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Act7-2 一山去ってまた一山

「ようやっっっく! 国境かぁ」


 長かった岩山の登山がようやく終わる。


 クオンちゃんのご両親が言うには、岩山を越えた先が「翼の王国」の領土ということだけど、具体的にはどの辺りなのかはわからない。


 まぁ越えた先って言うんだから、よっぽど目立つものがあるってことだもの。


 砂漠とか、溶岩の川とか、底の見えない谷とかね。


 こうして考えてみると「魔大陸」の各国の境目ってわかりやすいよね。


 なにせ、それぞれの国の特色がよく出ているもの。


 まぁ、「鬼の王国」のは、ほかの国とは少し毛色が違うけども。


 なんというか、大地の力強さがどれほどなのかを教えてくれた気がするよ。


 同時に地の恵みがどれほどのものなのかもわかった気がする。


 マモンさんにしたら「序の口だ」とか言いそうだけど。


 思えば俺が過ごしてきた時期ってその国で一番過ごしやすい時期なのかもしれない。


 プライドさんが言うには、夏がもっともマグマの活発な時期らしい。


 それは砂漠も同じで、オアシスさえ枯れ果てていることがわりとあるらしい。


 そのどちらも回避できたのだからありがたいことだ。


 で「鬼の王国」では、冬がもっとも厳しいって話だった。


 冬を越えられずに集落が壊滅しかけることもあるって話だもの。


 俺が向かったのはちょうど冬が終わった頃だったから、これまた運がいい。


「蛇の王国」では、ちょうど魚が産卵のために栄養を蓄えている時期にいたから、食べる魚はたいてい旨かった。中には肉と思うような魚もいたね。


 うん、こうして振り返ると俺ってば、恵まれた時期に各国を回っているみたいだね。


 なんとなく、母さんが裏で手を回していそうだ。


 まったく母さんってば、過保護にも程があるぜ。


 子供というのはね、時折頬を「パァン」と叩くくらいでちょうどいいのですよ。


 実際俺はシリウスにそうやって接していますよ。


 躾を怠るのは子供のためにはならないからね。時には心を鬼にしてですね──。


「パパ疲れた。おんぶして」


 ──シリウスが上目遣いでそんなわがままを抜かしました。


 やれやれ、うちの愛娘と来たら。


 そんなわがままを俺がいつも聞いてあげると思ったら、大間違いだぜ?


「わがままを言うんじゃありません。みんなだって大変なんだからシリウスばっかりわがままを言っていいわけでは──」


「とか言いながらもしっかりおんぶしてくれるパパであった」


 俺の背中にしがみつきながら、シリウスが呆れているようだ。


 だがいくら呆れられようが、こればかりは譲れません。


 愛娘をおんぶするのはパパの特権です!


 ……いや、飴と鞭って言うじゃないですか。


 鞭ばっかりじゃ娘が傷つくじゃない?


 娘の涙なんて見たくないじゃない?


 だから時には飴も必要でありましてね──。


「「旦那さま」は飴と鞭じゃなく、ジュースとケーキなのです」


「至れり尽くせりのご接待ですね」


 今度はプーレとレアが呆れていますね。


 ……俺がなにをした? 


 ただ少し娘に優しくてあげたくらいでこの仕打ちはあんまりだと思うの。


 ふたりだってシリウスには甘いくせに、俺ばっかり批難を受ける謂れはないはずなのにね。


「ん~。「旦那さま」が激甘すぎるだけだと思いますけどぉ~?」


 今度はサラさんかい。


 え、なに、これ? 


 この場にいる嫁全員が俺の子育ての仕方を否定しているんですけど? 


 いやいや、ちょっと待とうよ。


 なんで俺ばっかり責められるわけ? 


 そこんところちょっと意味がわからない。


「いや、責めているわけじゃないと思いますよ? ただレンさんがシリウスちゃんに激甘すぎると言っているだけであってですね」


「それを人責めているというのであるよ、タマちゃんや」


「……なんで世界三大兄貴の一角のようなことを言っているんですか、あなたは」


 タマちゃんまでもが呆れてしまった。


 今日はみんな俺に呆れる日なん? 


