At6-95 血の海に沈む
すいません、少し遅れました←汗
父の日のプレゼントを作っていたら、時間が←汗
やっぱり先に更新しておけばよかったです←しみじみ
さて、今回はショッキングなシーンがあるので、ご注意ください。
「旦那さま」のお腹に複数の剣が突き刺さっている。
黒い騎士たちが、あの小柄な騎士を守るかのようにして、小柄な騎士に追撃をしかけようとした「旦那さま」を迎撃したのです。
その結果、「旦那さま」はお腹をいくつもの剣で貫かれてしまいました。
「い、いやぁぁぁーっ!」
私の叫び声と「旦那さま」の「黒狼望」が地面に落ちたのはほぼ同時でした。
黒い騎士たちが「旦那さま」のお腹から剣を引き抜くと、「旦那さま」は地面に膝を着き、そのままゆっくりと横に倒れました。
倒れ伏すと地面に血の海が広がっていく。
「旦那さま」のきれいな黒い髪や白い肌が血に染まっていく。
「いや、いや、いやぁぁぁーっ!」
狂ったように叫びながら「旦那さま」の元へ向かう。
小柄な騎士がなにかを叫んでいましたが、私の目に映るのは地面に倒れた「旦那さま」だけでした。
「旦那さま」、「旦那さま」、「旦那さま」!
生きていてお願い。お願いだから生きていてください!
生きていてくださるのであれば、助けられるのです!
この身のすべてを懸けてでもいい。あなたを助けられる。だから、お願いだから──。
「生きていて!」
涙で歪む視界の中、私はまっすぐに駆け抜けていく。「旦那さま」の元まであと少し。そう、もう少しというところで──。
ぐさり。そんな音が鼓膜に響いた。私の体が刺されたわけじゃない。刺されたのは──。
「あ、あ、あぁぁぁぁーっ!」
「旦那さま」だった。黒い騎士のひとりが「旦那さま」の体を刺した。
「旦那さま」の体が一瞬大きく震え、そしてゆっくりと力が抜けていく。
血の海の中に「旦那さま」が再び沈んでしまう。「旦那さま」は動かない。「旦那さま」がどうなったのかはわからない。
でも、でも、もう──。
「あぁぁぁーっ!」
私は叫びながら「旦那さま」のおそばに向かう。向かわなきゃいけない。
危篤状態だろうけれど、最良でも危篤状態だろうけれど、それでも向かわずにはいられない。あの人のおそばに行かなきゃいけなかった。
「貴様らぁぁぁーっ!」
私と「旦那さま」の間に立ち塞がるように黒い騎士たちがいた。
黒い騎士たちは血に濡れた剣を向けて来る。
それでも。それでも私は「旦那さま」のおそばに行かなきゃいけなかった。
恐怖を抑えこんで、「旦那さま」のおそばに向かおうとした。そのときでした。
二重に聞こえる声があたりに響き渡りました。見れば──。
「レア、様?」
下半身を蛇身になったレア様が血走った眼で駆けこんできていました。
穏やかな青い瞳は憤怒と憎悪に彩られています。
きれいな青い髪はすべて蛇と化し、その蛇もまた怒りに突き動かされているようでした。
でも変身しているのはレア様だけじゃありませんでした。
「パパになにをするっ!」
黒い大きな狼が血走った眼でレア様と一緒に駆け込んできていました。
見たこともないくらいに大きな狼。けれどその尻尾には見覚えのあるリボンが結ばれていた。
「シリウスちゃん、なの?」
「旦那さま」をパパと呼ぶ時点でもしかしてとは思いましたが、リボンを見てわかった。
この狼はシリウスちゃんが変身した姿なんだって。
思えばあのとき、デウス様に襲われそうになった後、シリウスちゃんは変身しかけていたのです。
あのときはレア様がお胸を見せることでシリウスちゃんは普段のシリウスちゃんに戻りました。
でもそれをいましたところできっと通じるはずがないのです。だってシリウスちゃんは──。
「よくも、よくも、よくもパパを! 全員食い殺してやる!」
シリウスちゃんの目はレア様以上の憎悪と憤怒に染まっているのです。
きっと私がなにをしてもいまのあの子には届かない。
あの子を止められるのは、「旦那さま」だけなのです。
でも、その「旦那さま」は血の海に沈んだきり動かない。生きているのかさえもわからない。いや、もしかしたらもう──。
「プーレちゃぁぁぁん」
「レンさぁぁぁん!」
また声が聞こえてきました。見れば駄メイドさんとサラさんがそれぞれに駆け寄ってくるところでした。おふたりもまた様子がまるで違っていたのです。
サラさんの背中には大きな竜の翼があり、その翼はまるでゴンさんの翼によく似ていました。ただ普段とは違い、レア様とシリウスちゃんと同じで目が血走っていたのです。
そして駄メイドさんはと言うと、大きな九つの尻尾を生やしていました。その目はやはり皆さん同様に血走っているうえに、全身から強者の圧を発していました。
少し前までは私だけだったのに、いまや完全に状況が異なっています。なにがどうしてこうなったのかはわからないのです。
だけど状況が好転したということは誰の目から見ても明らかでした。
あとは、「旦那さま」がご無事であればいいのです。そう、「旦那さま」がご無事であれば──。
「……退くぞ」
小柄な騎士が「旦那さま」を見やりました。
わずかに覗く赤い瞳からは様々な感情に彩られていたのです。
不安や悲しみ、それ以上に怒りが見えました。
その怒りは周囲の黒い騎士たちに向けられてもいますが、それ以上に──。
「次はおまえを必ず殺す」
なぜか私に怒りの矛先は向いていました。
まるで私を恨んでいるかのように。私はなにもしていない。それどころかこの小柄な騎士のことだってなにも知らないのです。
なのになんで小柄な騎士は私を恨むのか。
わからなかった。わからないまま、小柄な騎士と黒い騎士たちの姿は一瞬で消えてしまったのです。
後に残されたのは、倒れ伏した「旦那さま」と姿を変えたみなさん、そして──。
「「旦那さま」!」
おそばにと駆けつける私だけだったのです。遠くからはまだ喧騒の音が聞こえる。
けれど、その喧騒はもうっ聞こえない。私に見えるのは、血の海に倒れ伏す「旦那さま」だけでした。
香恋の安否は?
続きは、明日の十六時です。




