Act0-67 友達 その三
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「異世界人なの? カレンちゃんは」
「うん。エルヴァニアって国に召喚されたみたい」
「エルヴァニアに?」
「勇ちゃんの、勇者アルクの手助けをしろってね。まぁ、向かったところで、手助けもなにもなかったわけだけどさ」
カレンが苦笑いをした。嘘を吐いているようには見えない。
だが、同時にまたひとつ納得できた。
エルヴァニアに召喚され、勇者アルクの手助けをするために、「魔大陸」に送られたからこそ、カレンは勇者アルクと知人であるのだろう。
勇者アルクがカレンを連れて、星の小人亭に来たときは、てっきり勇者アルクの女かと思った。
しかしすぐにその線は消えた。
以前言っていた勇者アルクの好みと、カレンとではまるで違っていた。
具体的に言えば、胸部装甲がだいぶ足りない。
もっともそれは自分にも同じことが言えるのだが。とはいえ、自分はハーフフッド族だからこそだ。
だがカレンは人族であるはずなのに、年相応とは言えない慎ましやかさだった。勇者アルクの好みとは真逆である。
だからこそ、勇者アルクとカレンとの関係はよくわからなかった。
しかしそれもカレンが勇者アルクの手助けのために、エルヴァニアに召喚された異世界人であれば、理解できる。
同時に、胸が痛くなる。罪悪感が募っていく。
エルヴァニアに召喚された。
それはつまり自分とも関係しているということだった。
異世界人の召喚。方法は確立されていた。
だが、確立されていても、そのために必要なエネルギーが問題だった。
具体的に言えば、魔力が大量に必要なのだ。それこそ魔導師数人が命がけで魔力を絞りつくしても足りないほどにだ。
だからこそ、異世界人を召喚する際には、大量の魔石が必要になる。
大量の魔石を使用して、ようやく異世界人ひとりを召喚できるのだ。
だが、魔石もただではない。
「聖大陸」には魔石が多く出土するが、それでも無限に手に入るわけではない。
加えて、魔石は異世界人の召喚以外にもさまざまな用途で使われるのだ。
一般的な五人ほどの家庭で一か月に三つの魔石を使用する。それが異世界人の召喚には、その数十倍も大量に使用するのだ。
それだけのコストをかけても、異世界人すべてが有用な働きを見せてくれるとは限らない。
下手をすれば、この世界の子供にも劣る能力しかない者を、召喚してしまう可能性もあった。
つまり異世界人の召喚は、非常にコストがかかるのだ。
有用な資源を食いつぶすことになりかねない。
しかし魔石の代りに、人を使用すれば、話は別だ。
保有魔力に個人差はあるが、魔石ひとつ分の代金で、十人ほどの人間を買うことができる。
食い詰め者のスラムの住人や親のいない孤児など、それこそ魔石以上に人という燃料は大量に存在している。
が、基本的に人を燃料として使用しての異世界人の召喚は、「聖大陸」でも「魔大陸」でも禁じられていた。が、エルヴァニアはその禁忌を平然と犯していた。
魔石よりもコストがかからないからだという理由でだ。
しかもエルヴァニア王みずからがそう言ったらしい。
普通は、そんなことを王が言ったなんて、自分のような現場の者が知るはずもない。
しかし実際に知っている。それは単純に裏切らせないためだ。
裏切れば命はない。
ただそれを口だけで言っても、なんの説得力もない。
だが最上位にあたる人物の秘密を共有させられるとなれば、話は別だ。
秘密の暴露は、文字通り死で贖うことになる。
内容にもよるが、公にできないことであることには変わりない。
それを暴露されてしまえば、最上位の人物にとっては、致命傷にもなりえる。そんなことをして、ただですむわけがない。
つまり、秘密の共有というものは、連帯感を抱かせると同時に、裏切りの防止にもなるということだ。
だからこそ、エルヴァニア王が、人と言う燃料を使っていることを知っている。
そしてカレンがエルヴァニアに召喚されたということは、そういうことだ。
自分はカレンを家族と離ればなれにさせただけではなく、カレンに人殺しをさせてしまっているのだ。それもカレン自身が気づかないうちにだ。
やはりだめだ。
自分なんかとカレンが一緒にいていいわけがない。
友達でいていいわけがなかった。
「やっぱり、ダメだよ。私は」
