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Act7-43 愛することと信じること

 恒例の土曜日更新ですが、唐突ではありますが今日は八時更新となりました。

 二話目は通常通りの二十時更新にします。

 とりあえずお試しということで。

 まずは一話目です。

 

「禁足地」と呼ばれる山は、首都「スロウス」から見て北にあった。


 ひと口に北と言ってもだいぶ北上することになる。もともと高山地帯なこの国においても、屈指の高さを誇る山が「禁足地」と呼ばれているそうだ。


「本当はここまでカレンちゃんには調べてほしかったんだけどねぇ」


 ベルフェさんには呆れられてしまった。


 だがひとつ言いたい。


 調べさせたいのであれば、あんな大量なお便りを処理させるな、と。


 毎日一日がかりでどうにか処理できていたのに、ほぼ休憩なしのぶっ続けであんなことをさせられていたら、調べる余裕なんざないよ! 無茶ぶりにもほどがあるだろうに!


 でもベルフェさんには暖簾に腕押し。なにを言っても聞いてはくれなかったよ。


「時間がないというわりには、サラサラとはデートしていたよね?」


 ベルフェさんったら、言われたくないことを言ってくれましたよ。


 たしかに。そう、たしかに俺はサラさんとデートしました。


 ええ、デートしましたよ? まぁ、温泉に娘も連れて入りに行ったというデートでしたが。それでもデートと言えばデートだった。


 そのおかげでリフレッシュできたし、サラさんとキスもできた。


 ただ、おかげでレアとサラさんの間で冷戦が勃発しているので、手放しで喜べるかと言われると首を傾げざるを得ない。


 費用対効果がまるで釣り合っていないのだから、困ったものだよ。


「それでもデートはデートだろう? 時間がないはずなのに、デートできる余裕はあったんでしょう?」


 にやにやと矢継ぎ早に言われたくないことを言われ続けて、ついに俺は陥落した。


 これがいままで一日たりとも休みを入れずに仕事をし続けていたというのであれば、言い返すことはできたんだ。


 しかし一日、そうわずか一日とはいえ、休みを入れたことが仇となった。


 とはいえ、もともと「禁足地」に関しては気になってはいたので、調べるつもりだった。


 ただベルフェさんから予想外のお便り処理という仕事を割り振られたせいで俺はなにもできなくなってしまった。


 適材適所と言う言葉をベルフェさんには知ってほしいなとしみじみと思ったね。


「とにかく、カレンちゃんもいろいろと言いたいことはあるだろうけれど、これは正式な仕事なのだから、ちゃんと受けてね?」


 にっこりと有無を言わせぬ笑顔でベルフェさんはこれが仕事であることを強調してくれた。


 正式な依頼と言っていいのかはわからないが、「七王」陛下方からの依頼を無碍にできるわけがなかった。結果、俺はこの依頼を受けることになったんだ。


 そしていま俺はサラさんの背に乗って、「禁足地」へと向かっていた。


 俺の他にはレアとシリウス、タマちゃんになぜか着いてきたヴァンさん、そして最後に──。


「あまり竜人らしくないなとは思っていたんだが、まさか竜族だとはな。竜族を同族以外で嫁にするなんて、カレンさんが史上初じゃないかな?」


 クラウディさんの背に乗って笑うマモンさんが助っ人として参戦してくれていた。


 本当は怪我人が出たときのことを踏まえてプーレにも来てほしかったのだけど、まだ竜族とワイバーンたちの怪我を治しきれていないので辞退していた。


 そして当然のようにあの女もプーレと一緒に残ることになっている。


 非常に遺憾ではあるが、あの女がプーレの役に立っていることは事実。事実だけど、腹が立つこともまた事実だ。


 もっともマモンさんが参戦してくれれば怪我人なんて出るはずもない。そのうえレアまでいるんだから、安全は約束されたようなものだ。


 でもそのマモンさんが参戦してくれているのは、ベルフェさんからの要請というか、ベルフェさんがマモンさんに頼み込んだ結果だった。


「お願いだよ、マモマモ。カレンちゃんと一緒に「化け物」退治してくれないかい?」


「お前自身が行けばいいだろうに」


「だってボクが行ったら、「禁足地」が禿げ山になるし」


「……たしかにな。おまえが行ったら自然破壊どころの騒ぎではなくなるか。むしろ自然が壊滅しかねん」


「でしょう? だからボクの代わりにお願い」


