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Act7-19 たしかな血の繋がり←

「やっぱりこの街は変わっていますねぇ~」


 のんびりとした口調でサラさんが空を飛ぶ。正確には「スロウス」の上空を旋回している。


bそのまま羽ばたいて上昇するのは、この街ではやりづらいので、こうして旋回しながら徐々に高度をあげるのがこのあたりの竜族にとっての常識のようだ。


 俺はそんなサラさんの背中に乗っていた。サラさんは普段の竜人モードではなく、本来の竜の姿に戻っている。竜の姿で空をのんびりと飛んでいた。


「わぅ~。風が気持ちいいの」


 腕の中のシリウスが気持ちよさそうにしている。


 銀色の立ち耳がぴくぴくと動き、ふさふさの尻尾をお腹側にくるんと回して、みずからブラッシングしている。


 もっともブラッシングと言っても手が止まることの方が多いため、ほとんど形だけだ。お気に入りの黒いブラシを尻尾にあてているだけだね。


「ふふふ、シリウスちゃん。お空の上は好きですか?」


「わぅん。空の上は広くて気持ちがいいから」


「そうですかぁ~。サラママもお空の上は大好きですよぉ~」


 サラさんは上機嫌だ。俺とのデートのはずがシリウスも付属することになったのに、特に気にもしていない。


 むしろシリウスが付いてきたことを喜んでいるようだね。それだけうちの愛娘の撃墜率が高いということでもある。まったくうちの愛娘の愛らしさと来たら、さすがだぜ。


「……わぅ~。パパがキモい」


「まぁ、いまのはたしかに気持ち悪いような」


 おかしいな? 愛娘の愛らしさを語っただけでキモい判定を食らったんですが? 


 冗談でしょう? 冗談だよね? だって俺はシリウスがいかに愛らしくそしてかわいいのかを語っているだけであって、別にシリウスを変な目で見ているわけじゃないんだよ?


 なのになぜそれがキモいのだろう? これは明らかな陰謀の匂いが──。


『いや、単純にキモいだけだと思いますよ? 愛娘がかわいいというのはわかりますが、そこまでべったり&デレデレなのはさすがに』


「わぅん。レンゲの言う通りだよ」


「ですねぇ~。普段はレンゲさんの方が気持ち悪いですが、シリウスちゃんに関しては「旦那さま」も」

「なんて風評被害」


 まさかの恋香と同等レベルのキモさと言われてしまったんですが。


 いやいや、それはないよね? 


 だってさ、恋香はとびっきりの気持ち悪さを誇る子ですよ?


 まぁ、俺の半身みたいなものだから、そのまま俺にブーメランですけど、それでも恋香には負けると思うんですよ。


 それに恋香のは性癖丸出しだからこそのであり、俺のはあくまでもシリウスという愛でる対象がいるからこそですよ。


 ほら、性癖と娘への愛。どちらがより健全であるのは火を見るよりも明らかであってですね──。


『諦めなさい、香恋。あなたは気持ち悪いのですよ』


「そういうおまえも気持ち悪いと言われているからな?」


 俺だけが気持ち悪いというような言い方だけど、そういうこいつもまた気持ち悪いとはっきりと言われている。


 しかも恋香の場合は、普段からだ。俺はシリウスに関してだけ。いわば、常時と限定。どちらがよりまともであるのかなんて言うまでもない。


「……パパもレンゲも気持ち悪いことには変わりないのに」


「……わかっていても言わないであげるのが優しさですよ?シリウスちゃん」


 サラさんとシリウスが心を抉るようなやり取りをしているけど、あえて聞こえないふりをしよう。


 あ、もしかして恋香も聞こえないふりをしているのかな。


 サラさんとシリウスのやり取りは吐血レベルに心を抉ってくるのに、平然としていられるわけがないもんね。だってさ、恋香も俺なわけだからね。


 であれば、恋香も耐えているのかな? 変態だから、かえって興奮していそうな気もするけど──。


『ふざけたことを抜かさないでいただきたい! 私は罵倒で快感を得ることはありません。私は踏みつけられながら、ごみくずを見るような冷ややかな目を向けられないと──』


「……シリウスちゃんの教育に悪いことは言わないでくれませんか?」


「……レンゲは本当に気持ち悪いの。パパにもこういうところがあるのであれば、パパとの関係は考えないといけないね」


bサラさんとシリウスがとても冷めた目で俺を見ている。正確には俺の中の脳内ピンクを見ているんだけど、まるで俺が気持ち悪いような扱いをされているみたいで非常に遺憾です。


