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Act7-19 温泉デート?

 恒例の土曜日更新です。

 まずは一話目です。

 豹変したサラさんによるデスフライトは無事に終わった。


 デスフライトであるはずなのに、無事に終わったとか意味わからんとか言われそうだけど、実際何度も死ぬと思ったから、デスフライトで間違ってはいないのですよ。


 なにせサラさんってば、シリウスにせがまれたからと言って、わざわざバレルロールやってくれたもの。


 バレルロールをしながら、上昇とか意味わからんことをしてくれましたからね。


 そんなサラさんの姿をたまたま通りかかった竜族のみなさんが目撃されていましたが──。


「おぉ、さすがは当代の風のドラゴンロード様の補佐役様だ。見事な空中機動だ」


 ──なぜか暴走したサラさんを見て目を輝かせていました。


 あれはいま考えても本気で解せない。


 竜族の感覚は人とはだいぶ違うとは思っていたけれど、ここまで違うものなんだなぁとしみじみと思いましたよ。


 そのデスフライトを終えて、俺たちはいま──。


「はぁ~。やっぱりここの温泉はいいですねぇ~」


「わぅ~。いい湯加減なの~」


 ──首都「スロウス」からだいぶ離れた山脈。


 サラさん曰く「火竜山脈」にほど近い山の中にある温泉に浸かっていた。


 つまりはサラさんとのデートは温泉デートになったってことだ。


 温泉と言っても「ベルジュの街」にあった「焔」のような温泉宿ではなく、人の手がほぼ入っていない自然の温泉なんだけど。


 例えるなら、お猿さんとか入っている自然の秘湯的な奴です。


 まぁ、ここの秘湯にはお猿さんではなく、もっぱら竜族の温泉みたいなんだけど。


 実際温泉の前には立て看板があって、「竜族専用の秘湯」と書かれていたものね。


 とはいえ、竜族しか入っちゃいけないわけではなく、単純に竜族以外には向いていない温泉と言いますか。要はかなりの熱湯なんですよね、ここ。


 だってお湯がぐつぐつと煮え立っているもの。煮え立つのはおでんで十分です。


 というか、これは昔懐かしのバラエティー番組じゃない? 


 かつて日曜日のお昼頃にやっていたという番組内のワンコーナーを思わせる温度です。


「押すなよからの押せよ!」の様式美が確立されたと親父が言っていたなぁ。よく意味はわからなかったけれど。


 そんな熱湯を前にシリウスってば喜々としてサラさんと一緒に浸かっているね。


 ちなみに俺はつま先を入れただけでやめました。


 触れただけでつま先の感覚がなくなったもんよ。


 あんなのはお湯じゃない。新手の凶器だよ。そんな凶器じみたお湯に全身を浸からせたら、間違いなく死ねる気がする。


 死因熱湯に入ってゆでだこ死なんて冗談じゃないですよ。そんな死因は笑えないよ。


 いくら半神半人になったとはいえ、まだなり立てだからかな。


 こういうことに関しての耐性はまだ低いみたいで、サラさんとシリウスのようにこの煮え立つ温泉を楽しむことはできそうにない。


「「旦那さま」は本当に入らないんですかぁ~?」


 掛け湯をしながらサラさんが不思議そうに首を傾げていた。


 シリウスも「わぅ?」と首を傾げているもの。


 見たところ我慢しているわけではなく、この煮えたぎったお湯をいい湯加減だと本気で思っているみたいだね。


「……いや、この温度は入れないからね?」


「わぅわぅ、パパは情けないね。こんなにもいいお湯なのに」


「そうですねぇ~。ここほどいい湯加減の温泉なんてなかなか存在しませんよぉ~?」


「ノゾミままに紹介したら、きっと喜んで入ってくれると思うよ?」


「いや、希望でも無理だからね?」


 まぁ、温泉を心の底から愛している希望であれば、この温泉でも入りに来るかもしれないよ? 


 でもこの温度はさすがの希望でも匙を投げると思うんだよね。


「温泉を前にしているというのに!」


 とかなんとか言いながら、悔し涙を流しそうな希望さんの姿をありありと想像できます。


 本当に希望ってばどれだけ温泉好きなんだろうな。


『いいですよね、温泉。子宝の湯とか最高ですし』


「……おまえがなにを言おうとしているのかがわかってしまう俺自身が嫌になるね」


『ふ、同じ穴の狢って奴ですね。しょせんはカマトトぶっても、あなたもしょせんは変態なんですよ、香恋』


 恋香が勝ち誇ったように言う。


 否定したいところだけど、否定できないのがとても悔しくて悲しい。


 人間なんてみんなそれぞれ性癖がありますからね。


だから人間みんな変態でもいいんじゃないかなと思うんですよ。


 大事なのは、その性癖をいかに隠しつつ周りに迷惑を掛けないかだと俺は思うの。


 恋香の場合は確実に周囲を巻き込むようなことになるから、それがダメだと俺は思うよ。


「パパはレンゲほどの変態ではないと思うけど」


 シリウスが珍しく俺を擁護してくれた。


 ただ、そこは変態じゃないとはっきりと言いきってくれたらパパはもっと嬉しいんだけどな?


 言ってもシリウスちゃんってば聞いてくれそうにないでしょうけどね。


 そういうところもかわいらしいぜ。まったく。


「まぁ、変態ではないですがぁ~、度を越しすぎた親バカであることには変わりませんねぇ~」


 サラさんは掛け湯をしながら笑っていた。地味に胸に突き刺さる言葉ですね。


 でもね? 娘を愛でずしてなにがパパよ! 俺はいついかなるときでもシリウスを愛でていたい!


「……気持ち悪い」


 うぇ~と舌を出しながら、シリウスが嫌そうな顔をしている。


 でも俺は知っている。嫌そうな顔をしながらもお湯に隠れた尻尾がふりふりと揺れていることをね。


 まったく素直じゃないよね、シリウスってば。そういうところも愛らしいぜ。


「……嬉しくなんかないもん」


「ふふふぅ~」


 頬を膨らまして顔を逸らしたシリウスを見て、サラさんはおかしそうに笑っている。


 見ためはまるで違うし、種族もまるで違うけれど、ふたりのありようは親子のそれだ。


 ……一番親子のように見えた「まま」はもういないけれど、カルディアを喪った悲しみをシリウスは少しずつ乗り越えてくれているのがよくわかる。


 パパとして乗り越えようとしてくれる姿を見られるのは喜ばしいことだった。


『本当に妙なところでいいパパになろうとするんですから。あなたは困った人ですね』


 やれやれと恋香が呆れている。呆れられてもこればっかりはどうしようもないんだけどな。


 だっていまのシリウスは本当にカルディアによく似ている。


 だからこそより一層シリウスが愛おしい。


 もともと愛おしかったけれど、愛していた人の面影を持つようになってからはより顕著になった気がする。


『……あなたにとっての一番はいったい誰なんでしょうかね?』


 恋香が洩らしたひと言に俺はなにも答えることはできなかった。


 できないまま、温泉に浸かるシリウスとサラさんを恋香と一緒に見守ることしかできなかった。

 続きは二十時になります。

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