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Act6-101 血の目ざめ

 本日四話目です。

「さて、現実的な話をしよう」


 毅兄貴に励まされてしまった。


 別にそれが悪いというわけではないのだけど、どうにも釈然としないものがあるね。


 とはいえ毅兄貴が悪いわけじゃない。ただどうにも気恥ずかしいというか。


 そんななんとも言えない雰囲気の中、和樹兄が雰囲気を一蹴させるようなことを言ってくれた。


「現実的な話というと」


「おまえが「スカイスト」に戻ることさ」


「え? でも」


「すでに決めているんだろう? ならこれ以上どっちに帰るのかなんて話したところで時間の無駄だ。そんなことよりもプーレちゃんを助ける方法について話し合った方がいい」


「助ける方法があるの!?」


大回帰(リザレクション)」の代償で命を燃やし尽くそうとしているプーレを助ける方法がある。ふたりはさっきそんなことを言っていなかったから、てっきりないのかと思ったよ。


「一応はな。ただし」


「こっちに戻ってきてもまともに生活できなくなるぞ?」


 毅兄貴が釘を指してきた。


 まともに生活ができなくなる。どう考えても、普通の人としてはということなんだと思う。


 普通の人としての生活はもう二度と送れなくるということ。


 たとえば、もう地元のみんなと一緒に学校には通えなくなるとかそういうことなんだと思う。


 学校生活がすべてだとは思っていない。


 でも学校生活は大切なことだとは思っているよ。


 そんな大切だけど、あたりまえな日々をもう二度と送ることができなくなる。


 でもさ──。


「……構わないよ」


「即答か」


「おまえらしいぜ。でもな、本当にいいのかよ? 学校なんざつまらねえところではあるが、そのつまらねえ日々で得られるものはたしかにあるんだぜ? それでもおまえはいいのか?」


 毅兄貴が見つめる。


 たしかに毅兄貴の言うとおりだと思う。


 あの日々の中でしか得られないなにかはたしかに存在している。俺はまだそれをすべて得てはいない。すべてを得る前に投げ出したくはない。けどさ──。


「プーレの命に比べればはるかに軽いよ」


 そうだ。喪われようとしているプーレの命に比べれば、はるかに軽く安い代償でしかない。


 その程度の代償ですむのであれば──。


「俺は迷うことなくプーレを救う」


 兄貴たちを見つめる。ふたりは肩を竦めていた。肩を竦めているけれど、その顔はとても穏やかだった。


「おまえは本当に救いようがないくらいにバカだよなぁ。でもそういうところは」


「ああ、母さんにそっくりだ。見た目も似ているうえに、中身も似ている。まぁ、発育はちょっと悪すぎるが」


「うるさいよ、和樹兄!」


 発育が悪いことなんて俺自身が一番わかっているつーの!


  写真を見ると母さんは長身のナイスバディだった。その血を引いているはずなのに、どうして俺はこんなにもちんちくりんなのか、小一時間ほど問い詰めたいですよ!


「あ? そんなのこいつが半神半人の悪いところばかり影響されたからだろう? ゆっくりと成長する人間と成長しない神の悪いところばかりが影響したから、この歳でこんなちんちくりんなんだろうに」


 毅兄貴が思ってもいなかった発言をしてくれました。詳しく聞きたいところだけど、いまはそんなことよりもだ。プーレをどうしたら助けられるのかの方が先決だった。


「それよりもどうしたらプーレを?」


「簡単だよ、香恋。おまえの体に眠る血を目覚めさせればいい。おまえの体に眠る「神の血」を覚醒させればいいだけのことだ」


「なんだか厨二っぽい」


「本当のことだから黙って聞いていろ」


「あ、はい」


 和樹兄に睨まれてしまった。怒ると怖いんだよね、和樹兄は。


「もともと「大回帰リザレクション」だけに限らず、治療魔法っていうのは特殊な魔法なんだよ。一般的には傷を癒すものだ。けれど、本来は違う」


「違う?」


「そもそも治療魔法っていうのは、どの属性の魔法だと思う?」


「え? それは光とか水とかじゃ?」


 治療という光や水の属性の魔法というイメージが強い。それはこの世界でも変わらないはずだ。


「全然違う。「スカイスト」における治療魔法っていうのは、「刻」属性の魔法なんだよ。正確には「刻」属性を内包する魔法だ」


「「刻」属性を?」


 俺自身「刻」属性のことはなにも知らない。母さんにしか使えない属性ってことは知っていたけれど、まさか治療魔法もその力を内包していたなんて思ってもいなかった。


「「刻」属性については、そのうち母さんから教えてもらえるだろうよ。というか、おまえもう使えているし」


「へ?」


「片鱗には目覚めているというのが正確だな。憶えがないか? 自分だけが時の流れと逸脱する感覚を」

「あ」


 目を細めると、たしかにそんな感覚になる。すべての時が遅くなり、俺だけが通常通りに動けるようになる、あの独特の感覚は、あれこそが「刻」属性の力だったのか。


「あくまでも片鱗だがな。本当の「刻」属性はそんな半端な力じゃねえし」


「あれで半端?」


 あの感覚になると、誰も俺に着いて来られなくなる。


 ただあんまり回数は使えない。まさに切り札な力なのだけど、あれでもまだ半端なのか。


「実際、俺たちがいまいるここは「刻」属性の力で作り上げた「刻の世界」という現象だ。ここにいる間は、中と外とでは時間の流れが変わることになる」


「その力を利用して、俺たちはこうしておまえに会いに来たわけだ」


「すべてはおまえの中に眠る血を覚醒させるために。かわいい妹の未来のためにな。さて、長々となっちまったが、早速始めようか。ちと荒療治になるが、耐えろよ、香恋」


「どうにか踏ん張ってみせろ」


 毅兄貴と和樹兄がそれぞれに俺へと手を向けた。


 なにをするんだろうと思った、そのとき。全身を衝撃が駆け巡った。


 頭の中が真っ白になるような衝撃が俺の中をかき回していく。


 激流の中に浮かぶ小枝とかそういうレベルじゃない。


 圧倒的すぎる力が俺を変えていく。


 でもそれは決して嫌なものじゃない。


 むしろ逆に心地いい。


 いままで填められていた枷が消えていくような、そんな感じだった。


 だけど同時に激痛が俺を苛んだ。


 まるで両手両足の爪をゆっくりと剥がされていくような痛みが走ったかと思うと、今度は内側をずだずだに引き裂かれているかのような痛みが走っていく。


 痛みは次々に代り、俺を苛む。俺は叫ぶことしかできなかった。


「この先におまえが求めるものはある」


「だから踏ん張ってみせろ、香恋」


 兄貴たちの言葉に俺は返事することさえできず、ただただ叫び続けた。

 続きは十二時になります。

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