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Act6-109 星月の空を

 ずいぶんと遅くなりました。

 買い物行ったり、ご飯食べたり、お風呂入ったりしていたら、時間ががががが。

 ってなわけで第六章の最終話です。

「ねえさま、またねー」


「アスモルド」の外壁の前でクオンちゃんがお父さんに抱き抱えられながらシリウスに手を振っている。


 シリウスも笑顔で手を振り返していた。


 クオンちゃんのお父さんの目は暗く澱んでいた。


 以前までは「ぱぱ者のお嫁さんになる」とクオンちゃんは言っていたそうなのだけど、いまや「シリウスねえさまのお嫁さんになる!」と聞かないんだ。


 おかげで「アスモルド」のクオンちゃんの家で一泊したんだけど、クオンちゃんったらお母さんに──。


「まま者、クオンのだんなさんのシリウスねえさまなの」


 とシリウスを紹介していました。


 クオンちゃんのお母さんも人化できるケルベロスだったのだけど、クオンちゃんの変貌っぷりには驚いていました。


 驚きつつも、名前をつけてもらって感謝していたけどね。


 シリウスへの反応はお父さんとは違っていて「いい旦那さんを見つけたわね」とクオンちゃんの頭を撫でつつ、「クオンをよろしくね」と言っていましたね。


 つまりは公認されてしまった。


 そしてお父さんという存在は、お母さんが娘婿を認知してしまった場合、なにも言えなくなるというのが世の常であり、それはクオンちゃんのお父さんも変わらなかった。


 結果、クオンちゃんはシリウスの許嫁になりました。


 そんな非情の勧告から一晩経ってなお、クオンちゃんのお父さんの目は澱んだままです。


 強く生きてくださいとしか言えなかったよ。


 ……慰めたはずなのに泣きながら睨まれることになったのは、解せませんけどね。俺のせいじゃないのに。


 とにかくそんなクオンちゃん一家に見送られながら、俺たちは「翼の王国」との国境に向かっていく。


「翼の王国」との国境はいままでとは違って、山をひとつ越えた先にある。つまりはこれから登山をしないといけないんだ。


 ゴンさんに「翼の王国」との国境まで連れていってもらえないかと思ったのだけど、どうもゴンさんはいま「ラース」にはいないそうだ。というか「竜の王国」自体にいないらしい。


 なんでも現在のドラゴンロードにも召集が掛かったみたいで、一足先に「翼の王国」にも向かったみたいなうえ、「翼の王国」に入ってから連絡が取れないので、迎えにも来てもらえないそうだ。


「ラスト」近郊とは違って、「アスモルド」の周辺はうざったい太陽が幅を利かせているが、砂漠の真ん中あたりと比べるとだいぶましです。


 遮光物となる木々がちらほらがあり、いくらか日の光を遮ってくれている。


 でもそれはこれから向かう山には関係ない。


 なにせ、「翼の王国」との国境である山は完全な岩山だった。


 少し離れたここからでも険しそうな岩肌が見えます。


 クオンちゃんのご両親曰く、一見険しそうな岩山だけど、登山するのはわりと楽だそうだ。


 特に必要な装備もなく、岩肌に添って移動すればいいとのことだった。


 ……岩肌に添ってという言葉がとても不吉ではありますが、まぁ比較的登りやすい岩山なんだろうね。


 あくまでもエレベストとかマッターホルンとかああいう山に比べれば楽なんだろうな。


 うん、きっとそういうことなんだろうとしか俺には思えないよ。


 でもその山を越えなければ「翼の王国」には入れない。


 聞けば隣接するどの国との国境でも似たようなものなんだそうだ。


 そして「狼の王国」が一番入りやすい国境みたいだ。ほかの国境は、国境ならぬ酷境らしいよ。


 ……「翼の王国」もまたある意味修羅の国のような気がしてなりません。


「まぁ行くしかないか」


 依頼を受けた以上は仕方がない。


 ちゃちゃっちゃか登るとしますかね。


 ため息を吐きながら、俺たちは遠くに見える山並みを目指して歩き出した。


 さて「翼の王国」ではなにが起こるのかな。




 岩山の中腹からは「狼の王国」の様子がよく見えた。


 そんなに高い岩山じゃないから、国のすべてが見えるわけじゃない。


 けれど彼女がいる「ラスト」はこのずっと向こう側にある。


 その証拠に地平線の彼方の空は星月によって彩られていた。


 その星月の空をいくつも越えた先に「彼女」はいる。


「……デウスさん」


 あの寂しがり屋な王さまのことが脳裏に浮かぶ。


 なんだかんだと言いながらも、誰よりも民のことを考える優れた王。ボクにとっては王の中の王だった。


 初めて見たときに目を奪われた。


 初めて見たのは彼女が演説をしていとき。


 幼い顔立ちなのに匂い立つような艶然としたものを感じた。


 それでいてどこか悲しみを帯びた瞳が気になった。


 彼女の行動範囲を予測し、なにも知らないふりをしていかがわしい店で働かせられそうになるように仕向けた。


 普通であれば、ボクがそういう風に振る舞ったとは思わない。


 けれど、あの人はボクがそういう風に振る舞ったことをあっさりと見破ってしまった。そのうえで──。


「よかろう。退屈しのぎにはちょうどいい」


 そう言ってボクをそばに置いてくれた。たぶんそのときだったんだろう。


 ボクはあの人にやられてしまった。


 ありていに言えば惚れてしまった。


 だからこそいろいろと尽くしてきたけど、それも終わってしまった。


 けど──。


「ボクはまだ」


「タマちゃーん! ぼんやりとしていると置いていくよー!」


 レンさんの声が現実に引き戻してくれた。


 レンさんたちはすでに先を歩いている。「翼の王国」との国境の山はかなり険しい山道だった。


 さすがに装備がいるような山ではないのが救いだけども。


 それでもなかなかに大変な登山だ。


 でもこれくらい大変な方がいまのボクにはよかった。


「待ってくださいよ、レンさん!」


 慌てたふりをしてレンさんたちのもとへと向かう。


 彼女と同じ道をまた歩けるかはわからない。


 でもボクは彼女を諦めない。


 だからボクは──。


「また会いましょう、デウスさん」


 いまはいない想い人へと精一杯の言葉を告げて、後ろ髪引かれる「狼の王国」を後にした。

 今回で第六章の本編はおしまいです。

 次回から第六章の特別編です。

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