっさりと私を抱き抱えてくれたとき、すごくどきっとしました。
もともと落とされちゃっていましたけど、あれでより一層落ちちゃいましたよ、私は。
「サラさん。サラさんの位置から見えるものってある?」
颯爽と歩きながら、私を見下ろす「旦那様」は、いつものかわいらしいお姿とは、まるで違っています。
漆黒の瞳は吸い込まれるほどにきれいですし、瞳と同じ色の髪は風が吹けば、抵抗なく流れていきます。それらは普段通りの「旦那様」です。
でも私を、上背も体重も勝っている私を軽々と抱きかかえられていることを考えると、胸が高鳴ってしまいます。
私の腕よりも細い両腕なのに、私が力を込めて掴めばそれだけで折れてしまいそうなのに、脆く頼りなさそうな腕が、いまはとても力強くそして逞しく感じられる。
ああ、ダメですねぇ。「旦那様」にこうして抱きかかえられていると考えるだけで、私どうにかなっちゃいそうですよ。
できることなら、柔らかそうなところに寝かさせてもらったうえで、圧し掛かってもらいたいです。……ご寵愛をいただきたくてたまらないのです。
そのご寵愛をいただいているレア様やプーレちゃんがすごく羨ましいです。
こう見えても竜族なので、体は頑丈だから、どんなことをされても問題はありませんし、すべて受け入れられる覚悟はあるのです。
「サラさん?」
ああ、ダメです。顔を近づけちゃダメですよ。ここに落ちるまでの続きをしたくなっちゃいますから。
「旦那様」の前で産まれたままの姿になりたくなってしまいます。
きっとここに落ちなかったら、私はあの場で服を脱いでいたでしょうね。
そして近くにある部屋に連れ込まれて、「旦那様」の「女」になっていたと思います。
「旦那様」からはよく考えてほしいと言われていますけど、私の気持ちは変わりません。
姉様からは「旦那様」がどういう方なのかは教えてもらって、そのうえで太鼓判を押してもらっています。
「カレンちゃんさんならぁ、安心して預けられますねぇ~。ちょっと抜けているし、ちょっとスケベですし、ちょっと無鉄砲な人ではありますがぁ~、お嫁さんを幸せにすることにおいて、カレンちゃんさんの右に出る人はいないと私は思っていますからねぇ~」
姉様はいつもの間延びをした話し方をしながら、嬉しそうに、でもどこか寂しそうに笑っていました。
あれがどういう意味なのかをわからないほど、私はもう子供じゃない。
「……幸せにしてもらいなさい、サラ。私のかわいい妹」
姉様は私を抱き締めながらそう言ってくれました。
爺様はまだ言ってくれていませんが、姉様曰く「とっくに認めていると思いますよぉ~」とのことでした。
あの爺様が、うざったいくらいに爺バカな爺様が、私が愛している方とはいえ、「旦那様」を認めているとは思えない。
そう姉様に言うと姉様は「まだまだそういうところが子供ですねぇ~」と言われていました。
でも無理もないと思うんですよね。
竜族として生きてきた時間はそれなりですが、人間で換算すると私はまだ十代ですからねぇ~。
それも「旦那様」とそこまで年齢が変わらないくらいですもの。
まぁ、「旦那様」よりもいくらかお姉さんではありますけどねぇ~。
だからなんでしょうかね。姉様が言うように爺様が「旦那様」を認めてくれているとは、とてもではないけれど思えないのです。
むしろ姉様の勘違いじゃないかなと思うくらいです。
でも、あの姉様が勘違いをするとは思えない。ということは爺様は本当に──。
「聞いている? 「サラ」」
いつもよりも低めの「旦那様」の声が耳元で聞こえてくる。ぶるりと体が震えてしまいそうです。
普段は穏やかな「旦那様」の目が、いまは少し鋭く、とても意地悪そうな光を宿している。
この目で「裸になれ」と岩田ら、きっと私は抵抗することもなく、言われるままに服を脱ぎ捨てるでしょうね。
……ダメですねぇ~。どうも発想がピンクすぎますねぇ~。
これじゃレア様や恋香さんのことをとやかく言えませんねぇ~。
ちょっと落ち着きましょうか。まずは深呼吸を──。
「聞いているって言ったんだけど?」
「旦那様」のお顔がすぐ近くにまで迫ってきました。ごめんなさい、と謝るよりも早く、「旦那様」が唇を奪ってきました。それも口の中に舌を入れて、です。
「旦那様」の舌と私のそれが絡み合う。
水源なんて見当たらない場所で、響くはずのない水音がこだましていく。
私と「旦那様」がそれを奏ででているのだと思うと、頭が沸騰しそうだった。
「返事は?」
息継ぎも忘れて、いいえ、息継ぎさえ許してもらえずに「水音」を奏で合って、どれだけ経ったのか。
口元からこぼれた唾液が、お互いのものが入り交じった唾液が、私の首筋を伝っていった。伝った唾液を「旦那様」が舐め上げてられてから、私を見つめられました。
頭の中がぼんやりとしている。呼吸ができなかったというのもあるのだろうけれど、それ以上に「旦那様」に与えられた熱が私の思考を麻痺させている。
「……返事は?」
返事をすることができないでいると、「旦那様」が啄むように首筋を吸った。
ちくりとした痛みが走る。なにをされているのかは、なんとなく理解できていた。
「ごめん、なさい」
「謝れって俺は言ったっけ? 俺の話を聞いていなかったって言っているようなものだよね、それは? オシオキしないとダメかな?」
くすりと「旦那様」が笑い、おもむろに私の服に手を掛けようとして──。
「……誰ぞ?」
──不意に誰かの声が聞こえてきたのです。私と「旦那様」は慌てて声の聞こえた方を見やる。そこには──。
「誰ぞ?」
──ゴレムスさんと同じ、しかしどこか竜族を思わせるナニカが私たちを見ていたのでした。




