Act7-22 紅穹のキス
また遅くなりました。
休みの日は集中が切れて本当にダメです。
安定して十六時更新できなず、申し訳ないです。
次は気をつけたいな。
今回はキス回ですね。しんみりするはずが、なぜかそうなりました←
日が暮れていく。
世界の色が変わっていく。
蒼穹が終わり、紅天へと移ろいで行く。
その空もすぐに終わり、星空へと変わってしまう。
温泉のそばにあった大木に寄りかかりながら、変わっていく空をぼんやりと眺めていた。
膝の上には健やかな寝息を立てるシリウスがいる。
耳をぴくぴくと動かしながらも、シリウスは眠っていた。
すっかりと大人びた子になったけれど、こうして眠る姿はグレーウルフ時代となんら変わっていない。
あの頃のままだ。かすかに動いている耳ごと頭を撫でてあげるとシリウスは気持ちよさそうにしている。その姿もまた俺には愛おしい。
「どうされましたかぁ~?」
視界にサラさんの顔が映った。
もう今日も終わるけれど、ようやく今日のサラさんの服装を見られた気がした。
今日のサラさんは赤いVネックのカットソーに白いスカートといういで立ちだ。
実にお姉さんっぽい服装です。
まぁ、「スロウス」の城を出るときにも見たと言えば見たのだけど、あのときは本当にデートなんてしていいのかという気持ちが強すぎて、サラさんの格好にまで目が行っていなかった。
いま思えばとても失礼なことをサラさんにしてしまっていた。
もう日が暮れて、あとは城に戻るくらいだけど、まだ今日がデートの日であることには変わりない。褒めておくのはいましかなかった。
「……いまさらなんだけどね」
「はい?」
「その服、似合っているね」
褒めることはできた。できたけれど、顔を逸らしながらだった。というか顔を逸らさないと褒められなかった。
なんというか、服を褒めるのってわりと勇気がいるね。サラさんの恰好が似合っていないというわけじゃないよ。
ただこういうことをしなれていないから、褒めるのがわりと難しい。どう言って褒めればいいのかがわからないんだ。
それでもいまのサラさんの服がよく似合っていることはたしかだった。それこそドキドキとしてしまいそうなくらいにはよく似合っている。
「……本当にいまさらですねぇ~」
やれやれとサラさんにため息を吐かれてしまう。
まぁ、今日もほぼ終わりかけというところで、ようやく服を褒められたんだから、そう言われてしまうのも無理はないよね。
俺がサラさんの立ち場であれば、きっと呆れてしまうだろうし。
俺ってばやっぱり意気地なしだなと思うよ。
もしくはとんでもないヘタレ。やることはやるくせにこういうことには奥手になってしまうんだから、ヘタレと言われても仕方がないもの。というか俺自身でヘタレと思うもの。
いつになったら俺はヘタレを卒業できるんですかね? まったく想像できないです。
「普通、デートであれば真っ先に相手の服装を褒めるものですよぉ~? それをデートが終わりかけでようやくって。「旦那様」は本当にヘタレさんなんですねぇ~」
サラさんの言葉が地味に痛いです。真っ先に褒める。
うん、たしかにデートと言えば、相手側も勝負服を着るようなものだし、当然一目見て褒めるのは当然ですよね。
なのに最後の最後でようやくはどう考えてもヘタレの所業だよね。
わかっている。わかっているけれど、こればっかりは性分なのです。
その辺をサラさんには理解してほしいなと思いたい。
いや理解していただけたら大変助かりますね、はい。
「す、すいません」
「本当に悪いと思っているのであれば、こっちを見て言っていただけますかぁ~?」
たしかに相手の顔を見ずに謝るとか、悪いとは思っていないと言っているようなもの。
いや、そういう風に取られても仕方がないことだ。
でもなぁ。サラさんに呆れられるとか俺のグラスハートが粉々に砕けそうで怖いです。
でも見るように言われている以上は見ないといけないしなぁ。どうしたものか。
「悩んでいる暇があれば、さっさと見ましょうよ。ヘタレの「旦那様」」
「……ソウデスネ」
ヘタレとまた言われてしまった。
ヘタレと言われるたびに胸が痛いです。
けれどどんなに胸を痛めたところで、サラさんの言葉は止まらない。
ならこっちが折れるしかない。
そもそも俺がマナー違反をしたのが悪いのだから、これも当然だよね。
小さく、本当に小さくため息を吐きながら、サラさんの方へと顔を向けた、そのとき。
「んっ」
軽やかな音がこだました。目の前にはまぶたを閉じたサラさんの整った顏が見える。
長くきれいなまつげに、すらりとした鼻筋、きめ細かな褐色の肌が、ほんのりと紅く染まった褐色の頬がよく見える。
それらの情景をぼんやりとしながら俺は見つめていた。
紅い夕日が世界を照らしている。
その夕日にサラさんもまた染まっていた。
夕日に染まるサラさんはとてもきれいだった。
どう例えればいいのかはよくわからない。
というか思いつかない。
それくらいにきれいだった。
胸がどくんどくんと高鳴っている。
高鳴る鼓動を感じながら、やや一方的なキスをしばらく交わしていく。
「ふふふぅ~、奪っちゃいましたぁ~」
しばらくしてサラさんが唇を離した。
リップなのか、それともグロスなのか、サラさんの唇はほのかに濡れて光っている。
頬よりも紅い唇に目が行く。
触れたいという衝動に駆られていた。
その衝動に気付いたときには、すでにサラさんの唇を奪っていた。
膝の上にいるシリウスを起さないように気を付けながら、サラさんの体を抱き締めて口づけを交わす。
腕の中でサラさんが体をふるりと震わせた。
「……ふふふ、情熱的ですねぇ」
サラさんが上気していた。
上気しながら嬉しそうに笑ってくれる。
その笑顔がたまらなく愛おしく思える。
少し前までカルディアのことで頭がいっぱいだったのに、いまはもうサラさんのことしか考えられなくなっていく。
こういうのも尻軽というのかな?
よくわからない。わからないけれど、いまはただこの胸に募る衝動に身を任せていたい。
「サラさん」
「呼び捨てでもいいですよぉ~? あ、でも私だけさん付けなのも捨てがたいですねぇ~」
ふふふとサラさんは楽しそうだ。
サラさんが楽しそうであれば、俺も楽しい。
ただこれをレアに知られたら、ひどいことになりそうで怖い。
でもいまはサラさんのことだけを考えていよう。
いま目の前にいるのはサラさんであって、レアではないんだから。
「いつか一番になりますよぉ~」
「え?」
「いつか私が「旦那様」にとっての一番になりますからねぇ~と言ったのですよ。レア様やプーレちゃんはもちろん、正妻であるノゾミちゃんに対しての挑戦状を叩きつけましたからねぇ~」
ふふふぅ~と満足げにでもたしかな闘志を抱きながら、サラさんは言った。
うかつなことをしてしまったのかもしれないといまさら思ってしまったけれど、もう後の祭りだ。
「……お手柔らかに」
「はいはい~、全力で頑張りますねぇ~」
うふふふぅ~とサラさんはとても楽し気だけど、俺の胃にダメージを与えることを言ってくれたんだ。
こうしてこの日のデートは終わりを告げた。




