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Act7-4 まさかの関係

 恒例の土曜日更新です。

 まずは一話目です。

 空の上は相変わらず快適だった。


 昨日までは必死に登っていた「狼の王国」との国境の岩山と同レベルの山でさえひとっ飛びだもの。


 レアの言うとおり、「翼の王国」は有翼の種族以外が住居を構えるにはハードルが高すぎるなとしみじみと感じるね。


 でも空が飛べるのであれば、ここまで見事な風景を見られるのもそうないね。


 俺たちの眼下には見渡す限りの緑とどこまでも続いているかのように、いくつもの山々が連なっていた。


 恐ろしいことに山あいがほとんどない。あるにはあるけど、村どころか集落さえ作れるような広さはない。


 言うなればほぼ未開の地だね。


 ただ所々で人の手が入っているような場所が点在していた。


 例えば不自然に森が開けている場所だったり、逆に森を囲むようにして不自然な空白地帯が存在していたりと、人の手が入らない限りはこういう風にはならないような場所がところどころに見えていた。


 おそらくはそういうところがこの国の村や集落なんだろうね。


 有翼人種の国というと、山裾の切り立った崖をくり貫いて街や村を形成するというイメージがあったけど、よくよく考えてみれば崖をくり貫くってかなりの重労働だし、不意に崖が崩れて生き埋めや、くり貫いてしまったことで強度が脆くなっての地盤沈下とかありそうで怖い。


 レアも崖をくり貫いて形成した街や村なんて「翼の王国」には存在しないと言い切っていたもの。


 崖をくり貫いた街や村はとてもRPGっぽいんだけど、存在しないのか。ちょっと残念だ。


 でも視界いっぱいに広がる風景は、地球ではなかなかお目にかかれないものだ。


 アマゾンの熱帯雨林もいまでは削られちゃっているからね。


 よりよい生活のためとはいえ、人間の業の深さをしみじみと感じるね。


「相変わらず気持ちいいねぇ」


 アンニュイな気分になっている俺を差し置いてシリウスは尻尾をふりふりと揺らしながら、風を浴びてご満悦な様子。そんなシリウスをほほえましく見ていたいのだけど、そろそろ現実を見ましょうかね。


「はぁ~。風竜山脈を飛び出たと爺様が心配されていましたけど、まさか「ラース」にいるなんてねぇ~。予想外ですよぉ~」


「ひゅ、ひゅ~」


「……下手な口笛でごまかすでない、愚妹」


「っ痛! い、いま本気で殴りましたねぇ~!?」


「アホウ。これでも手加減したわ。我から言うことはこれ以上ないが、爺様がこのことを知ったら」

「し、知ったら?」


「……いつもの五割増しで構ってくるであろうな」


「うわぁ~、想像するだけでウザいですねぇ~」


「だがおまえにはいい薬だ」


「そ、そんなぁ~」


 ゴンさんの隣で見覚えのないドラゴンが並列飛行している。


 見覚えはないけど、声には聞き覚えがある。というかあって当然だもの。


 だってこのドラゴンはサラさんが変身した姿なんだもの。


 どうもサラさんは竜人ではなく、竜族かつゴンさんの妹にあたるらしい。


 ゴンさんが言うには、ゴンさんの実家である風竜山脈を家出しているとのことだった。


「……なんでおまえがここにいるんだ?」


 俺たちを迎えに来てくれたゴンさんがサラさんを見たとたん、口調が変わったもの。


 あのときは何事かと思ったよ。


 なにせ普段はのんびりとしているゴンさんから圧力を感じたもの。


 そんなゴンさんとは対照的にサラさんは顔を逸らしながら挨拶をしていたよ。


「は、はじめまして~。鍛治師のサラと──」


 いつも通りののんびり口調のはずなのに、目は泳ぎ、声は震え、心配になるくらいに大量の汗を掻いていたからね。


 いま思えばあれは脂汗だったよ。その理由はあっさりとわかってしまったけど。


「ほぅ? しらを切るか。ではおまえが十歳のときに生のヴェノムパイソンを食べて食中りで泣きわめいたことや、十三歳まで寝小便が治らなかったことなどを」


「──申し訳ありませんでしたぁぁぁ~! だからそれ以上の恥部を語らないでくださぃ~、姉様!」


 サラさんは最初しらを切っていたけど、ゴンさんに昔の失敗を話されたとたんに、土下座をして謝っていたね。


 しかしヴェノムパイソンって生で食べたら食中りすんのね。


 よかったよ、生で食べなくて。寝小便のことは、まぁ、うん。


 誰だって幼少の頃には布団の上に世界地図を描くものだから、致し方ないと思います。


 十三歳を幼少の頃と言っていいのかは、あえて言及しないでおこうか。


 そうしてサラさんとゴンさんの関係が明らかになると、ゴンさんが「さっさと竜の姿にならんか」とサラさんを脅し、もとい要求した結果、サラさんはゴンさんと並列飛行をしているわけだ。


