Act0-69 友達 その五
PV8900突破です!
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ダークネスウルフが、十数頭はいた。
どう考えても、群れだった。
ブラックウルフの上位種。つまり、ブラックウルフが進化した姿が十数頭だ。
数十頭のブラックウルフの群れの中に、ダークネスウルフが、一頭混じっているというのであればわかる。
その場合は、その一頭が群れの長になる。
だが、ダークネスウルフが十数頭の群れなんて聞いたこともなかった。
一頭一頭であれば、Cランクの魔物。
けれど群れになれば、危険度があがる。
Cランクのダークネスウルフがダークネスウルフだけの群れを作るのであれば、その危険度はおそらくBランク。
一頭だけであれば、対処はたやすい。
風属性付与をさせて、首を落とせば済む。
けれどダークネスウルフの群れを対処するとなると、十数回同じように首を落とせばいいなんて、単純なことにはならない。
あくまでも一頭だけの対処法だ。
群れを作っているのであれば、当然連係をしてくる。そうなれば隙が減る。それどころか、攻撃できるタイミングを取れるのかどうかさえも怪しい。あくまでも、こちらが単独であればの話だが。
「……モーレ。何頭まで相手できる?」
いま俺の腕の中にはモーレがいる。
なぜか抱きしめてしまっていた。それも二度に渡ってだ。
俺はそっちの趣味はないのだけど、これでは否定できそうにない。
あ、でも、モーレは俺よりも年上だから、俺みたいな小娘に抱きしめられたってなんとも思わないはずだから、一応はセーフだろう。
が、あとで謝っておこう。未婚の女性を、いきなり抱きしめるなんて、相当に失礼なことだもんな。
もっとも、謝りたいけれど、確実に謝れるかどうかはわからない。
一頭ずつであれば、ただのカモだけど、十数頭で連携をされてしまえば、強敵になってしまう。これだから群れを形成するような魔物は困るんだよな。
とはいえ、文句ばかりを言っても仕方がない。
ここはモーレにも手伝ってもらうしかないだろう。
モーレがどれほどまでに強いのかはわからない。
だが、大通りで再会したときの身のこなしを踏まえると、ダークネスウルフくらいは相手取れそうな気がする。
余裕かどうかまではわからないけれど、一頭だけであれば、ダークネスウルフを対処できるくらいの実力はありそうだ。
「全力を出せば、追い払うことくらいはできるよ。あくまでも一頭だけであれば、ね」
一頭だけであれば、追い払うことはできる。
かわいい顔をして、相当な強さのようだ。
二頭か三頭までであれば、一頭を任せて、俺が残りの二頭を始末するという作戦を取ることができた。
しかし十数頭になると、一頭を任せたところで、焼け石に水でしかない。
そもそも残りの十数頭を俺だけで対処できるかもわからない。
ブラックウルフ程度であれば、何匹群れようと、物の数ではないのだけど、ダークネスウルフとなると話は別だ。
ブラックウルフまでであれば、モーレを抱きかかえて、逃げ切ることはできる。
だがダークネスウルフ相手でそれをしたら、確実に追い付かれてしまう。
「いや、待てよ?」
たしかにモーレを抱えて逃げれば、追い付かれる。
だが、逆に言えば、逃げれば確実に追い付いてくるということだ。
が、ここにいるすべてのダークネスウルフが、一斉に追い付いてくるわけではないはずだ。
人間だって、足の速さは人それぞれ。
そしてそれは魔物にも同じことが言える。
同じ種族であっても、個体差があるはずだ。それを利用できないだろうか。
つまりは追い付いてきた奴から、順番に一撃で潰す。
それを繰り返せば、逃げ切れるか、倒しきることができるんじゃないか。
もっとも、魔物もバカじゃないから、それで始末できるのは、せいぜい数頭程度だろうけれど。
だが、数頭でも減ってくれれば、こちらとしては楽になる。
できれば、半分くらいはそれで始末できたらいいのだけど、さすがに望みすぎか。
けれど、こうして囲まれている形で、戦うよりかはましだろう。
囲いを突破できれば、全方向からの攻撃は防げるのだから。
問題があるとすれば、モーレを抱えた俺と、ダークネスウルフたちとの素早さの差がどれほどあるかってことだ。
森の中で「討伐」したダークネスウルフ程度であれば、囲いを突破して、そのまま突き放すことはできる。
けれどあいつよりも強い個体ばかりであれば、あいつよりも速い奴らばかりだったら、囲いを突破しようとして駆けだしたところで、背中に攻撃を食らってしまう。
ああ、こういうときに、異世界物のラノベお約束の「鑑定」が使えれば、こいつらのステータスを調べて、「討伐」したダークネスウルフとの差を確かめられるのになぁ。