「ダメじゃないよ」
「違うの! 私は、カレンちゃんに人殺しをさせてしまっている! カレンちゃんが気づかないうちに、私はカレンちゃんを」
言っても理解できないだろう。それでも言わずにはいられなかった。
「……モーレ。もういいよ。少し休もう。モーレは少し疲れているんだよ。ちょっとだけ休もう」
「違う。そんなこと」
「いいから、いいから。その辺の木の根元でしばらく休もう」
カレンは笑って、手を引いてくれた。
温かい。
手だけではなく、カレンは心までもが温かい。
その温かさに惹かれていく。
自分の犯してきた罪が、消えていくようにも思える。
しかしそんなことはありえない。
自分はどこまで行っても犯罪者だ。
そのことには変わりない。なのにカレンと一緒にいるだけで、もう贖罪ができたと思えてしまうのだ。
そんな都合のいいことがあるわけがない。
そんなことができるのは、神さまくらいだ。
でもカレンは神さまじゃない。
神さまと思うくらいに、優しい子ではあるけれども、この子はただの人間だった。
異世界で生まれ育った、ただの人間だった。
そんな子を血に塗れた道を歩ませている。
その現実を、モーレは受け止めることができなかった。
この事実を口にしたら、カレンはどう思うだろうか。
軽蔑するだろうか。して当然だ。自分だって軽蔑する。いや軽蔑するどころか、嫌悪さえするだろう。
カレンちゃんに嫌われる。
頭をよぎったフレーズに背筋が震えた。たかが十三も年下の小娘に嫌われることくらい、どうってことはなかったはずだ。
そうだ。
嫌われるなんて、どうでもない。
なにせ自分は、嫌われるどころか、呪い殺されても不思議ではないほどのことをしてきたのだ。
それがたかが、小娘ひとりに嫌われる程度、どうってことはない。
そう、そのはずなのに、カレンに嫌われてしまうと考えただけで、胸が騒いだ。頭の中が真っ白になっていく。
ありえない。
この程度のことで動揺していてどうすると自分を叱責する。
しかし動揺してしまう。
カレンに嫌われてしまう。
それだけは嫌だった。それだけは避けたかった。
ああ、なんてことだ。
この程度のことで、こんな動揺するなんて、自分はいつから、こんなにひよってしまったのだろうか。
見る影がない。
これでは、弟妹たちと合わせる顔がないじゃないか。
しっかりしろ。そう自分に言い聞かせるも、一度頭をよぎった切望を振り払うことはできなかった。
時間が経てば経つほど、絶望は色濃く、肩に圧し掛かっていた。
どうすればいいのか。
どうしたらいいのか。
モーレにはもうわからなかった。
「……腹減ったね」
適当な木の根元に腰掛けて、カレンが不意に言う。
カレンは朝に食べたっきりだっただろうから、とっくに胃の中は空っぽだろう。
自分はいまそれどころではないから、空腹なんてどうでもよかった。
が、一度空腹と聞いてしまうと、急に意識してしまうようで、小さく音が鳴った。カレンからではなく、まぎれもなく、自分の腹から鳴っていた。
「モーレって意外と食いしん坊だね」
「そ、そんなことないよ。ただ、いままで食べている余裕とかなかったし」
「そうなんだ?」
「いろいろとあったからね」
そっかとカレンは頷いた。
聞かないのだろうか。
そのいろいろがどういうことだったのかを。カレンには聞く権利がある。
「……聞かないんだね」
「なにが?」
「カレンちゃんを攻撃したのは、私かどうかって」
カレンが押し黙る。
無理もない。それを聞けば、友人としての行動はもうできなくなるだろうから。
そして聞かれたら、モーレははっきりと答えるつもりだった。いや聞かれなくても言うべきだろう。
隠し通すことなんて、できるわけがないのだから。
「……カレンちゃんは、前だけを見つめていたから、無防備だったよ」
「言わなくていいよ」
「簡単だった。傷の残らない魔法を使えばいいだけだったからね。光系の魔法にはね。相手の意識を奪う攻撃があるの。「光絶」って言うんだけどね」
「言わないでよ」
「「光絶」は、光系の魔法のくせして、遅い魔法でね。普通に放ったら、避けられちゃうんだけど、カレンちゃんは背中を見せていたから、簡単に当てられたよ。カレンちゃんは、「獲物」だったから、傷をつけちゃいけないって思ったし」
「もういい!」
カレンが叫ぶ。真っ暗な街道でカレンの声がこだましていく。




