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Act7-16 お便りをさばいて

 ワイバーンと竜族の争いが一応の終結を果たした翌日、俺は早速「禁足地」について調べごとを──。


「はい、次!」


「「光竜山脈」付近の竜族の集落からの訴えなのです。「最近食糧が不足しています。どうしたらいいでしょうか?」とのことなのです」


「考えて狩りをしろ! 具体的には、ワイバーンたちが狩りの名手なので教えを請いなさい。以上! 次!」


「次は「火竜山脈」付近の集落からですね。「最近まじあついっす。どうしたら涼しくなりますかね?」とのことですね」


「人化の術を使え! 具体的に言うと竜の巨体よりも人間状態の方が体温は低くなるし、木陰にも批難できるようになります。以上、次!」


「えっとぉ~、次は「風竜山脈」付近の集落ですねぇ~。「スカートめくりなる鍛錬が流行っているそうなのですが、具体的にはどうすればいいのでしょうか?」だそうですぅ~。……この集落滅ぼしに行っていいですかぁ~?」


「落ち着こう、サラさん。まだ慌てる時間ではありません。気持ちはよくわかる。なのでその集落には、ひいてはその訴えを出してきた竜族には「スカートめくりとは、同族の男にスカートを穿かせてめくる鍛錬です」と言っておいてください」


「……変態が増えるだけなような」


「女性に被害が出ないからよし! では次!」


 ──調べごとはまったくできていません。というかそんな余裕は一切ありません。


 なんでかと言うと、今日になって急きょ俺はベルフェさんから、「翼の王国特別広報臨時顧問」という役職を戴いてしまった。


 その結果、朝からずっと「翼の王国」の各集落、主に竜族の集落からの訴えの返信を延々と繰り返しているんだ。


「これがデウデウに頼んでいたことなんだよ」


 とこの国のロリ王様は玉座でいつものように胡坐をかいてお菓子を食べながら説明してくださいました。


 そもそもデウスさんからの依頼は、「翼の王国」で起こっている異変の解決だった。


 その異変の原因であるワイバーン百万頭の群れは、ベルフェさんが一撃で残り一万頭まで削ったことで大きな戦乱となる前に鎮圧されることになった。


 ただベルフェさんがデウスさんに救援要請をしたのは、ワイバーン百万頭の群れが手に余るからではなく、戦後処理の問題が山積みだったからだ。


 具体的には竜族の各集落にそれなりの被害が出てしまっていて、復興が遅れてしまっているんだよね。


 まぁ、被害とは言っても死者が出たわけじゃない。


 が重軽症合わせると数百人単位になるらしい。


「翼の王国」での竜族は千五百で、全体の五分の一くらいが怪我を負ってしまっていた。


 むしろ百万頭のワイバーンを相手にして、数百単位でしか怪我人がいない時点で、竜族の規格外さがよくわかる。しかも死者は誰もいないというのがまたすごい。


 普通に考えたら千倍の軍を相手に死者が誰も出ていないということ自体がありえない。


 まさに一騎当千の強者ばかりということになる。


 実際は六体の古竜に加え、当代のドラゴンロード全員を総動員して拮抗していたみたいだけど。


 その際、六体の古竜のうち、トカゲジジイ以外の五体が怪我を負ってしまったそうだ。


 もちろん重症ではない。単純にぎっくり腰らしい。

 

 竜族でもぎっくり腰になるんだなとカルチャーショックを受けたのは言うまでもない。


 とにかく古竜でも多少の犠牲を出してしまったこともあり、現在復興はかなりスローペースになっていた。


 そこにワイバーンの長老の黒さんの息子さんと光の竜族の長老さんの息子さんが喧嘩を始めてしまった。


 戦後処理ないしは復興に忙しいベルフェさんのところに毎日のように嘆願に来るふたりに、ベルフェさんが参ってしまった。その結果がデウスさんへの救援要請だったそうだ。


 俺はてっきり「獅子の王国」のような叛乱が起こりかけていると思っていただけあって、かなり肩透かしを食らった気分だったね。


 こうして各集落とのやりとりをするまでは、ね。


「レンさん、次のお便りが来ていますよ」


「とんでもねえ量だぞ、おい」


 俺の作業部屋として「スロウス」の城の一角を貸してもらっているのだけど、次から次へとタマちゃん曰く「お便り」が届くんだ。


 それもかなりのハイペースで。おかげで一つ一つの嘆願書を確認している余裕は一切ない。


 むしろそんなことをしている間に十通は嘆願書が届くんだもの。


 おかげでタマちゃんとヴァンさんに運搬してもらい、届いた端からプーレ、レア、サラさんに読んでもらっては指示を出すというのをかれこれ五時間は繰り返している。


 というのにいまだに供給が止まりません。


 供給が需要を超えていますよ、と言いたいけれど、そんなことを言っても止まってくれないのが嘆願書であり、お便りだった。


 ……うん、俺もなにげになにを言っているのかわからなくなってきたよ。


 それでもいまはこれをやるしかない。


「わぅ~。暇なの」


「そうですねぇ~」


 うちの愛娘は暇そうにゴンさんに寄りかかってジュースを飲んでいますね。


 ゴンさんはゴンさんであくびを掻きつつ、俺たちの悪戦苦闘を眺めています。


 シリウスはともかく、ゴンさんには手伝ってほしいところなのだけど、たぶん言っても無駄だろうなぁ。


「ほら、シリウスくん、パパに頑張れですよぉ~?」


「はぁい。パパ、頑張れぇ~」


 ゴンさんに言われて仕方がなくというようにシリウスはやや棒読み風にエールを送ってくれる。


 まったくそんな棒読みで俺が元気になると思っているのかな? 安く見られたものだぜ。


「よし、パパ頑張るぞ!」


「わぅわぅ、パパは単純だね」


「そうですねぇ~。チョロイです」


 そうしてシリウスとゴンさんの何気ない一言からの風評被害を浮けつつも、各集落からの嘆願書という名のお便りをいままで以上のハイペースでさばき、その日の作業はどうにか終了したんだ。


 ちなみにその翌日にも同じ量のお便りが来たのは言うまでもない。

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