Act6-99 リザレクション
本日二話目です。
プーレの声だった。
プーレが俺を呼んでいた。
「なにかあったのかな?」
プーレの声はいつもとは違っていた。元気がなく、いまにも泣き出してしまいそうなほどに弱々しかった。
普段からプーレは少し内向的だけど、いまみたく弱々しい声なんて出さない。
なにかあったんだ。
こんなところで寝てなんていられない。でも──。
「どうすれば元の場所に戻れるのかな?」
そもそも俺がいるこの場所がどこなのかもさっぱりだった。
プーレの声は聞こえるけど、どうすればプーレの元へ行けるのかもわからない。
「ねぇ、ふたりとも、ここってどこなの? 元の場所に戻れるの?」
毅兄貴と和樹兄に尋ねると、ふたりはなにも言わなかった。
答えられないという風には見えないから、たぶん答えない だけなんだと思う。けど、なんで答えてくれないのかがわからなかった。
「どうしてなにも答えてくれないの?」
もしかしたらこのふたりは偽者なのかと一瞬だけ考えてしまったけど、すぐにそれはないなと思い直した。
そもそもこのふたりを真似られる存在なんているわけがないもの。むしろいたら尊敬できるよ。よりにもよってなんでこのふたりを選んだんだろうってね。
だからふたりが偽者というわけじゃないはず。
ならどうしてなにも答えてくれないんだろう?
「……それはどっちの意味だ? 香恋」
和樹兄が眼鏡の位置を調整しながら、よくわからないことを言う。どっちってなんのことだろう?
「えっと、どっちって?」
「おまえが言う元の場所は俺たちがいる日本なのか、それともおまえがいた「スカイスト」かって聞いているんだよ」
毅兄貴は呆れている。呆れつつもその声からは俺を気遣っているように思えた。って、ちょっと待った。
「なんで毅兄貴がその名前を?」
俺がいた異世界「スカイスト」は母さんが、母神スカイストが生み出した世界。当然俺が生まれ育った日本がある地球とはなんらかかわりのない世界だ。
なのになんで毅兄貴は「スカイスト」を知っているんだろう?
しかも和樹兄の前で言ったということは和樹兄も「スカイスト」の存在を知っているということになる。
どうして地球にいるはずのふたりが「スカイスト」を知っているんだろう?
「香恋。その場の感情で物を言う癖が相変わらず直ってはいないな。少し考えればわかることだろう? 母さんの子供はおまえだけだったか?」
「まさか?」
母さんの子供。それが意味することはひとつ。いや、この状況で言うということはだ。単純な意味ではないのは明らかだった。となるとだ。和樹兄が言いたいことはひとつしかなかった。
「毅兄貴たちも半神半人ってこと?」
そう、母さんの子供とは、この場で言う母さんの子供とは、俺と同じで兄貴たちも半神半人だったってことだ。
たしかに同じ両親の元で産まれている以上、俺が半神半人であるのであれば、兄貴たちだって半神半人であるのは当然のことだ。
むしろなんでそのことにいままで気づかなかったんだろう?
気を回すことができないほどに、状況が切羽詰まっていたと言えば、聞こえはいいだろうけれど、俺の場合は兄貴たちのことを完全に忘れていたんだ。
無理もないとは思うんだよね。だって兄貴たちのことを考えたって意味はないもの。次にいつ会えるのかさえ、いやもう一度会うことができるのかさえわからなかったんだ。
そんな兄貴たちのことを考えたって仕方がない。だから忘れていたとしても無理はないと思うんだ。決して言訳ではないよ。
「そういうことだ。兄貴と俺、そして弘明はおまえや末弟と同じで半神半人だ」
「まぁ、ひと口に半神半人ってもおまえや末弟とは違って、神の血とやらはかなり薄いがな。せいぜい一般人に比べて頑丈だったり、多少身体能力がよかったり、頭の回転がちと速かったりする程度だけど。ちなみに俺、和樹、弘明、そしておまえと末弟という順番で血が濃い。要は俺が母さんの血は一番薄いってことさ」
毅兄貴がため息を吐いた。見た目のわりにはマザコン気質の毅兄貴にとっては、母さんの血が薄いってことはあまり嬉しくないことなのかもしれない
。実際のところは毅兄貴の本心がわからないとなにも言えないけれど、たぶん大きく間違ってはいないと思う。
「……別に。俺はあんなババアの血なんざ、どうでもいい」
「毅兄貴って本当に強がるよね」
さっきまで「母さん」と言っていたくせに、急に「ババア」呼ばわりはだ。
というか普段から「母さん」って呼んでいるんだから、いまさらカッコつけるというか、恥ずかしがらなくてもいいじゃん。
まぁ「あの母さん」の子供というのも理由のひとつなのかもしれないね。母さんってばとんでもない親バカだもんなぁ。
「……そうか、母さんは変わっていないのか。よかったな、兄貴」
「……なにがよかったんだよ」
毅兄貴は顔を背けた。よく見ると耳が少しだけ赤い。俺が知らない頃の、地球にいた頃の母さんのことを思い出しているのかな?
「素直じゃないな、兄貴は」
「うるせえ」
「やれやれだな」
毅兄貴と和樹兄のやり取りは穏やかだった。穏やかな会話を交わしながら、ふたりは次第に俺を見つめた。
「俺のことはいいだろう。いま大事なのは、香恋だ」
「そうだな。香恋、結局おまえはどうするんだ?」
「え?」
「日本に戻るのか? それともまた「スカイスト」へ行くのか?」
「戻れるの?」
「いまなら、まだな」
和樹兄がまっすぐに俺を見つめている。そのまなざしはいつもの和樹兄のものだ。いやいつもよりも過保護かな? 心の底から俺を心配してくれているのがよくわかるよ。
「でも、プーレが」
そう、プーレが俺を呼んでいる。何度も何度も「旦那さま」と呼んでいるんだ。あの子になにがあったのかを確かめたい。あの子の力になりたい。そう思うからこそ、いまは帰るわけには──。
「……たとえその子が死ぬ運命であってもか?」
「え?」
言われた意味がよくわからなかった。
プーレが死ぬ? それはどういう意味なんだろう? どうしてプーレが死ぬなんて言うんだろうか? それも運命ってどういうことだよ?
「そのままの意味だよ。そのプーレちゃんって子は、たぶんすぐに死ぬぜ」
「どういうこと?」
「究極治療魔法「大回帰をあの子は使った」
「リザレクション?」
ゲームでよく聞く回復魔法だった。それも終盤で憶える最高クラスの回復魔法。でもリザレクションを使ったからと言って、なんで──。
「大回帰ってのは、対象の時間を戻すことだ。ほかの治療魔法とは毛色が違う。だが、その効果は治療魔法の極致と言ってもいい。だが当然代償は半端ねえ」
「その代償は使用者の全生命力だ」
「つまりは使えば死ぬってことさ。そんな魔法をあの子はおまえのために使った。要はおまえがあの子を殺すんだよ」
毅兄貴ははっきりとそう言い切った。
続きは六時になります。




