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Act7-28 刻の誘い

 本日三話目です。

 ある意味注意回です。

「じゃあ、おやすみ、プーレ」


「おやすみなさいなのです、「旦那様」」


「おやすみ、プーレママ」


「おやすみなさい、シリウスちゃん」


 部屋の前で「旦那様」とシリウスちゃんと就寝の挨拶を交わし、私はふたりが部屋に入っていくのを見守ってから、私も部屋に入りました。


 部屋の中はさすがはお城と言うほどにとても広いのです。


 ベッドは天蓋つきのものですし、大きな化粧台まであるのです。


 まるでお姫様になったかのようなのです。子供のころに夢見た光景が広がっていました。


 最初はちょっとテンションがあがってしまい、お隣の「旦那様」から笑われてしまいましたけど、ここでの生活もそろそろ二週間ほどとなり、ようやく慣れてきたので笑われることはなくなりました。


 私の部屋と「旦那様」のお部屋はお隣同士ですが、レア様のお部屋も私とは逆側のお隣なのです。


 その隣をサラさん、ヴァンさん、駄メイドさんという順番になっているのです。


 いまはレア様もサラさんもお部屋にはおられないのです。


 今日もいつものように喧嘩をなされた結果、「旦那様」からふたりで当分はお風呂に入るようにと厳命されてしまったからなのです。


 おふたりとも不満ありげなお顔をされていましたが、「旦那様」は決してふたりの不満を却下されていました。


 普段の「旦那様」とはちょっと違う裁定でしたが、それもここ最近の忙しさを思えば、無理もないと思うのです。


 嘆願書という名のお便りを「旦那様」は朝から晩まで処理されています。


 その内容はこれを嘆願書と言っていいのかなと悩むようなものです。


 それでも嘆願書として送られている以上は、処理しなければならないのが辛いところなのですよ。


 そんな「旦那様」に負担をかけるようにレア様とサラさんは喧嘩をなさっています。


 結果とうとう「旦那様」が爆発し、今回のような厳命を言いつけられたわけなのです。


 でもそれはふたりが自分勝手だからではないのです。


 ふたりは私のためにああいう振る舞いをなさっているのです。


「いつから気づかれてしまったんでしょうか?」


 ベッドに腰掛けながら、お腹をなでる。


 今週に入ってからわずかですが、痛みが体中に走っていました。


 最初は顔をしかめていましたが、いまは耐えられるようになりました。


 この痛みはもうなくなることはないのでしょうね。


 それどころか、その日に至るまでこの痛みは少しずつ強くなっていくのでしょうね。


 でもそれを私は顔には出す気はないのです。


 たとえ気絶するほどの痛みであっても、私は笑っていようと決めています。


 だって痛がってしまったら、「旦那様」に知られてしまうから。私の命が残り少ないことを「旦那様」が知ってしまわれるから。


 だから私は笑うのです。


 日に日に磨り減っていく命を感じながら、迫ってくる最期の時を感じながら、誰よりも愛するあの人に精一杯の笑顔を向けていたいのです。


「……愛しています、「旦那様」」


 言いたい。あの人に向かって、「旦那様」に向かって言いたいのです。


 でも言えない。


 言ってしまったら、きっと私はもう歯止めが利かなくなるから。


「抱いてください」と言ってしまうから。


「旦那様」に求められたら、拒むことはもうできなくなるから。


 そうなればもう終わり。


「旦那様」は私の肌に刻み込まれた蛇に気づくでしょう。


 その蛇がなんであるのかを伝えなければいかなくなる。


 それじゃ本末転倒なのです。


 だから私は言えないのです。


 この身を焦がす気持ちを伝えられないのです。いや焦がす想いだからこそ伝えてはいけないのです。


「……そういうのはちゃんと伝えないとダメだと思うんだけどな?」


「え?」


 声が聞こえました。


 私しかいないはずの部屋の中で声が聞こえた。


 それもその声は聞き間違えるはずのない声でした。


 顔を上げるとそこには──。


「やっほ。久しぶり、プーレ」


「カル、ディアさん?」


 ──亡くなったはずのカルディアさんが立っていたのです。


 足はちゃんとありますし、恐る恐ると手を伸ばしてみましたがちゃんと触れたのです。


 ただ私がベッドに腰掛けているので触れられたのは手だけでしたけど。


 それでもカルディアさんに触れたのです。このカルディアさんは幽霊ではないのです。


「どうして?」


「……秘密と言いたいところだけど、ちょっと待っていてね」


 ぱちんとカルディアさんが指を鳴らすと、部屋から色が消えました。


 いや部屋だけじゃなく、窓の外に広がっていた夜空からも色が消えて、すべてが灰色に染まったのです。


「これは?」


「ふぅん。やっぱりプーレも「刻」の世界に入れたんだ?」


「「刻」の世界?」


「いま私たちがいる世界のこと。それよりも、だ」


 カルディアさんは真剣な目つきで私の肩を押されました。


 ぽすんという音を立てて私はベッドに倒れこみました。そのうえにカルディアさんは乗ると、私の服に手をかけられました。


「か、カルディアさん!?」


「黙って」


「だ、黙ってって言われても」


「じゃあ黙らせるね」


「なにを──んっ!」


 気づいたときにはカルディアさんに唇を奪われてしまいました。


 同時に服を剥ぎ取られていく。抵抗しようとしたけれど、あっというまに片手で私の両手は頭上に重ねられてしまいました。


 カルディアさんは無言でキスをしながら、私の服を剥ぎ取っていき、そして──。


「……もう、こんなことになっていたんだ」


「ひどい、ですよ。カルディアさん」


 ──唇を離されたときには、私は誰にも見せたくないものを、下腹部を覆う黒い蛇の痣をあらわにされてしまったのでした。

 これもある意味ではNTRな百合と言えるかもしれませんね←

 続きは十二時になります。

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