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Act6-95 絶望の声

 本日二話目です。

 今回は別視点のお話をふたつです。

 遠くからプーレちゃんの叫び声が聞こえてきた。


 私とシリウスちゃんは人の波に呑まれてしまった。


 けれどそのおかげでとびっきりの戦力を得ることができていた。


「プーレというのは、たしかカレンさんの嫁さんのひとりだったか?」


 マモンが槍を構えながら尋ねてくる。


 普段使っている槍とはまるで違う。


 急ごしらえのものであるのは明らか。それでもこの場を生き残るには十分すぎるでしょうね。


「そうだよ、プーレママなの」


「そうか。カレンさんは本当に嫁さんが多いな」


 マモンはおかしそうに笑いながら、槍の穂先をくるりと回転させている。


 笑いながらもその眼光は眼前の相手へと向けられている。


 目の前にいるのは「鬼の王国」で戦ったあの黒いアンデッドの兵たちだった。


 私たちはいまそのアンデッド兵たちに囲まれてしまっていた。


 正確に言えば、アンデッド兵たちに囲まれていたマモンと合流したと言った方がいいかもしれない。


 どちらにせよ、面倒なことになった。


 どうにもこの国でも「あの男」は暗躍していたのか。


 デウスったら、いつも通りに横着しすぎて面倒事を増やしたんじゃないでしょうね。


「デウスならありえそうだ」


 マモンは呆れている。


 呆れ顔のまま、また槍をくるりと回転させ、回転が終わると同時に踏み込み、近くにいたアンデッド兵を突き殺した。


 突き殺した兵をそのまま槍の穂先にぶら下げながら、その場で回転した。


 アンデッド兵を新しい穂先の代りとして使いながら、次々にアンデッド兵を撃破していく。


 相変らず多対一との戦いが得意よね、この子。


「カレンさんのところだと退屈しなさそうだな」


「普段であればここまでのことは早々起こらないんだけどね」


「逆に言えば、たまには起こるんだろう?」


 マモンがにやりと笑う。


 そんなマモンの背後からアンデッド兵が迫るけれど、マモンは振り返ることなく、その顏に裏拳を放った。


 アンデッド兵の顔が陥没し、そのまま倒れ伏してしまう。


「あえて否定しないよ」


 返事をしつつ「風刃」で攻撃を仕掛ける。


 マモンとシリウスちゃんの援護にはこれくらいがちょうどいい。


 本音を言えば私自身が前衛として出れば、それだけで済む話なのだけど、さすがにシリウスちゃんには見せられない。


 どうでもいいけれどマモンからも苦情が来るかもしれないし。


 トラウマを刺激するなとかなんとか言って。


 非常に失礼な話だと思う。


「わぅわぅ、パパはいつも面倒事を引き起こすもの」


 シリウスちゃんは「黒護狼」でアンデッド兵たちの首を狩り飛ばしながら頷いていた。


 以前みたいに血の臭いで理性を飛ばす雰囲気はいまのところない。


 まぁ、以前のあれはあえて理性を飛ばしていただけみたいだったけれど、このことを知っているのはこの場では私だけ。


「シリウスちゃん、首を飛ばすのはいいけれど、ほどほどにしなさいね」


「はーい」


 シリウスちゃんは新しく首を飛ばしながら、元気よく返事をしている。うん、お行儀がいいね。偉い偉い。


「……首を飛ばしながらでなければ、穏やかな会話と言えるんだがなぁ」


 マモンはなんとも言えない顔をしていた。


 なんとも言えない顔をしながらアンデッド兵を穂先で叩いていた。


 アンデッド兵の首が体に埋まり、そのまま後ろへと倒れ込んだ。


「とりあえず、これで終わりかな?」


 穂先の代りにしていたアンデッド兵の死体を振り飛ばしマモンがあたりを見回す。


 ほんの数分で私たちを囲んでいたアンデッド兵たちは全滅していた。相変らずの手ごたえがなさすぎる。


「パパとプーレママに合流しよう」


 シリウスちゃんは来た道を戻りたさそうにしている。


 とはいえ、それは私も同じだった。プーレちゃんの悲鳴からしてただ事ではなさそうだし。


「急ぎましょうか」


「わぅ」


「そうだな」


 マモンも悲鳴が気になるのか、急ぎその場を後にした。


 人の波に呑まれてしまったせいで、数百メートルは離れてしまっている。


 走れば一分もしないうちに戻れるけれど、その一分が致命的な差になりそうで怖かった。


 無事でいてください。そう祈りながら元の道にへと戻ると、そこには胸から血を流し、腹部を四方から貫かれた「旦那さま」が立っていた。




「旦那さま」とはぐれてしまいました。


 人の波はとんでもない速さでしたねぇ。


 まぁ、救いはタマモさんと一緒だったことくらいでしょうかぁ~。


「旦那さま」のお友達だけあって、かなりお強い人みたいですしぃ~。


「ボクの邪魔をするな!」


 タマモさんはそれまでの空元気の姿から一転し、とても真剣な表情で手持ちの武器であの黒い騎士たちと戦っておられています。


 ……まぁ、あれを武器と言っていいのかどうかはわかりませんけどねぇ~。


 だってタマモさんの武器は、どこからどう見てもおたまですから。


 まぁ、普通のおたまとは違って、妙にきらきらとしていますけどぉ~、星金でも使っているんでしょうか? 


