Act6-ex-2 決意
本日二話目です。
今回はシリウス視点です。
クオンのことが頭から離れなかった。
クオンは進化する前からかわいい子だったけれど、進化したことでより一層かわいくなった。私なんかのことを慕ってくれるかわいい女の子だ。
そんなクオンが私は好きだ。だってクオンは実際にかわいいし、いい子だし。
まぁ、最初はパパを私から取ろうとしているかのような行動に腹が立ったけれど。
でもいまはそういう感情は一切ない。
いまはクオンがとても愛おしい。
私にとっては初めてできた妹だ。
まぁ、妹分ってだけなんだけどね。
ママたちが産んだ娘じゃないから、本当の妹ってわけじゃない。
……まぁママたちが妹を産んだとしても、私との血の繋がりはないのだから、結果的にはクオンと立場は差して変わらないのかもしれないけれど、それでもパパとママたちの娘と言う意味合いであれば、私の妹であることには変わりない。
「……はぁ」
クオンと別れて、もう二日目の夜になっていた。
いまだ私たちは「翼の王国」との国境である山の中にいる。この岩山は思ったよりも広くて、登頂がなかなかできなかった。
まぁ、それ以外にもプーレママが岩肌に添って移動するのに時間がかかってしまっているということもあるのだけれど。どうもプーレママはこういう岩肌に添って移動になれていないみたいで、一歩踏み出すのにだいぶ時間を掛けてしまっている。
そんなプーレママをパパは大丈夫だからと言って手を差し伸べたり、プーレママを抱き締めたりして移動している。
正直よく片腕を塞ぎながら移動できるねって思うよ。愛の力って偉大なんだなとしみじみと思ったよ。
もっともプーレママに構う分だけ、レアママがヤキモチを妬いてしまうから、そんなレアママを落ち着かせるのにもまた時間を掛けてしまっている。
そんなレアママとプーレママとのやりとりをサラママは笑いながら見守っている。けれどその目がとんでもなく鋭いのだけどね。
結果、この岩山を登頂するのに大きなタイムロスが生じていた。
狼王からの依頼を受けているのだから、さっさと進みたいところだけど、パパの正妻の座をめぐるママたちの熱い戦いはいまだに終止符を打たれる気配がないから、致し方がないのかもしれない。
そんなパパとママたちはいますっかりとご就寝してしまっている。
それはヴァンさんやタマモも同じ。「翼の王国」に先に向かったマモンさんはいまどこにいるのやら。
本当は私たちと一緒にマモンさんも「翼の王国」を目指すはずだったのだけど、翼王からの熱烈コールを「まもまも、先に来てよぉ~。このままじゃボク死んじゃうからねっ!?」と言われたことで、先に「翼の王国」入りすることになってしまったんだ。
「……あいつは本当に」
マモンさんは頭を痛そうに押さえていた。それはマモンさんだけではなく、狼王も同じだった。どうにも翼王という人は、「七王」の中でも問題児にあたる人物なのかもしれない。
まぁ、自分の国の問題を他の国の王に助けてもらおうとしている時点で、ろくな王さまじゃないのはわかりきっていることだった。
ただレアママが言うには、翼王にもいいところはあるらしい。らしいというのは、レアママがあまり翼王について話してくれなかったからだ。
「会えばわかるよ」
たったそれだけ言ってレアママは翼王のことをそれ以上は語ろうとしなかった。
いったいどういう王さまなんだろうね? そんな王さまへの救援の依頼を受けるパパは、やっぱりとんでもなくお人よしだ。
そんなお人好しなパパが私は大好きだ。……普段は素直に伝えられないけれど、パパが眠っているいまならいくらでも伝えられるよ。
『下手なツンデレじゃのぉ~』
先代が頭の中で呆れていた。
どうして先代がツンデレなんて言葉を知っているのかな? そんな言葉は先代が生きていた神代にはなかったはずなのだけど。
『なぁに、我が君の記憶をちょいちょいと覗かせてもらったのでな。あの方はなかなかに面白い半生を送っておるのぅ』
「いったいなにを見たんだよ、あんた」
私だってパパの過去を知らないというのに、先代ばっかりずるいよ。私にも少しくらいは教えてもらいたいね。
『そんなことは、そこで狸寝入りしている狐娘に教えてもらえばよかろうよ。のぅ?』
先代がタマモに声を掛ける。タマモがびくりと体を震わせた。
あくまでもわずかにだけど、でもそのわずかでもいまの私には十分すぎる。
「……起きていたんだ?」
声を掛けるもタマモはなにも言わない。むぅ、狸寝入りを続ける気かな? 狐のくせに。あ、そっか。
「起きないなら、パパにタマモの尻尾のことを」
「起きます。起きますから、内緒にしておいてください」
ため息を吐きつつ、タマモが起き上がった。
タマモは困った顔をして私を見つめていた。
尻尾のことはパパには内緒みたいだ。
そういえばパパが蘇生してからは尻尾を隠して戦闘していたもんね。
あの尻尾は見られたくないものなのかもしれない。
「別にいいけどね。あまり盗み聞きは感心しないよ?」
「気を付けますです」
タマモは肩を落としながら、私を見つめている。
というか、私の胸元を見ているね。
いまの私は「本来の姿」に戻っているからね。たぶん、その影響かな?