ないものねだりをしても意味はない。
一か八かの作戦だけど、全方位からの攻撃で疲弊させられるよりかは、賭けに出るのもありだろう。となれば、早速行動開始だ。
「モーレ」
「なに?」
「ごめんね」
先に謝ってから、モーレを抱きかかえる。
すごく軽いし、とても柔らかい。それにいい匂いがした。って匂いを嗅いでどうする。
「ちょ、ちょっと!? いきなりなにを!?」
モーレが顔を真っ赤に染めた。いきなりお姫さま抱っこなんてされたら、恥ずかしがるのも無理はないか。
俺自身してもらいたいとも思わないけれど、実際にやられてしまったら、確実に動揺する自信があった。ゆえにモーレが動揺するのもあたりまえだ。
ダークネスウルフは、平然としている。
平然としているように見えるけれど、なんだか唸り始めたような。
さっきまではこっちを囲むだけで、唸ってはいなかったのだけど。
あれかな。こいつ舐めているのか、とでも思われたのかな。
でも、たしかにそう思われても無理はないかもしれないな。
中位の魔物とはいえ、それなりの危険度を誇る魔物を相手に、いきなりお姫さま抱っこをするような奴はいないだろう。
俺が同じ立場であれば、ふざけているのか、と思うもの。
するつもりはなかったのだけど、挑発になってしまったかもしれない。
だって、目がぎらぎらし始めたもの。
さっきもぎらついていたけれど、いまはより殺気を放ってきているし。
これは確実に怒らせてしまったっぽい。
でもかえって、こっちの生存率は上がったと言ってもいい。
怒れば、それだけ判断力は下がり、冷静な対応はできなくなる。
その分、こちらの狙いに気付かれづらくなる、はずだ。
それでも、始末できるのが、五頭程度になるくらいか。
まだ足りない。相手をより怒らせるためには。
「モーレ。口閉じておいてね」
モーレに忠告してから、跳び上がる。
同時に脚に風属性を付与させる。
狙いは進行方向を塞いでいた二頭の片方。
狙いを付けたダークネスウルフの頭上にまで移動してから、首筋に向けて踵を振り下ろす。
鮮血が舞い、ダークネスウルフの首が、俺の着地に合わせるように、地面に落ちる。
すかさず、もう一頭の首筋めがけての後ろ回し蹴りを放った。
鮮血とともに首が舞う。
二頭のダークネスウルフの鮮血を浴びつつ、群れの中で一番大きな個体に向かって、渾身のどや顔をしてやった。
そいつの顏が明らかに歪んだ。
同時に地面を蹴り、一気に駆け抜ける。
後ろから、咆哮が聞こえた。
まだ近い距離だったから、耳鳴りがした。
けれど構わずに駆けていく。
後ろからダークネスウルフたちの唸り声が聞こえてくる。作戦成功だった。
「よしよし、うまくいった」
「なにがうまくいったの!? 怒らせちゃっているじゃんか!」
モーレが叫ぶ。
無理もないか。モーレともども怒らせているし。
でも怒らせないと、生存率は上がらなかったのだから、これはこれでありだと思う。モーレに関しては予想外ではあったけれども。
「それに、なんで私を抱きかかえているのさ!? は、恥ずかしいから、下して!」
モーレが無茶なことを言い始めた。
いま下したら、即襲われてしまうだけだと言うのに。
そんなわがままは聞いていられない。
っていうか、お姫さま抱っこをして、なにかが減るわけじゃないんだから、これくらいは我慢してほしいものだ。
「我慢してよ、モーレ。減るわけじゃあるまいし」
「減ります! 私の羞恥心とか、理性がごりごり削られているの!」
羞恥心とか、理性とかってなんだよ。意味わからん。そもそもなんでそんなのが削れるというのだろうか。
「はぁ、もう面倒だなぁ。これだから女って奴は」
「君も女の子でしょう!?」
あ、そうだった。
生まれも育ちも女でしたね、俺。
でも、やっぱり俺って性別間違えて生まれてきたのかな。
さっきまでは、女としてはお姫さま抱っこされるのは嫌だったけれど、こうしてお姫さま抱っこするのは、別に嫌じゃなかった。
むしろ、エンヴィーさんとか、ギルドマスターのククルさんにしてあげたら、どんな顔をするのかなと考えてしまうあたり、わりと末期かもしれない。
「……えい」
モーレが急に俺の頬を左右に引っ張ってきた。
いきなりなにをするんだろうか。
っていうか、痛いからやめてほしい。なにもしていないのに、この所業はひどいと思う。
「なんかむかついた。いやむかつく。むかついている。だからやっている」
そう言って、頬をこれでもかと引っ張り続けるモーレ。
そんな余裕はないのだけど。
モーレの気が済むのであればいいか、と思いながら、夜の街道をひたすらに駆け抜けていった。