 星金はそんなに強度のある金属ではないはずなんですけどねぇ~。


「タマモさんはお強いですねぇ~」


「そういうサラさんこそ、強すぎませんかね?」

 タマモさんは苦笑いしていました。私はそこまで強いわけではないですけどねぇ~。


 この程度の相手ならいくらでも相手できるくらいですよぉ~。と言っているうちにまた増援ですねぇ~。


「ひぃ、ふぅ、みぃ~、ん~、面倒なのでぇ~、半々でいいですかぁ~?」


「ええ、もちろんですよ」


 タマモさんは頷かれると、新しく現れた黒い騎士たちへと向かっていきます。一歩踏み込むごとにすごい衝撃が走っていますね。


「双牙連撃斬!」


 タマモさんはとてもカッコよさげな技名を叫びながら、両手の武器を左右で一回ずつ振られました。


 右手にはおたまで、左手にはどう見てもフライパンですねぇ~。


 どっちも黒い騎士を切り捨てられるものじゃないんですけど、タマモさんはあっさりと切り捨てていますねぇ~。


 調理道具を武器にする人って初めて見ましたねぇ。というかこの人いったいなんなんでしょうねぇ~。


「調理道具を武器にする人は初めて見ましたよぉ~」


「あ、あははは、いろいろと事情があるのですよ」


「へぇ~? その九つの尻尾も関係しているんですかぁ?」


「……まぁ、そんなところです」


 タマモさんは困ったように笑っていました。


 背中には九つもの尻尾があり、その尻尾もまたまるで意思を持っているかのように襲い掛かる黒い騎士たちを迎撃しています。


 ん~、移動要塞みたいな人ですねぇ~。


「旦那さま」の世界はとても平和な世界だと聞きますけどぉ~、こんな移動要塞みたいな人が実在するとなると、本当に平和なのかは首を傾げそうになりますねぇ~。


「サラさんにとやかく言われる筋合いはないですよ?」


 タマモさんはなぜか呆れていますねぇ~。ん~? なんででしょうねぇ~?


「なんでって、徒手空拳で戦う鍛冶師なんて初めて見ますよ?」


「そうですかぁ~?」


 このくらいの敵であれば、わざわざ武器を使う必要なんてないですしぃ~。


 むしろ血糊が巻いてメンテナンスが大変なんですよねぇ~。


 だから素手で戦うのが一番手っ取り早いんですよねぇ~。


「……レンさんも大変な人をお嫁さんにしたものですね」


 タマモさんがなぜか笑っています。


 ん~。笑われるようなことはしていないつもりですがぁ~、まぁいいですかねぇ~。それよりもぉ~。


「そろそろ面倒ですからぁ~、大技行きますねぇ~」


「でしたらボクも行きますよ」


 タマモさんはおたまとフライパン、それぞれに白と黒い光を宿らせました。


 光と闇属性ですかねぇ~? でもちょっと違うかなぁ~?


 まぁ、いいやぁ~。こっちも大技というか、ブレスで一網打尽ですよぉ~。


 私は大きく息を吸い込みました。同時にタマモさんが目を見開き叫びました。


「英魔十字斬!」


 おたまとフライパンから放たれた光は十字に重なり、黒い騎士たちを飲み込んでいきました。


 その余波から逃れた黒い騎士たちに向かって、火と水の属性を、炎と氷を複合させたブレスを放ちます。


 残っていた黒い騎士たちは氷炎のブレスで跡形もなく消えてなくなりました。


「ふぅ~、疲れますねぇ~」


「……疲れるだけですまないと思いますけどね、普通は」


 タマモさんはアイテムボックスにおたまとフライパンをしまいました。


 すると背中の九つの尻尾も消えてしまいました。武器と連動する尻尾ですかねぇ~?


「細かいことはいいですよ。それよりもレンさんたちを」


「そうですねぇ~」


 プーレちゃんの悲鳴が聞こえてきたことですし、合流を急ぎましょうかぁ~。


 私とタマモさんはできるかぎりの速さで「旦那さま」とプーレちゃんの元へと戻りました。戻った先では──。


「い、いやぁぁぁーっ!」


 プーレちゃんの目の前で、「旦那さま」がお胸に穴をあけ、お腹に複数の剣で貫かれていました。

 続きは明日の十六時になるといいなぁと思います←

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