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Act7-46 本人の前で言っていいこと悪いこと

 地面を踏み鳴らす音は徐々に近づいて来ている。


 まだ一度っきりであれば、空耳と言える。けれど一度だけじゃなく、何度も踏み鳴らす音は聞こえてくる。木々に止まっていた鳥たちが飛び立つ音が聞こえている。


 木々を押し倒す音は聞こえてこないから、自然を破壊しているわけではないんだろう。


 加えて鳥たちは飛び立ってはいるけれど、一斉に飛び立ったわけではない。一斉に飛び立ったにしては、数が少なすぎる。


 飛び立ったのはせいぜい数十というところ。一斉に飛び立ったにしては、だいぶ少ない。


 単純にこの足音の主が通るのを邪魔しないために飛び立ったように、その道を譲ったように思える。


 鳥たちにとって、この足音の主は邪悪な存在というわけではないんだろうな。それにしてはワイバーンと竜族には大打撃を与えてくれたみたいだけど。


 そもそも息子さんたちに攻撃を仕掛けたというのであれば話はわかるんだけど、あの状況から踏まえるとあの二人が住む山にまで件のゴーレムは侵攻したのかな? 


 でなければあのふたりが身ごもった妊婦をも狩りにつれだしたということになる。


 さすがにそれはありえない。となると、ゴーレムは「禁足地」から離れて、あの山にまでふたりを追いかけていったってことになる。


 そしてある程度被害を出したところで戻ったってことなのかな?


「禁足地」に踏み入った制裁とするのであれば、あのふたりが生きているのはいま考えるとおかしい。


 ならゴーレムはなぜにあのふたりがいる山にまで侵攻したんだろう?


 考えられるとすれば、あのふたりがゴーレムにとってなくてはならないものを、大事ななにかを奪ってしまったので、それを取り返しに行ったってことくらいか?


 でもふたりはそんなことを言っていなかった。隠し事をしている風には見えなかった。ならなんでゴーレムは。


「わからないなぁ。……素直に聞いてみますかね」


 ため息交じりに正面を見据えるのと足音の主が現れたのはほぼ同時だった。そこには話の通り、石と土塊の存在が、件の「化け物」ことゴーレムがいた。


あのふたりが言っていた通り、体は石と土塊でできているようだ。


 正確には体の表面を石で覆われているが、石と石の間から覗く内側は土でできている。ちょうど石と石の間が人で言えば関節にあたるんだろう。


 頭は目の部分以外はすべて石で覆われている。目の部分だけは白い。白い目には一切の熱を感じられない。まるで爬虫類の目を見ているようで、寒々しささえ感じられる。


 その白い目が俺たちをまっすぐに捉えている。ここから逃げ出すのは無理だろう。逃げだそうと思ってもすぐに追いつかれてしまうのは目に見えている。


 仮に逃げ出しても延々と追い掛けられるのもまた。戦って勝つ以外に目の前に現れたゴーレムをどうにかする方はなさそうだ。


 勝てるだろうか。そんな不安をよぎらせながら、構えを取ろうとした。そのとき。


「……なんだぁ、母神様たちがお越しになったかと思って急いできたのに別人だっぺか」


 ──めちゃくちゃ訛った口調でゴーレムがため息を吐いた。


 ……本当にこの世界はなんなんだろうね。どうしてこうも一般的なファンタジーに真正面から喧嘩を売るようなことばかりするのやら。


「んん? そこにいるお姉ちゃん、もしやレヴィアさんだっぺか?」


「そうよ。久しぶりね、ゴレムス」


「すると、そこのお兄ちゃんは、マモンくんだか?」


「……もう、くん付けで呼ばれる歳じゃないぞ、俺は」


 しかもこのゴーレム、レアとマモンさんと知り合いと来ている。え? なんなの、これ? どうしてこの不思議な物体と二人は知り合いなわけ?


「あははは、これはたまげたなぁ。数千年ぶりに目覚めたと思ったら、当時の知り合いと出会えるとはなぁ。長生きはするもんだなぁ」


 笑いながらゴーレムはその場に座り込んだ。


「よっこらせ」とか言っているのを聞くと、農村にいるおじいさんみたいだよ。


 すると俺たちはそのおじいちゃんの家に遊びに来た孫夫婦というところかな? 


 いかん、たやすく想像できたぞ。麦わら帽子をかぶって、首元にタオルをかけたこのゴーレムのところに遊びに来たという光景がありありと想像できてしまう。


「えっと、レア? この人は?」


「ああ、ごめんなさい、「旦那様」」


「ん? だんなさま?  え? レヴィアさん、嫁入りしただか? え? あのレヴィアさんを嫁に!?」


 ゴーレムさんはなんだか衝撃を受けている。


 どうにも昔からのレアの知り合いに会うたびに、レアを嫁にしたことを驚かれてしまうなぁ。


 いや理由はわかります。わかりますけど、レアは昔いったいどれだけやんちゃしていたんだろうね。怖くて聞けないっす。


「……まぁ、レア姉が嫁入りしたことは俺たち全員が同じ意見だよ。竜族さえ震え上がらせる狂戦士を嫁とか正気だとは思えないし」


「だなぁ。レヴィアさんってば、両手に相手の頭を掴みながら振り回していたもんな。「武器? 私の前にたくさんいるじゃない」とか平気で言っていたもんなぁ」


「ああ、あれはいまだにトラウマだ」


「……そんなレヴィアさんを嫁にねぇ。お嬢ちゃん、勇者すぎんかね?」


 マモンさんとゴーレムさんが言い募る。その内容は聞きたくなかったな。しかし相手の頭を掴んで振り回すね。それはたしかに狂戦士と言ってもいいかもしれない。


「……てめえら、私が嫁入りしたことがそんなに不満か? ああ?」


 でもそういうことは本人の前で言うべきじゃないよね。


 だって、レアさんってばブチ切れているし。マモンさとゴーレムさんの身体が震え上がる。


 けれどレアは止まることなく、ふたりの元へと向かっていった。


 その後起きたことを俺は忘れない。いや忘れることができない凄惨な光景だった。そして同時に思った。


「……うちの嫁たちは全員怒らしちゃいけないよね」


「わぅわぅ、ママたちは怒ると怖いもんね」


 阿鼻叫喚の光景を前に俺とシリウスはしみじみと頷き合ったのだった。

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