Act7-25 犬猿の仲ならぬ蛇竜の仲
翌日、俺はベルフェさんに呼び出された。
レアとサラさんは結局そのまま眠ったままでした。
そんなふたりに挟まれながら、俺は恐怖に震えていたのはいま思えば、とってもシュールです。
いや別にふたりが怖いとか嫌いとか思っているわけではなく、なにも憶えていないというのがなんとも言えない恐怖を刻み付けてくれていたんです。
なわけで呼び出しを受けるまで俺はひとりベッドの上で両肩を抱きながら体を震わせていた。
傍から見れば明らかに誤解されるような光景だったなと思うけれど、あの恐怖はぷらいすれす。
そうして呼び出しを受けて、ベルフェさんの待つ玉座の間へと向かうと──。
「……あー、その、なんだ。ヴィヴィをあまり挑発するようなことは避けてほしいかな?」
──開口一番、ベルフェさんは普段よりもお疲れのお顔でそんなことを言ってくれた。
けれど俺だって言いたいことはある。
「……挑発するようなことなんてなにもしていなかったんですが?」
「それでも惨劇は起きてしまったんだから、カレンちゃんはもうちょっと脇を締めないとだよ?」
「惨劇ってなにが起きたんですか?」
「え? 憶えて、あー、うん。人生は、知らないほうが幸せってこともあるから」
「いったいなにが起きたんですか!?」
ベルフェさんは顔をそっと逸らす。
それ以上のことはなにも言わなかった。
なにも言わないというあたりに、闇を感じるのは決して俺の気のせいじゃないはず。
そう言えば、なんか妙に体が重いような?
えっと、もしかして俺食われた?
いや、あの状況を考えれば、食われた以外のなにがあったんだと言いたいね。
しかし食われたという意味がどういう意味合いかにもよるのだけど、そこんところどうなんですか、恋香さん!?
『……なんですか、リア充野郎。散々あんなことを見せ付けてくれやがったくせに私になにを言えと?』
恋香さんってば、なんだか妙に殺伐とされておられる。
本当に俺はなにをされてしまったんだろう? 怖くて聞けない。
いや怖かったからこそ記憶から飛んだのかな?
肉食系の嫁ふたりだからなぁ。
どう考えてもやばいでしょうね。
だからこそなにをされてしまったのかをきっちりと把握しておかないと、危険かもしれない。
だってまったく憶えていないとか言ったら、まず間違いなく機嫌を損ねかねないし。
嫁の機嫌を損ねるほど危険なものはないと俺は思うの。
だからこそなにをされて、なにをしたのかの把握をしたかったのだけど、恋香さんってば答えてくれる気配が一切ないです。
……本当に俺ってばなにをされて、なにをしてしまったんだろうか?
「いや、あの、俺なにをして」
『言いたくありません! あんな、あんなうらやましいことをぉぉぉ! 香恋のバカ! もう知らない!』
「アルプスの少女みたいなことを言わないでくれませんかね、って切りやがった」
事情を聞きたかっただけだったのに、恋香ってば念話をきってしまった。
ご丁寧なことに「つーつー」というあの独特の音を加えてね。
妙なところで芸が細かいところは、まさに俺の同一存在だと思いました。
「まぁ、レンゲちゃんがああいうのもわかるかなとだけ言っておこうかな」
ベルフェさんはベルフェさんでそれしか言わなかった。ひどく不安を煽る一言はやめていただきたいですね、はい。
「まぁ、とりあえず昨日休んだ分の仕事はしてもらうよ? 頼んだよ、特別顧問さん?」
話はそれで終わりだと言うように、「翼の王国」での俺の役職名をベルフェさんは呼んだ。とても意地悪そうな笑顔でね。
となれば、その後の俺のすることは決まっていた。
いつものように専用の執務室にこもってのお便りじみた嘆願書に対する返答を書くお仕事の開始です。
相変わらず届く嘆願書の内容はラジオ番組のお便りコーナーにありそうなものばかりだ。
自分で考えろよと言いたくなるような内容ばかり。竜族って暇なのかなと思わずにはいられなかった。
「相変わらずの内容だなぁ~」
「そうですねぇ~」
俺の漏らしたぼやきにプーレが苦笑いしている。
試しに取った一枚を見やると──。
「先日教えていただいた通りにしてみたら、気になるあの子と親密な関係になれました。そこで今回はどうしたら子作りまで持っていけるのかのご教授を──こいつはバカか」
──なんとも赤裸々な内容が書かれていました。
もう完全にラジオ番組のお便りだよ。しかも内容がわりとぶっ飛んでいません?
親密な関係になったの次がなんで子作りなんですか。駆け足で階段を上りすぎですよ、水竜山脈の引っ込み思案さん!
「もうちょっと手順を踏め! 親密な関係といってもキスもまだだろうから、まずはキスをしてから徐々にボディタッチを増やしていけるように目指すべし!」
あせりすぎな引っ込み思案さんに具体的なアドバイスを書き記してから、次のお便りを取ろうとした。
「はい、「旦那様」」
次のお便りをレアが取ってくれた。その笑顔はとても清清しい。
というかなんだかお顔がつやつやしていません?
本当に記憶が途切れた数時間になにをされてしまったんでしょうか? 本気で怖いっす。
「あ、ありがとう、レア」
お礼を言ってレアが差し出してくれたお便りを取ろうとしたのだけど、その寸前でもう一通のお便りが差し出された。差し出してきたのは──。
「年、じゃなく、レア様のよりもこちらを先にどうぞぉ~」
ニコニコと笑うサラさん。しかし確実にいま年増って言おうとしたぞ? 年増って。その証拠にレアの眉間に青筋ががががが。
「……ステーキにしてやろうか? クソトカゲ」
「年増は出しゃばらないでくれませんかぁ~?」
レアとサラさんがニコニコと笑いあいながら火花を散らしあう。
火花を散らすふたりと距離を取るようにして、プーレは俺の隣に立っていた。
「……プーレ。お便りちょうだい」
「……はい」
プーレは火花を散らすふたりをちらちらと見つめつつ、次のお便りを渡してくれた。
けれどレアもサラさんもそのことには気づかずににらみ合っていた。
「……レアママとサラママが怖いね」
「恋は盲目と言いますからねぇ~」
シリウスとゴンさんは茶請けをかじりながら、ふたりのやりとりを見つめている。
あの、どちらでもいいので、止めてくれませんかね?
「無理」
「馬に蹴られる趣味はありませんのでぇ~」
シリウスもゴンさんもばっさりと切り捨ててくれる。
おかげで執務室の中は殺伐としている。殺伐とした中で俺は必死に仕事をすることしかできなかった。
その後ふたりのにらみ合いは寝るときまで続いたのは、言うまでもない。
続きは今夜十二時です。




