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Act7-35 詭弁と抱擁と

 本日四話目です。

 プーレは強いな。


 信じられないくらいにこの子は強い。戦闘力なんてないだろうし、戦場に立てばそれだけで殺されるか、格好の的になるのは目に見えている。


 誰かに守ってもらわなければ生きていけないような子。


 でもそんな子を私はいま強いと思った。


 すぎるくらいに強いと思ってしまった。


 これが王族の血が為せることなのか。それともこの子自身が持つ心の強さゆえのものなのか。


 私にはわからない。わからないけれど、時が時であればこの子に仕えて戦ってもいいかもしれないと思うくらいに、プーレのいまの笑顔はとても強い。


 本当は私に言いたいことはあるんだろう。私が素直に死んでいれば、プーレがリヴァイアサン様の魔手に掛かることもなかった。もっと長く生きていくことができたはずだった。


 でも私が生き返ったことで、私を生き返らせてしまったことで、プーレは「旦那様」と一緒に生きていくことはできなくなってしまった。


 残り少ない日々を懸命に生きることしかできなくなってしまった。私のせいでこの子はあるはずだった時間を手放すことになった。


 けれど同時にリヴァイアサン様からの連絡を受けたからこそ、「旦那様」はいまも生きていられている。


 でなければ、「ルシフェニア」のカオスロイヤルたちの攻撃であの人は死んでいた。


 呪殺剣の呪いはそれほどに強力だった。


大回帰リザレクション」がなければ、助けることはできなかった。


 いわば結果的に私は「旦那様」を助けることができた。


 つまりはプーレが「旦那様」と過ごせる時間を増やすことができたとも言える。


 でもそれは結果論にしかすぎない。


 どちらにしろ、私のせいでプーレが生きていられる時間を奪ったことには変りはなかった。


 そんな私にプーレは私が生き返ったせいじゃないと言ってくれた。


 私が悪いわけではなく、そういう運命を背負って産まれてしまったプーレ自身が悪いと言い切った。


 その言葉にどれほどの想いがこもっているのはわからない。


 想像はできる。けれど実際のことはわからない。


 だからこそ「わかる」なんてことは言えない。言っちゃいけないと思う。言える資格が私にはなかった。


 なら私はなんて言えばいいんだろう?


 秘めたる想いを押し殺して、気丈に笑うプーレに、かすかに体を震わせながら笑うこの子になんて声を掛けてあげればいいんだろう?


 こういうとき、「旦那様」であれば、プーレを励ましてあげられる。


 救ってくれると思う。だってあの人はいざという時には決められる人だから。


 だからこういう時であれば、普段の情けない姿は影を潜めて、とてもカッコよくなってくれる。


 そういうところを私もプーレも好きになった。そしてそれは私だけじゃなく、レア様やノゾミ、そしてアルトリアも同じなんだと思う。


 でもここには「旦那様」はいない。


 いるにはいるけれど、「刻」の世界の向こう側にいるから、呼ぶことはできない。


 やりようがないわけではない。ただそのためにはシリウスの力を借りなければならない。残り少ないあの子の時間を浪費させるわけにはいかない。


 よしんば浪費しなかったとしても、あの子が力を隠していることが「旦那様」に知られることになる。それは避けなきゃいけない。


 となるとこの場は私がどうにかしなきゃいけない。


 でもどうすればいいのか、私にはさっぱりだよ。


「旦那様」であれば、あの手この手でプーレを口説き落とすんだろうけれど、私にはそんな特殊能力はないもん。


 あくまでも私は口説き落とすのではなく、口説き落とされる側だもん。だからなにをすればいいのかはまるでわからない。


 でもいまのプーレを放っておくことはできないし。くぅん。どうすればいいんだろう?


「……なにか言ってほしいのです」


 不意にプーレがぽつりと呟いた。いきなりすぎて、なにを言われたのか理解できなかった。でも、まじまじと見るとプーレが震えていた。怒っているんじゃない。泣いて震えていた。


「黙っていたらわからないのですよ。だからなにかを言ってほしいのです。「きれいごとを言わないで」でも「プーレが言っているのはエゴじゃないの」でも、なんでもいいのです。だからなにかを言ってほしいのです」


 ……私はやっぱり学がないね。いや、人の心の機微を理解できていないみたいだ。


 わかっていたはずだった。プーレはただの詭弁を言っただけだってことは。


 無理やり笑っているだけだってことはわかりきっていた。そうわかっていたはずだった。


 なのに私はプーレに無理をさせてしまった。無理をさせたままでいさせてしまった。もっと早くなにかを言ってあげればよかった。


 だってプーレが口にした内容は、きっとプーレ自身が思っていたことだろうから。だからこそ、プーレがそんなことを思わないようにはっきりと私の口から言えばよかったんだと思う。


 なんでもよかったんだ。別に気の利いたことを言う必要はない。たわいないことでもいい。とにかく無理を続けるプーレの心に安らがせてあげればよかったんだ。本当に私は救いようがなくバカなんだなぁ。


「……ごめんね」


「謝らないでほしいのです。謝ってほしくはないのです」


「……そうだよね。でも、もう一度だけ。これで最後だよ。本当にごめんね」


 なにに対してなのか。お互いに意識のずれはあると思う。それでも私はたった一言の謝罪とともに震え続けるプーレをそっと抱きしめた。抱きしめることしか私にはできなかった。

 続きは十六時になります。

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