「おまえのせいだぞ、脳内ピンク!」


『はぁっ!? わたしのせいではなく、あなたが変態だからでしょうに! だからこそ私の口の中は鉄の味でいっぱいなんですよ、この脳内むっつり!』


「そっくりそのまま返してやるよ、脳内ピンク! というかやっぱりおまえも耐えていたんかい!」


『当たり前でしょうが! 愛娘と嫁からのいわれのない風評被害を受けて、吐血せずにいられるわけが──』


「ふざけんなよ、この野郎! シリウスは俺の愛娘で、サラさんは俺の嫁であって、おまえの愛娘と嫁じゃねえよ!」


『私とあなたは同一人物であるのです! つまりはあなたのものは私のもの。私のものは私のものなんですよ!』


「意味わからん! というかそれだと全部おまえのものじゃんかよ!」


『そうとも言いますね』


「そうとしか言えねえよ! そんな理屈は通らせるか!」


 まさかのあのガキ大将の名言を言ってくるとは。さすがは恋香だ。だからと言って、認めるなとは思うなよ。


『いい加減、諦めて私にすべてをですね』


「ふざけんな!」


 恋香の世迷い言をばっさりと切り捨てると、恋香は『むむむ』と唸りだすが、どんなに唸られようがこればかりは許さん!


「……本当にパパとレンゲは仲良しだね」


「双子のようなものらしいですからね。どちらがお姉さんなのかはわかりかねますがぁ~」


『私の方が姉に決まっているでしょうに!』


「はぁっ~? 意味わかりませんけどぉ~!?」


『うっさい! 黙りやがれですよ!』


「おまえが黙れよ!」


「……このふたりはどっちも妹な気がするよ、サラママ。ふたりとも子供っぽいもん」


「ん~、否定できませんねぇ~」


 シリウスのあんまりなお言葉に口の中に鉄の味が広がりました。そこにサラさんの一言がトドメとなった。


 頭の中で恋香が『こふっ』と言っているのが聞こえました。


 え? 俺? とっくにこふっとしていますがなにか?


 でもね、それもこれもすべては──。


「おまえのせいだぞ、脳内ピンク!」


『はぁぁぁ~っ!? 私のせいにしないでくれませんかね、脳内むっつり!』


 今日何度目かになる舌戦が再び勃発した。


「……サラママ、パパとレンゲがうるさいよ」


「我慢ですよ、シリウスちゃん」


「でも」


「じゃれ合いもすぐにできなくなりますから。っと、そろそろいい感じの高度になりましたねぇ~。そろそろお口チャックですよ、シリウスちゃん」


「はぁい」


「ではぁ~」


 サラさんとシリウスがなにか言っていたが、俺は恋香との決着に忙しくて話を聞いていなかった。それが仇となった。


「いっきまっすよぉ~!」


 サラさんがいつもとはまるで異なるテンションで叫んだと思ったときには視界が歪んだ。


 ゴンさんがハイになったときのようだった。


 でもゴンさんとは違い、サラさんはオラオラ口調にはなっていない。そうオラオラ口調ではないんだ。でも──。


「あっはっはっはっ! もっと、もっと、もっとぉ! 飛ばしますよぉ~! あっはっはっはぁ~!」


 ──スピード狂でした。


 正面から見ていないからわからないけど、きっとお目目は血走っているか、トリップしちゃっている系ですね。


「さ、サラさん、ストップ、ストップぅ~!?」


「あっひゃひゃひゃ!」


「わぅん! サラママ速い、速い!もっと、もっと!」


「シリウスぅ~! 余計なことは──あばばば!」


 サラさんってば、完全にトリップしていますね。


 じゃなければ、「あひゃひゃひゃ」なんて笑い声は普通あげませんから。


『あなたの嫁にはまともなのはいないんですか?』


 冷静な恋香のツッコミに返事はできなかった。


 なにせサラさんは、シリウスの余計な一言でスピードアップしてくれたからね。視界が歪むぜ。


「このまま一直線ですよぉ~!」


「わっうーん!」


 サラさんとシリウスの元気のいいやり取りを聞きながら俺は目的地までサラさんにしがみつくことしかできなかった。

 ゴンさんの妹にあたるのであれば、当然本気で飛んだら性格が豹変しないといけないと思うのです←きっぱり

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