Act7-5 忘れていた地獄のご対面←
本日二話目です。
サラさんがゴンさんの妹だとすると? というところですね。
「まったく。グリード様の要請で迎えに来てみれば、愚妹がいるなんてどういう状況ですかぁ~」
怒り心頭なお義姉さんことゴンさんを先導に俺たちは首都「スロウス」の城へと向かっていた。
首都「スロウス」はそれまでに見た村や集落と同様に、自然にできたというにはありえない構造だった。というかあきらかに人の手が入っているというか。
ひと言で言えば、野性の鳥の巣と言いますか。
木の枝にあるいろんな材料を使って作られた鳥の巣をそのまま巨大化したと言えばわかりやすいのかな?
城を中心に放射状に街が広がっているのはどこの国の首都でも同じだけど、「翼の王国」ではその外観が森の中にいきなり現れた巨大な鳥の巣という感じなんだよね。
実際空の上から見てみると巨大化した鳥の巣というイメージがより顕著になる。
木の皮やらは使っていないし、中にはひな鳥がいるのではなく、首都の街並みが広がっているという違いもあるけれど、ぱっと見では鳥の巣を思わせてくれる。
たぶん有翼の種族たちが過ごしやすいように、みずから考案して作りだしたのがこの街並みなんだろうな。
上から見るのとは違い、歩いて街中を歩いてみると見ためは普通の街なんだよね。
レンガ作りの家がほとんどだ。ただほかの国の家とは違い、たいていの家が三階建て以上だ。
ほかの国の街は高くても二階建てくらいであり、三階建ての家は貴族かその土地の有力者の屋敷くらい。
この国みたく庶民でも三階建ての家に住んでいるというのはいままで見たことがない。
その代り家の入り口が三階にあるのは、まぁ、有翼の種族らしいとは思う。
レアが言うには、ほかの国でいう地下室が一階、二階にあたるらしい。三階がほかの国でいう一階にあたるって話だ。
中にはほかの国のように一階に入り口の家もあるけれど、それは有翼の種族以外の種族の家だ。
こんな高山地帯の国に有翼の種族以外の人が住めるのかなと思うけれど、街や村、集落を結ぶ転移陣があって、有翼の種族以外はその転移陣を利用して生活している。
ちなみに国境の岩山にも転移陣があるそうなのだけど、最近調子が悪いらしく、ちゃんと転移してくれないみたいだ。
下手をするとリアルに壁の中に転移することもありえるそうです。
あれってゲームのバグネタだと思っていたけれど、現実的に起こり得るんだね。恐ろしいよ。
「ね、姉様、そんなに怒ってばかりだと婚期を逃し──」
「あ?」
「……申し訳ございません」
サラさんの不用意すぎる発言にゴンさんがしかめっ面になりました。
普段のゴンさんとはまるで違う姿がひどく怖いです。
「まったく、もう。本当にカレンちゃんさんにもサラにも困ったものですよぉ~」
ゴンさんが足を踏み鳴らしながら、どんどんと先に進んでいく。
その後を俺たち、主に俺とサラさんは足取り重く着いていくことしかできません。
だってさ、いままでは気のいいお姉さんだったけど、いまやお姉さんではなくお義姉さんですよ?
敵に回すべきではないのですよ。
そもそも、ゴンさんには世話になってきたのだから、いまさら手のひら返しは人としてダメだと思う。
それにだ。
怒りながらもゴンさんはどこか楽しげでもある。
久しぶりに妹に会えて嬉しいんだろうね。
……久しぶりの時間が、人の一生を越えていることは実に竜族らしいことだけども。
「マモンさんには感謝ですね」
「うん?」
「いや、ゴンさんが来てくれなかったらいまごろあの断崖絶壁を登っていたんだと思うと、感謝以外に言いようがないですよ」
少し露骨だったかな?
話を反らすためにもマモンさんがゴンさんに要請をしてくれたことを言ったけど、ゴンさんはとても冷めた目で俺を見つめている。
「……じぃ~」
「あ、あははは」
あまつさえ、擬音を口にされていますし。
……下手に話を反らすべきじゃなかったかな?
サラさんを見れば、顔が青いです。
というか血の気を失っているといますよね。
覚悟を決めた顔をしているのがなんとも言えないね。
俺も覚悟を決めた方がいいのかな?
なんの覚悟かはいまいちわからん、ってなにか忘れているような?
……まぁ考えてもわからないことは考えても仕方がないかな。
忘れたってことは大したことでもないだろうし。
『……香恋は器が大きいのか、それともアホなのか判断に困りますね』
恋香が誉めているのか、貶しているのかわからないことを言っている。
でも俺がなにを忘れているのかをわかっているみたいだけど、こいつのことだから教えてはくれないんだろうなぁ。
『恋香にはわかるの?』
『……そのうちあなたも嫌になるほど思い出しますよ』
恋香はそれだけを言った。
不安を煽るようなことは言わないでいただきたいね。
言っても無駄でしょうけどね。
しかし本当になにを忘れているのやら。
そんなことをぼんやりと考えながらゴンさんの後に着いて中心である城へと向かい、そこで俺は──。
「おぉ、かわいい孫娘よ! 無事にお使いができたかの!」
──現実という名の地獄をようやく思い出すのだった。
続きは明日の十六時、になるといいなぁ。