 救いがない気がしてならないんだけど。


 どうして娘のわがままを聞いてあげたくらいで、こんな目に遭うのやら。


 本当に解せぬ。


「まぁ、普通に考えれば、言動がまるで合ってねえからじゃね?」


「……ヴァンさんに事実を指摘されるとなんか悔しいこの頃」


「ひどくね?」


 ヴァンさんがずれた批難をしているけれど、悪いがそんなことはどうでもいいのです。


 いやわかっているよ? ヴァンさんの言う通りだってことは。


 でもね? この溢れんばかりのシリウスへの愛情という名の情熱が俺を狂わせるのですよ。


 そう、すべてはこの情熱を生み出してしまう、小憎い愛娘がですね──。


「私のせいにしないでよ」


 背中でシリウスが文句を言っているね。


 でもそんな文句程度では俺の情熱は止まらない。


 むしろそういうところも愛らしいぜ。


 さすがはシリウス。


 俺のツボをきっちりと押さえてくるあたり、対パパ用決戦兵器の名は伊達じゃないね。


「意味がわからないのだけど」


「大丈夫よ、シリウスちゃん。ママも意味がわからないから」


「「旦那さま」が突拍子もないことをいきなり言い出すのは、いつものことなのですよ」


「ですねぇ~。新参者でしかない私でもようやく慣れてきましたぁ~」


 ……愛娘と嫁ズがひどい。家庭内に居場所がないお父さんってこんな感じなのかな?


 俺はこんなにもみんなを愛して行動しているというのに。この仕打ちはあんまりじゃないかな?


「自業自得だと思いますけど?」


「むしろあんたの残念すぎる発言を聞かされる、嫁さんたちとお嬢ちゃんの方があんまりだと思うぜ?」


 ……今日は厄日かなにかかしら? 総攻撃を食らっている気分です。実際総攻撃を食らっているわけだから、間違ってはいないのだけどね。


 どうしてこの場に希望がいないのだろうか? 希望であればきっと俺を擁護してくれるに──。


「え? ノゾミさんであれば、真っ先に「旦那さま」を批難しそうな気がしますけど?」


「そうですね。ノゾミちゃんであれば、まず間違いなく「旦那さま」の言動に呆れて、とても冷たい目を」


「現実を突きつけるのはよくないと思います!」


 わかっているよ。希望であれば、まず間違いなく俺を責め立てるというのは! 


 あのツンデレ巨乳は俺にぞっこん一途なくせして、ここぞという時には責めてくるんだよね。


 ……そういうところも魅力的だと言うと確実に勘違いされそうだけど。


 実際そういう希望もすごくかわいいんだよね。


 むしろ希望がかわいくないとありえないと言いますか──。


「……レア様」


「……そうね。ちょっと目に余るかな」


「……シメルのです」


「……そうしましょうか」


 ──あれ? なんだかレアとプーレの様子がおかしいぞ? 


 ふたりとも目からハイライトが消えて、プーレは包丁を手にして、レアは色とりどりの球体を周囲に浮かべさせていますね。


「パパは本当におバカさんだよね」


 しみじみと呟くシリウスちゃん。


 いつのまにかパパの背中から降りて、サラさんのそばにいらっしゃいますね。


 そのサラさんもタマちゃんとヴァンさんのそばにいる。三人ともなぜか距離を取っていますね。


 ……うん、そろそろ現実を見ようかな?


「大丈夫なのですよ。痛いのは一瞬なのです」


 にっこりと笑いながら、包丁をきらりと輝かせるプーレ。


 笑っているのに目が笑っていない、この恐怖ぷらいすれす。


「そうですよ。痛みがあってもすぐに快感になるように「調教」してあげるからね、「カレン」」


 口元をにやりと歪めながらレアが笑う。


 でもやっぱり目が笑っていないというか、おめめが縦に裂けていますね。


 あー、これアカン奴やわぁ。


「……落ち着こう? ね? ふたりとも? まだ慌てるような時間じゃないんだ。だからここはちょっと落ち着いて話をしようじゃないか。そうだよ。ね? 話をすればきっと相互理解が──」


「問答──」


「無用なのです」


「デスヨネ~!?」


 頷きながら逃げ出す俺。しかしプーレとレアは笑いながら追いかけて来る。


 ここ、一応山道なんですけど、おふたりともそんなの関係ねえと言わんばかりの激走です。


b笑顔が素敵に怖いけれど、もうなにを言っても無駄だよ。絶対話を聞かないもんよ、このふたりは!


 どうして俺の周りはみんな話を聞かない人ばっかりなんでしょうね!?


「誰かタスケテぇぇぇーっ!?」


「逃がしませんよ?」


「一緒に逝きましょうなのですよ」


 すっかりとヤンデレと化した嫁ふたりからの追跡を受けながら、俺はそのまま国境までの残りの道程を駆け抜けることになったのは、言うまでもない。


 が、そうして向かった国境で俺はこの世界の厳しい現実を突きつけられてしまった。だって国境は──。


「また山かよ!?」


 ──国境の山を越えた先にはとても高いお山が存在しておりました。……また山登りです。がっくし。

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