Act7-51 断腸の想い
昨日の更新でお伝えしたとおり、本日は一話だけとなります。
ご了承ください。
「本当の本当にっっっ! 心配したんですからね!?」
「……ハイ、ゴメンナサイ」
「れ、レア様。もうそのあたりでなのですよ」
「プーレちゃんは黙っていなさい!」
「ひ、ひゃい」
大自然の中で絶賛正座中な俺。理由は実に単純で俺が倒れたことでレアに心配をかけさせてしまったからだ。
もちろん心配をしたのがレアだけだったとは言わない。「スロウス」の城に残っていたプーレも駆けつけてくれた。ほかのみんなだって、心配をしてくれていた。その中でも一番心配してくれたのがレアだったというだけのこと。
いや、だけのことというのは失礼か。
レアは誰よりも俺を心配してくれた。
一応はレアの旦那様だからね、俺は。だからある意味では、レアの心配は当然と言えば当然のことだ。
愛する人を心配しない人なんていない。
だからこそ、レアの心配は当然ではある。
それでも心配をしてくれていたことは素直に嬉しかった。かなり不謹慎であることには間違いないけど。
「聞いておられますか!?」
「は、はい! 聞いています!」
「いいえ、いいえ! 絶対に聞いていませんでした!」
怒り狂ったかのようにやや食いぎみに向かってくるレア。勢いがすごすぎてちょっと怖い。でもよく見ると目の端に涙が溜まっていた。
……俺って本当にバカだな。
なにが当然なもんか。なにが嬉しいだ。バカも休み休み言えよ。
あのレアが、いつも気丈なあのレアが泣いているんだぞ?
それを当然? 嬉しい?
よくまぁそんな最低なことを言えたもんだ。我ながらバカすぎる。
でも気づけたのであれば修正すればいい。
まだ手遅れというわけじゃない。
ならやり直せるはず、だ。
レアに嫌われでもしていない限りは──。
「嫌われる?」
「え?」
──レアに嫌われる。
そう考えただけで冷や汗が出た。動悸もするし、めまいさえ起きてしまう。
「あ、あの?」
レアがなにやら困った顔をしている。そういうレアも素敵にきれいだけど、いまはそれどころじゃない!
「う、うぅ~」
「え、あの、なんで泣いているんですか?」
しどろもどろになるレアを見やりながら涙が止まらなくなってしまう。
レアに嫌われた。そう考えただけでも涙が出てしまった。
好きな人に嫌われるってこれほど嫌なことなのか。
初めて知ったよ。
これはたしかに嫌だよ。
嫌というか悲しいな。こんなにも悲しいことってあったんだな。
「うぅ、れあ~」
「あ、はい。なんでしょう?」
「嫌わないで」
「……は?」
唖然とした顔で、レアが止まった。
レアにとっても衝撃的な言葉だったということなのかな。
でもいまは細かいことはどうでもいい!
「もう心配をさせないから、嫌わないでください」
正座からの土下座に移行しながらのお願い。
……端から見たら浮気男ないし甲斐性なしが奥さんにすがっているとしか見えないだろうけど、なんと思われてもいい! 他人からどう思われようと知ったことか!
レアに、嫁に嫌われないためであればなんだってやってやる!
かなり怖いけど、デウスさんのおでこに「ロリババア」と落書きだってレアが望むのであればしてくるよ!
「いや、たしかに痛快ですが、それをしたら「旦那様」が死んじゃいますよ?」
「それ以前にボクが許さないのですよ?」
そんなの知っているよ!
でもそういう心意気だということを知ってほしいのですよ、俺は!
レアのためであれば、死地へ赴くことだって構わないもん!
「……であれば、私だけを愛してくださいますか?」
「え?」
「私を正妻、いいえ、嫁を私だけにしてください」
レアは本気なのか、それとも冗談なのか、わからないことを言い出した。
笑っているし、目も笑っている。
ただひとつ、雰囲気だけがとても真剣だった。
茶化すことはおろかごまかすことさえできないと考えさせるほどに、レアの雰囲気はとても真剣そのものだった。
真剣には真剣に返す。それが礼儀だ。相手がたとえ嫁であったとしても。いや嫁であるからこそ、真剣には真剣で返すべきだ。真摯に答えるべきだ。
いままで考えたことはなかったけれど、レアだけが嫁か。考えようによっては、それはそれでありなのかもしれない。
いまの中途半端なハーレム状態よりかは、ひとりに決めてその人だけを愛するというのはありだ。むしろそれが当然であり、普通なんだ。
いままでの俺のありようの方がおかしいだけであって、本来であればたったひとりの女だけを愛すればいい。
いままでの歪な関係よりもひとりっきりを愛する方がはるかに健全だし、誰にも文句を言われることもない。
たとえば目の前にいるレアだけを愛するとすれば、たぶんいままでのような胃痛には悩まされなくなる。
女王であるレアの正式な夫となれば、それだけで俺の生活は安定する。
いまでも十分すぎるほどに安定しているけれど、いままでのものよりもはるかに安定した生活と苦労することのない日々が待っているはずだ。
その分束縛は当然のようにあるだろうけれど、その分レアとの蜜月な日々がある。
下世話になるけれど、夜のレアはすごいけど、その分とてもそそられるんだ。
それこそ昼間は強者であるレアが、ベッドの上では俺に太刀打ちできないほどには。
とてもそそられるし、レアを抱いているとすごく幸せな気持ちになれる。
だからそんなレアだけを嫁にするというのは、そういう意味でもいいと思う。
嫁たちの中で一番体の相性はいいと思うし。
それにレアであれば、どんな倒錯的なことをしても一緒に楽しんでくれそうな気もする。
とはいえ、そういうことをしたいというわけではなく、そういうことにもしもなったとしても引くこともせずに付き合ってくれるかなってだけのこと。
……どちらにしろ意味合いは同じかもしれないけど。
とにかく、レアであればどんな俺でも受け入れてくれるだろうし、どんなところでも隣にいてくれると思う。俺を誰よりも支えてくれると思う。
レアは、レヴィア=エンヴィーという人はそういう女性だから。
そんなレアを正式な嫁にすれば、きっと俺もレアも幸せになれると思う。
きっと幸せな結婚生活を送ることができると思う。
でも──。
「それはできないよ、レア」
そう、それだけは俺にはできない。断腸の想いで、レアの願いを切り捨てた。
続きは明日ですね。十六時に更新できるかな?




