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Act6-ex-1 クオンの気持ち

 恒例の土曜日更新です。

 まずは一話目は先日人化したクオン視点です。

 ねえさまが見えなくなる。


 ねえさまは、ねえさまのぱぱ者さんたちと一緒に「つばさのおうこく」にむかっていく。クオン、さみしいよ。


「ぱぱ者、ぱぱ者」


「なんだ?」


「クオン、はやくおおきくなりたい」


 シリウスねえさまとずっと一緒にいたいもん。


 でもクオンはまだ子供だからねえさまと一緒にはいられない。


 だからクオンは早くおおきくなりたいの。おおきくなって、ねえさまのおよめさんにしてもらいたいもん。だからぱぱ者におおきくなる方法を教えてもらいたかったんだけど──。


「ごふっ!」


「ぱぱ者?」


 ──ぱぱ者が血を吐いちゃった。どうして血を吐くんだろう? クオン、わからない。


「クオン、あまりぱぱ者を苛めちゃかわいそうよ?」


 まま者がぱぱ者の代りにクオンを抱っこしてくれた。


 ぱぱ者はほんのりとあせとけむりのにおいがする。


 まま者はあまくてやさしいにおいがする。


 クオンはぱぱ者とまま者のにおいはどっちもだいすきだよ。


 ねえさまもねえさまのぱぱ者さんとまま者さんたちがだいすきなんだっていっていたの。


「おんなじだね」っていったら、「そうだね」とねえさまはクオンの頭をなでてくれたの。


 ねえさまはやさしくて、カッコよくてクオンはだいすき。


 でもねえさまは、ときどき「へんなにおい」がするの。あの「におい」はなんなんだろう?


「まま者、まま者」


「うん? なぁに?」


「まま者は、シリウスねえさまのにおい、どうおもったの?」


「匂い?」


「うん、かわったにおいがしていたの」


 ぱぱ者ともまま者ともちがうにおい。


 ぱぱ者とまま者のにおいは、すごくおちつくにおいなの。


 それはシリウスねえさまもおんなじだけど、そのおちつくにおいの中にすこしだけ「におい」がするの。あれはなんのにおいなんだろう?


「どんな匂いかしら?」


「ん~、ちょうろうさまとおんなじなの」


「長老さまと?」


「うん」


 ちょうろうさまは、ケルベロスのいちぞくのおささま。


 せい上のおそばにずっといるすごい方なの。


 ちょうろうさまは、むかしからずっとちょうろうさまなのだけど、ぱぱ者はそろそろ「てんせい」をしないといけないといっていたの。


「てんせい」がなにかはクオンにはわからないけれど、ちょうろうさまがせい上のおそばにいるためにひつようなことなんだってことはしっているの。


 そのちょうろうさまと「おんなじにおい」がねえさまはしていたの。あれってどういうことなのかな?


「長老さまと同じ匂いを?」


「感じまして?」


「いいや?」


 ぱぱ者とまま者がくびをかしげている。ふたりにはわからなかったのかな? もしくはクオンのかんちがい?


「クオン、わからない」


 ねえさまからしていた「におい」は、ほんとうにねえさまからしていたのか、それともほんとうにねえさまからしていたのかは、もうわからない。だってねえさまはとおくにいっちゃったんだもん。だからわからない。


 それをたしかめるために、クオン、早くおおきくなりたいの。おおきくなって、ねえさまのおよめさんにしてもらうの。


「そ、そんなに早く結婚とかは気にしなくてもいいんじゃないかな? う、うん。それに以前はぱぱ者のお嫁さんになると言ってくれていたし」


 ぱぱ者がぷるぷると震えている。


 そんなぱぱ者をまま者は呆れた顔をしているの。


 いつものぱぱ者はカッコいいのに、今日のぱぱ者はとってもカッコ悪いの。それにいっていることはすごくおかしいの。


「ぱぱ者のおよめさんは、まま者なの」


「それはそうなんだが」


「それでもクオンをおよめさんにしたいの?」


「それはそうだよ。ぱぱ者というものはな──」


「クオン、ぱぱ者なんてきらい」


 まま者を大切にしないぱぱ者なんてきらいなの。


 クオンは、まま者を大切にするぱぱ者は好きだけど、まま者を大切にしないぱぱ者なんてきらいなの。


「あー、クオン? いまそれはちょっとまずいというか」


 まま者がこまった顔をしている。どうしたんだろう?


 まま者はぱぱ者をじっと見つめている。クオンもぱぱ者を見ると、なぜかぱぱ者は固まっていたの。


 それからゆっくりとぱぱ者は後ろに倒れ込んだの。


 ぱぱ者はきぜつしていたの。なんできぜつしているのかは、クオンにはわからないの。


「……もう、親バカなんだから」


 まま者が呆れている。けれどまま者はたのしそうなの。


 まま者がたのしいなら、クオンもたのしいの。ぱぱ者はきぜつしているから、よくわからないけれど。


「シリウスねえさまに、はやくあいたいな」


「本当にシリウスちゃんのことが大好きなのね、クオンは」


 おくちに手をあててまま者はわらっている。でもちょっぴりさみしそうなの。


 どうしてわらっているのに、さみしそうなんだろう? よくわからないの。


「そのうちわかるわ、クオンにも」


「そのうちって、いつ?」


「ん~、シリウスちゃんとの間に赤ちゃんができたら──」


「クオンは嫁にやらんぞぉぉぉ!」


 ぱぱ者がおきあがったの。でも目がちばしっているの。ちょっとだけきもちわるいの。


「はいはい、まだお嫁には行きませんよ、あなた」


 まま者がまたあきれているの。きょうだけでなんかいあきれられちゃうんだろう? ぱぱ者は仕方がない人なんだね。


「し、仕方がない?」


「そう思われても仕方がないでしょうに」


 まま者がまたあきれちゃったの。


 ぱぱ者はまま者になにかいっているけれど、まま者は相手にしていないの。


 ぱぱ者のことよりも、いまはシリウスねえさまのことなの。


 ねえさまはもうみえなくなっちゃっていた。でもこのみちのさきにねえさまはいるの。


「おいつくから、まっていてね、ねえさま」


 だいすきなシリウスねえさまをおもいながら、クオンはねえさまがむかっていったおそらをじっとみつめつづけたの。

 続きは二十時になります。

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