 ちなみに俺とシリウス、それにタマちゃんはサラさんの背中に乗ってフライト中です。


 プーレとレア、それにヴァンさんがゴンさんの背中に乗っている。


 竜族がふたりもいるのだから、わざわざひとりの背中に全員が乗る必要はないとゴンさんが仰ったからです。


 サラさんはゴンさんの発言になにも言い返せないまま、竜の姿になり、俺とシリウス、それにタマちゃんを背中に乗せてくれたんだ。


「うぅ~。なんで姉様がこんなところにいるんですかぁ~。聞いていないですよぉ~」


 もっとも当のサラさんは涙目のまま、ゴンさんの隣を飛んでいるんだけど、どうにも竜の姿になることはあまり好きじゃないみたいだ。


 まぁ、だからこそ竜人と偽っていたわけなのだろうけれど。


「泣き言を抜かすでない、たわけ」


 そんなサラさんをゴンさんは「スパン!」といい音を立てて尻尾で殴り、サラさんは「あいた!」と言って頭を擦っている。


 ゴンさんって身内には厳しいんだなぁ。


 普段は優しい人だから、そんなイメージはなかったのだけど、この厳しさは毅兄貴を彷彿させてくれる。


 弟妹という存在はどこのご家庭でも兄や姉に虐げられてしまうというのは共通しているんだね。


「そもそも聞いていないのは我の方だ! なんでおまえは竜族のくせに鍛冶師をしているんだ!?」


「あ、あははは、これがやってみたら意外と楽しくてですね」


「それで百年も家に帰ってこないアホウがおるか!」


「こ、ここにいまー」


「あぁっ!?」


「……申し訳ございません、お姉様」


 そっと顔を逸らしながらサラさんが謝る。


 けれどゴンさんの怒りは収まりそうにない。


 ゴンさんもサラさんが憎くて言っているのではなく、サラさんを心配していたからこその怒りなんだろう。


 加えて言えば探していた井本が普段過ごしている「ラース」で評判の鍛冶師をしているなんて思ってもいなかったんだろうな。


 だからこそより怒りが深いんだろうなぁ。


 触らぬ神に祟りなしとも言いますし、ここは俺もなにも言わずに──。


「だいたいですね、なんでカレンちゃんさんは、こんなバカ妹をお嫁さんのひとりにしてしまうんですかぁ!? たしかにカレンちゃんさん好みに胸が大きな子ではありますがぁ!」


「あ、あの、ゴンさん。俺は別に大きな胸は」


「お黙りなさい!」


「……はい、ごめんなさい、お義姉さん」


 怒れるゴンさんの矛先があろうことか俺にも向きましたよ。


 俺なにも悪いことをしていないのにも関わらずです。


 そしてゴンさんも誤解をしている。


 俺は大きな胸になんて興味はないんですよ?


 なんでみんな俺が大きな胸が好きなんて間違った印象を抱いているんですかね? 本気で解せません。


「ん~。サラママのお姉さんがゴンさんなら、今後ゴンさんをなんて呼べばいいんだろう?」


「シリウスちゃん。そんなのんきなことを言っている場合じゃないと思いますよ?」


「だって他人事だもの。パパがやらかすのはいつものことだもの」


「……間違っていないのが、レンさんの業深いところですね」


 愛娘と友人がひどいです。


 でもシリウスの言葉を否定できないのが悲しいね。


 俺ってばいつもなにかしらやらかすんだよねぇ。それも女性関係でです。


 ……俺って女難の相でもあるんかな? 俺も女ですけどね。


「聞いているんですか、カレンちゃんさん!」


「は、はい、ごめんなさい、お義姉さん!」


 ゴンさん改めお義姉さんがとてもお怒りです。


 対して俺もサラさんも怒れるお義姉さんになにも言えません。


 ただ平伏することしかできないのが、なんとも悲しいです。


 まぁ、これも似たもの夫婦ってことなんだと思えばいいのかな?


 そんなずれたことを考えながらも、俺たちはこの国の首都である「スロウス」へと向かっていった。


 ちなみに首都に着くまでお義姉さんにサラさんともども怒られてしまったのは、言うまでもない。

 ゴンさんはサラさんのお姉さんでした。

 続きは二十時になります。

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