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Act7-32 衝撃の光景

 七月の更新祭り二日目です。

 まずは一話目になります。

 ガルーダ様の一言は信じられないものだった。


「アルトリア?」


「あぁ、そうだよ。わが子孫。君の死因を作った存在は、「刻」のアルトリアだ」


 ガルーダ様は申し訳なさそうに、けれどはっきりと言い切られた。


「……同じ名前の別人?」


 アルトリアという名前は、探せばそれこそいくらでもいると思う。


 だから私を殺したのがアルトリアだと言っても、犯人があのアルトリアだとは限らない。そう思っていたのだけど──。


「残念ながら、君が思い浮かべているアルトリアと下手人たるアルトリアは同一人物だよ」


 ──ガルーダ様はまた言い切られた。私を殺したのは、あのアルトリアだと。


「嘘、でしょう?」


「残念ながら、私は嘘を吐かないよ。ただ本当のことを言わないだけで、嘘は吐かない。嘘吐きなのは私ではなく、七の奴さ」


「七の?」


「「水」のリヴァイサンさ。あいつはかなり嘘吐きだが、まぁ、あの愚妹のことは置いておこう。いまは君に事実を教えるのが重要だからね」


「事実って、アルトリアが犯人だと言われる以上のことはないと思うけど」


 アルトリアが私を殺したというだけでも衝撃的だった。


 私とアルトリアはそんなに仲がよくなかった。だけど殺されるほどに仲が悪かったかと言われると頷くことはできなかった。


 アルトリアは私を「雌犬」とか蔑んでいたけど、そんなアルトリアにシリウスは懐いていた。


 シリウスは聡い子だ。


 あの子が「まま」と呼ぶ相手は「優しい匂い」がする人。そのシリウスがアルトリアを「まま上」と呼んでいるんだ。アルトリアが根は優しい子であるという証拠だ。


 そのアルトリアが、いくら仲はよくなかったとはいえ、私を殺すというのはさすがにありえない。


 怨みを買っていたというのであれば、まだわかるけど、私はアルトリアに怨まれるような覚えはなかった。


 というかほとんど話すことがなかったのだから、怨まれることをしようがない。


 なのになんで私はアルトリアに殺されたんだろう?


 ガルーダ様を疑うわけではないけど、すぐには信じることはできなかった。


「……そうだね。君の言うとおりだよ、カルディア。たしかに君はアルトリアに対して、直接的になにかをしたわけではない」


「なら」


「だが、それでも彼女にとっては君を殺す理由はあった」


「理由?」


「あぁ」とだけガルーダ様は答えてくれた。


 でも頷かれたガルーダ様からは静かに怒っているみたいだった。


 本当に怒ったとき、人はかえって冷静になる。


 それは人ならざる身であるガルーダ様も同じなんだ。


 そう思えるだけの怒りをガルーダ様からは感じられた。


「……君は被害者であり、君はなにも悪くはなかった。まぁ少々向こう見ずなうえに猪突猛進というか、思い込んだら一直線だったから、簡単に騙されてしまったのはいただけないが」


「……いじわる」


 ガルーダ様が言われたことになにひとつとて、反論できないよ。


 だって全部事実だったから。私が向こう見ずなのも、猪突猛進なのも全部事実。否定できるものが皆無だった。


 だからこそ、「旦那様」には叱られることになってしまったのだけど。


 いま思えば私はもともと「旦那様」には惹かれていたけど、叱られたことで完全に落とされてしまったんだろうね。


 だって私をあんなに叱ってくれた人なんて、じい様が亡くなられてから初めてだった。


 だからこそ、「旦那様」に落とされちゃったんだと思う。


 誘拐したうえに、ボコボコにした私なんかにあんなに親身になってくれたあの人だから。


「……カレンちゃんにも困るよねぇ。嫁があんなにいるのに、取っ替え引っ替えはどうかと思うんだけど」


「取っ替え引っ替えじゃないよ。ちゃんと「旦那様」は」


「うん、わかっているよ。彼女は君の亡骸を抱き締めながら泣いていた。君を心の底から愛していた。それを私は知っている。私にはできなかったことだったけど、カレンちゃんにはできた。私にはそれが少し羨ましいよ。だからかな? 君を蘇らせたのは。私のように愛する者を目の前で喪うなんてことはさせたくなかったんだ」


「……ガルーダ様」


 ガルーダ様は笑っていた。穏やかに笑っていた。でも穏やかに笑っているはずなのに、その笑顔はとても悲しかった。胸が痛くなるくらいに悲しい笑顔だった。


「……話が脱線しちゃったね。とにかく私が言いたいのは、君は殺されるようなことをしてはいなかった。ただ彼女にとってはそれでも殺す理由になったということだよ」


「どういうこと?」


 ガルーダ様の言われたことの意味がわからない。


 なにもしていないのに、殺される理由になったなんて言われても理解さえもできない。


 いったいなんでアルトリアは私を殺そうとしたのか。このときの私には理解さえもできなかった。


「……言葉よりも実際に見た方が早いかな」


「え?」


「じっとしているんだよ、カルディア」


 ガルーダ様は私の額に手を当てると、静かにまぶたを閉じられた。


「いまから私の見たすべてを見せよう。それで判断しなさい」


 ガルーダ様が口を閉ざされた瞬間、頭の中にいくつもの光景が見えた。私が見たことのないものが次々に頭の中に流れていく。


「これは?」


「……私が私の端末を飛ばして集めた映像さ。主にアルトリアの行動を、ひそかにあの子が為していたことだけをいまから見せる」


「そんなことをして大丈夫なの? ガルーダ様は」


「気にするな、わが子孫。この程度のことで我が命は尽きることなどない」


 まぶたを閉じながらガルーダ様は笑っていた。


 ガルーダ様らしく、にやりと口許を歪めた不敵な笑顔だった。


「それよりもだ。我が見せる映像にて考えなさい。アルトリアをどう捉えるのかをね」


 そうガルーダ様が言ったのと同時に、脳裏に浮かんだのは──。


『駄犬の処理だよ』


 と言って笑うアルトリアだった。

 続きは四時になります。

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