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Act6-93 アンデッド兵、再び

 叫び声が聞こえた。


 通りを歩いていた人全員が振り返るとそこには黒い甲冑を身につけた騎士たちが、「鬼の王国」で戦ったアンデッド兵十数人が屯していた。


 ひとりだけ小柄なのがいる。その小柄なのは手には血に濡れた剣が握られていて、その近くには倒れ付した男性がいる。


 状況から見て、あいつが男性を襲ったのは明らかだ。


 男性は倒れ付しているけど、わずかに体が動いている。


 いまならなんとか助けられるかもしれない。


「やれ」


 小柄なアンデッド兵が剣をかざした。その言葉にほかのアンデッド兵たちが反応し、それぞれの得物で近くにいる通行人に襲いかかっていく。


「こんな街中で」


「ふざけやがって」


「目に物見せてやる」


 襲い掛かるアンデッド兵に憤った何人かが、アンデッド兵と通行人の間に入り込み、逆に斬りかかっていく。その間に襲われかけていた通行人は逃げ出していく。


 それも俺たちのいる方へと向かってだ。ちょうど俺たちのいる位置は、この通りの入り口であり、デウスさんが演説した広場へと向かえる大通りのひとつだった。


 そんな場所で逃げたしたら、混乱は起きるのは当然だった。


「わ、わぅ!」


「シリウスちゃん!」


 シリウスが人の波に飲まれていく。そんなシリウスをレアが慌てて抱き締めたが、そのレアごと人の波に飲まれてしまった。


「れ、レンさん!」


「これは、どうしようもありませんねぇ~」


 タマちゃんとサラさんもまた人の波に飲まれてしまっていた。


 混乱の中でもいつものようにのんびり口調なサラさんには脱力させられてしまった。


 がなにかを言う余裕さえなく、そのままふたりの姿も見えなくなってしまう。


「ふ、ふわわわ」


 隣にいたプーレもまた人の波に拐われそうになっていた。


「プーレ!」


 プーレだけでもと、プーレの手を取り、強引に抱き寄せた。


 その際何人かを巻き込んだけど、この状況ならば仕方がない。


「ば、バカ野郎、危な──がはっ」


 四、五十代くらいの男性がこんな状況にも関わらず食って掛かってきたけど、最後まで文句を言うことはできなかった。


 なにせ俺に掴み掛かろうとしたのと同時にあの小柄なアンデッド兵に背中を斬られてしまっていた。


 明らかに致命傷だった。


「ちっ」


 小柄なアンデッド兵は舌打ちをした。


 邪魔をしてと言いたげな表情を浮かべている。


「おまえ、プーレを狙っていたな」


 男性はちょうどプーレの盾になるような場所に立っていた。


 正確にはプーレがもともといた場所に立っていたんだ。


 まるでプーレの身代わりになるかのようにだ。


 実際にはそんなことはありえないけども、結果としてそういうことになった。


「………必要のないものを切り捨てるのは当然では?」


 小柄なアンデッド兵はあたりまえのようにふざけたことを言う。その言動に俺の堪忍袋の緒は盛大にぶち切れた。


「てめえ!」


 アイテムボックスから「黒狼望」を取り出し様に抜き打ちする。


 プーレを抱き締めながらだから体勢が悪いし、利き手とは逆なので力がうまく入りづらいけど、アンデッド兵には十分すぎる。そう思ったのだけど──。


「遅い」


 アンデッド兵はあっさりと俺の抜き打ちを剣で防いでいた。


 剣で防ごうとする動きさえ見えなかった。


 気づいたときには防がれていた。


「こいつ」


 ほかのアンデッド兵とは違う。


 体格からしてほかのアンデッド兵とは違っているけど、その強さもまた違う。そもそもこいつはアンデッド兵を指揮していた。


 つまりは上級兵タイプ、いや指揮官タイプということなんだろう。


 以前戦ったアンデッド兵にはいなかった。


 あのときは、セイクリッドウルフが指揮官だったということなのかもしれないけど、今回は正式な指揮官タイプを投入したということなのか。


 そのせいなのか、アンデッド兵の動きが以前とはまるで違う。


「がぁっ!」


「つ、強い」


「く、くそぉ」


 ほかのアンデッド兵に対抗しようとしている連中が悲鳴をあげていた。身なりは軽装ではあるけど冒険者のものだ。ランクはどれくらいかはわからないけど、それなりにやりそうな雰囲気があった。


 それでも一対一でもアンデッド兵と戦うことができないようだった。


 介入しないと殺されてしまいそうだ。だけど──。


「介入しないと死にますよ?」


 目の前の相手が強すぎた。気を抜けばそれだけで致命的な隙をさらけ出すことになってしまう。


 いまはつばぜり合いという形になっているけど、一瞬でも気を抜いたら攻め立ててくるに違いない。


 それどころかプーレごと斬られてしまいそうだ。


 そうならないためにも、下手に動くことはできない。


「下手に動かなければ、そのいらない女を殺されないとでも?」


 目の前の敵が笑った。声がくぐもっているから、男か女なのかもわからない。ただその声には明らかな苛立ちがこもっていた。


「黒狼望」がはね上げられた。わずかに手首を動かしただけでつばぜり合いから、完全に無防備な状態になってしまった。


「死ね」


 敵はなぜかプーレに向かって突きを放ってきた。まっすぐにプーレの顔へと向けて。どうすればプーレを助けられるのか。


 考えたのは、ほんの一瞬だった。


「え?」


「だ、「旦那さま」?」


 敵が呆気に取られたような声を出した。


 後ろにいるから顔を見ることはできないけれど、理解できないというような声を出しているから、たぶん驚いているんだと思う。プーレは茫然としている。無理もないかな。


「……大丈夫か、プーレ」


 なにせ俺は敵の剣とプーレの間に無理やり入り込んだんだ。その結果、相手の剣は俺の胸を貫いたのだから。


「君が無事でよかった」


 俺の血で顔が汚れてしまっているけど、プーレは無事だった。


 よかった。血を吐きながらプーレによりかかった。体がうまく動かない。体に力が入らなかった。


「あ、あ、あぁぁぁぁぁぁーっ!」


 プーレが叫ぶ。プーレの叫びを聞きながら、俺は意識が遠ざかっていくのを感じていた。


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