「……はぁ」


 マモンさんとベルフェさんの会話は淡々としたものだったけど、よく聞くと恐ろしい内容だったね。


 だってベルフェさんがゴーレム退治に参加したら、「禁足地」が壊滅すると言うんだもん。


 山ひとつの自然を壊滅させられる。それを平然と言える時点で嘘や誇張ではないんだろう。


 本当に「七王」陛下方はありえない実力者揃いだと改めて痛感した。


 その一方でベルフェさんは本当にそんなことができるのかとも思えていた。


 ベルフェさんは一見ただの金髪幼女だ。見た目だけで言えば、シリウスとどっこいというところ。そんなあの人が大規模破壊を巻き起こすとは、とてもではないけど考えられなかった。


 でも百万頭のワイバーンを壊滅に追いやったのは事実みたいだし、それにさっきの竜族の長老の息子さんをいたぶっていたときのベルフェさんを、悪魔を彷彿させるベルフェさんの笑顔を思いだすと、まるっきり嘘だとは思えない。むしろあのベルフェさんならそれができてもおかしくは──。


「……あまり考えすぎない方がいいですよ、「旦那様」」


 ──覚えのあるぬくもりに包まれた。見ればレアが後ろから俺を抱き締めてくれていた。


「レア?」


「……考えすぎてしまうのは、「旦那様」の悪いところです。様々な可能性を考慮するのは必要なことではありますが、後ろ向きに考え込んでしまうのはダメですよ? もう少し単純に考えましょう」


「単純にって」


「単純でいいんですよ。……いまはベルフェのことを考える必要はありません」


 どきりと胸が高鳴った。レアの前でレア以外の女性のことを考えていたことがバレてしまった。すぐに妬いてしまうレアのことだから、こうして抱き締めたのは俺を逃がさないためなのかもしれない。


「これは別に」


「ふふふ、怒ってはいませんよ。あの子は「旦那様」のご趣味に沿う子ではないのは、わかっているつもりですから」


 たしかにベルフェさんは俺の趣味ではなかった。


 むしろ俺の趣味ってなんだろうね? 嫁は誰もが一癖あるから、癖のある人なのかな?


「それは私が一癖あると?」


「い、いや別にそういうわけでは──」


「ふふふ、大丈夫ですよ。怒っているわけではありませんから」


 レアは笑っている。怒っているときの笑顔ではなく、穏やかなときの、俺が好きな笑顔をレアは浮かべていた。


「ベルフェはああいう子ですから。「旦那様」がお好みにはならないことはわかっています。だからお気になさらずに」


「……本当に怒っていないの?」


「あら? 私の言葉は信じられませんか?」


「いや、そういうわけじゃないけど」


「なら信じてください。信じてくださらないのは、悲しいです」


「ご、ごめん」


 たしかに疑ってしまったら、信じていないと言っているようなものか。


 レアが俺を騙すなんてありえない。だってレアは俺を愛してくれている。俺もレアを愛している。


 だから信じるし、信じられるんだ。それはレアだけじゃなく、プーレたちにも言えることであって──。


「──あ」


「……わかってくださいましたか?」


 レアは安心したと言うかのように笑っていた。その言葉とその笑顔でプーレとあの女との関係を疑っていたことをいまさらながらに理解できた。


 愛しているからこそ信じる。


 逆に言えば愛してないから信じていないともなる。


 心配するのは当然だけど、過剰に心配するのは相手を信じていないと言っているようなものだ。


「……心配されるお気持ちはわかりますが、プーレちゃんをもう少し信じてあげてください」


「……うん。ごめん。それとありがとう」


「どういたしまして」


 ふふふと機嫌よさそうにレアは笑った。俺はやっぱりレアには敵わない。改めてそれを痛感させられてしまった。


 いやレアだけじゃない。俺は嫁たちの誰にも敵わない。でも敵わないけれど、その身を守ることはできる。


 いや今度こそ守ってみせる。もう二度と誰も目の前で傷付けさせはしない。


 もうカルディアのように目の前で愛する人を喪うのはごめんだ。だから今度こそは守ってみせる。


 たとえこの命のすべてを燃やしつくても、俺は愛する人たちを守る。


 いまだに見えない「禁足地」のある方を見つめながら、俺は決意を新たにしていた。

 香恋は新たな決意を秘めますが、その決意も……。

 続きは二十時になります。

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