表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
646/2074

Act6-102 宣戦布告

 本日五話目です。

 目の前が徐々に霞んでいく。


 私の中から徐々に「私」が消え去っていく感覚。それはとても怖いものでした。光が私を包み込む。その光の中には私だけじゃなく、「旦那さま」もおられました。


「旦那さま」は静かに眠っている。とても深い眠りなのです。揺すったとこで起きてくれそうにない、そんな深すぎる眠りの中に「旦那さま」はおられました。


 でもまだ目覚めることができる眠り。決して目覚められない眠りではないのです。ならば助けることはできるのです。


 その代り、私が目覚めることのない眠りに就くことになるのです。


「旦那さま」が目覚められたときには、私は「旦那さま」の知らない「私」になっているのですから。


 そこに私という存在はいない。私の、プーレ・アクスレイアという人生は終わりを告げるのです。


 だけどそれでいいのです。


 だって私は「旦那さま」を愛しているから。


「旦那さま」も私なんかを愛してくださった。


 こんな美人でもなければ、スタイルもいいわけでもない、地味な女でしかなかった私を「旦那さま」は愛してくれた。


 思えば「旦那さま」にはいろんなものをいただきました。


 お母さんを助けるためのエリキサから始まり、不自由のない生活、お母さんと一緒に働ける職場、尊敬できる師、「旦那さま」を取り合うライバルという名の友人たちにかわいい愛娘、そしてこの命を懸けても惜しくない、愛する人を与えてくれたのです。


 私は私の人生を満足しているのです。


 十四年にも満たない人生でした。母神さまや神獣さま、レア様や鬼王さまと言った七王陛下方と比べたら、閃光のような短い時間だったでしょう。


 それでも瞬きをすれば終わってしまう時間であっても、私は私の人生を十分に謳歌できました。とても幸せな人生だったのです。


 そんな人生を「旦那さま」は与えてくれたのです。


 だからもう迷いはなく、未練や後悔もない。ただただ清々しい気持ちで旅立てるのです。この命を燃やし尽くせるのです。


 すべてはなにもなかった私に、たった数か月でいままでの人生よりも濃くそして楽しい日々を与えてくれた「旦那さま」へのご恩を返すため。あの人のためだけに私は私を捨てることができる。あの人の礎になることができるのです。


「だからもういいのです」


 この心も、この魂も、「旦那さま」のために捧げられる。この身だけは、「あの方」に捧げなければならないけれど、心と魂だけはここに置いて逝ける。「旦那さま」の元へと置いて逝けるのです。


「……心と魂だけですけど、ずっとそばにいるのです。あなたのそばにいるのですよ。だからそれで許してくださいなのです」


 本音を言えばずっとそばにい続けたいのです。「旦那さま」のおそばにい続けたいのです。これからもずっと一緒にいたい。いなくなりたくなんかない。


 だけどその願いは叶えられないのです。


 私か「旦那さま」か。どちらかしかいられないのです。一緒にはもういられないのですよ。


「旦那さま」がいなくなるのは我慢なりません。「旦那さま」はこんなところでいなくなってはいけない人なのですよ。


 だからこそ私が代りになるのです。私が代りに旅立つのです。「旦那さま」には生きていてほしいから。死んではいけない人なのです。


「「旦那さま」、プーレは先に逝きます。でもプーレはずっとおそばにいます。この心とこの魂だけはずっとあなたのそばにいるのです」


「旦那さま」はなにも言わない。


 けれどそれでいい。それでいいのです。


 だって「旦那さま」がいま起きてしまったら、きっと頷いてはくださらないのです。


 なにがあっても私を助けようとしてくれると思うのです。私の好きな「旦那さま」はそういう方なのです。


「死ぬな、プーレ」


「旦那さま」はきっとそう言われるでしょう。私に生きていてほしいとそう言われるはずです。そんな残酷で、でもとても愛おしいわがままを言われるはずです。


 だけどそのわがままは聞いてあげられないのです。


 この身はすでに「あの方」へと捧げている。だから「旦那さま」がなにを言っても私はもう旅立たなければならないのです。


「プーレママ!」


 シリウスちゃんの声。シリウスちゃんは泣いていました。


 私がなにをしようとしているのかがわかっているのでしょうね。


 いや、私がどうなるのかを理解してしまっているのでしょう。


 娘を泣かすのはあまり気分がいいことじゃないのです。


 たとえ血の繋がりがなくても、私のほかにもママがいるとしても、それでもシリウスちゃんは私の娘です。その娘が泣く姿は見たくなかった。


 けれどもう意識が保てない。もう私はシリウスちゃんのママではいられなくなってしまうのです。


 だからこそ、最期に言ってあげたいのです。私がシリウスちゃんへと向ける気持ちを伝えてあげたいのです。


「シリウスちゃん。プーレママはもういなくなっちゃうけれど、元気でいてほしいのです。血の繋がりはなくてもママはシリウスちゃんを心の底から愛しているよ。だからママの分まで幸せに──」


「勝手なことばかり言うなよ、プーレ」


 声が、いま一番聞きたくて、聞きたくない声が聞こえてきました。同時に視界が反転しました。シリウスちゃんから誰よりも好きな人の顏が目の前にありました。


「「旦那さま」」


 目の前には「旦那さま」がいました。まだ「大回帰リザレクション」が完全に発動していないのに、なんで目を醒まされているんでしょうか?


 それに普段の「旦那さま」とは少し様子が違うのです。


 いままでも凛々しい方ではありましたが、いまは凛々しいというよりも神々しいのです。


 それこそ、そう、それこそまるでおとぎ話の中の母神さまを思わせるほどに。


「……俺は君が好きだ。君を愛している。だから誰にも君を渡さない。プーレは俺のものだ。俺の女を奪われるなんて絶対に嫌だ」


「旦那さま」ははっきりとそう宣言されました。


 でも「あの方」との「約定」を私は受け入れたのです。だから「旦那さま」がなにを言おうとも──。


「そうでもないよ?」


「旦那さま」が笑われ、そして顔を近づけられました。


bえ、と思ったときには「旦那さま」に唇を奪われていました。


bその口づけはとても熱く、そして心の中が温かくなるものでした。


 同時に光が私を包み込んだ。


大回帰リザレクション」の力さえはね飛ばすような強く眩い、でもとても温かな光が私を包み込みました。


「我、ここに宣言す! プーレ・アクスレイアを我が巫女とする! その身、その心、その魂の一片さえ、我が手中にあり。ゆえに何人たりとも我が巫女を侵すこと能わずとしれ!」


「旦那さま」は「あの方」への宣戦布告をされました。それは大逆であり、けれどとても頼もしいお姿でもありました。

 続きは十五時になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