「タマモも胸が好きだよね」
「ええ、愛しています」
「……そう」
パパが私の胸好きに対して呆れているのは知っているけれど、こうして第三者視点から見ると、たしかに呆れられてしまうのも無理はないのかなと思えてくる。それでもやめる気はないけれど。
「で?」
「で? とは?」
「狸寝入りしていたのは、あの「黒騎士」どもの正体が知りたいから?」
「……やっぱり知っているのですか、シリウスちゃん」
「まぁね」
普段はそう見えないだろうけれど、これでも長生きしているんだ。
いろんなことを知っているよ。ほとんど先代からの受け売りだけども。
「……あれは「ルシフェニア」の兵隊だよ」
「ルシフェニア。たしかこの世界における最古の国でしたね?」
「みたいだね。代々の王は「聖王」と名乗っている国。その国の兵隊があいつら」
みずからを「聖王」と名乗りながらも、自国の兵隊はみんなアンデッドとか笑えない国だ。
そのうえ「神聖国家」と名乗っているんだからお笑い種だよね。
「ただの兵隊にしてはそれなりの強さでしたけど?」
「それはそうだよ。だってあいつらロイヤルナイツだったもん」
「ロイヤルナイツということは、王族ないしは重要な人物でも来ていたんですかね?」
「そうだよ。それもとびっきりのがね」
「誰です?」
「「三姫将」のひとり」
「まさか、あの小柄な?」
「そのとおり」
こんなところで会うとは思っていなかった。
まぁ、プーレママを狙いに来るだろうなとは思っていたけどね。
カルディアママを殺したときもそうだったし。
「あの女」は抜け目がない。
狂った愛っていうのはここまで恐ろしいものなんだね。
「……今回はパパがプーレママを守ってくれた。けれど「あの女」がこれで諦めるとは思えない。きっと第二、第三の手を使ってくる。それを防ぐためにも私だけじゃ不安なんだよね」
「……ボクに手を貸せと?」
「悪くない提案だと思うけど? あなたの目的にも沿うでしょう?」
「……君はどこまで知っているんですか?」
「だいたいぜんぶ」
「そう、ですか。なら仕方がないかな」
タマモはため息を吐いていた。
これで協力者がまた増えた。
ルシフェニアの軍勢自体は大した強さじゃない。
問題なのは、幹部たちの戦力だ。
その中でも危険なのが「三姫将」だった。
レアママが本気を出せば、一蹴できる。
けれどその後に控えている「聖王」を相手にするには、「三姫将」に全力を出すわけにはいかなかった。
「面倒だよねぇ」
「そうですね。暗躍している国を相手にするのはここまで」
「ああ、そうじゃなくてね? 寝首を掻くことなんてやろうと思えばすぐにできるんだけど、それをすると「ママ」の手がかりが完全になくなってしまう。だから泳がせることしかできないんだよね」
「……まだわからないんですね?」
「残念なことにね。でも「あの女」は確実に知っている。だから次は確実に仕留める」
拳を握るとタマモは辛そうな顔をしている。私はいまどんな顔をしているのかな? 知りたいとは思っていないから、なにも言わないでほしいけどね。
「早くまた会いたいなぁ、「ママ」に」
「……そうですね」
タマモは寂しそうに笑う。その笑顔は当然だけど、「ママ」によく似ていた。
「次こそは絶対に」
次こそは逃がさない。そんな決意を抱きながら、私はしばらくの間、タマモとの秘密の話をし続けたんだ。
続きは明日の十六時になる予定です。たぶん←




