Act6-92 穏やかな時間の終わり
沖田オルタさん来ました←ドヤァ
というのはさておき。
のんびりなお祭りが急転直下です。
「いやぁ、遊んだなぁ」
祭りが始まって数時間ほどだけど、かなり遊ばせてもらった。
まぁ所々で散々な結果になることも多かったのだけど。特に射的。うん、俺は今後射的という遊びは二度としないと決めたよ。
だってさ射的をしたところで、シリウスにぼろ負けするのが目に見えているもんよ。だから射的はしません。シリウスと射的で勝負は二度としません。ええ、これはもう確定事項だ。
「パパ情けないの」
もぐもぐと口を動かしながら、出店で出ていたプクレをかじるシリウス。プクレを持っていない手はレアと繋いでいる。そのレアもプクレをかじりながら笑っている。
「たしかにいまのは情けないね。これに懲りて「旦那さま」も意地悪はやめましょうね」
「い、意地悪じゃないやい。あれは愛情表現の一種であってだね」
「あれはどう見ても虐待寸前でしたよ?」
俺の言葉をプーレがばっさりと切り捨ててくれました。いくらか呆れ顔なのがなんとも言えませんね。
「シリウスちゃんはすごいですねぇ~。レア様の手ほどきがあったとはいえ、その年齢であれほどの魔法を使えるんですからぁ~」
「普通はあんなに魔法は使えないんですか?」
「ん~。種族にもよりますねぇ~。魔法を得意とする種族であればぁ~、シリウスちゃんのようにあれほどの魔法を連発できますがぁ~、普通はそう簡単にはできないことですねぇ~」
しみじみとサラさんが呟く。その隣には興味深そうにタマちゃんが頷いていた。
ちなみにタマちゃんもプクレをかじっています。
サラさんに至っては両手にプクレを持ちながら交互にかじりつくという、なんとも大胆な行為をしていますね。
ゴンさんもそうだけど、竜系の種族って大食漢な人ばかりなのかな?
サラさんも見ため以上に食べているもの。プクレを買えるだけ買っていたからね。
そのプクレはサラさん手持ちのアイテムボックスに入れられて、手に持っているプクレを食べ終わるたびに、アイテムボックスから取り出しているからね。その速さは圧倒的です。
「サラママ、すごくいっぱい食べるね」
「ふふふぅ~。竜人は大食漢が多い種族なのですよぉ~」
「その割には痩せているよ?」
「竜人は食べても太らない種族ですからぁ~」
「へぇ~、そうなんだ」
シリウスは感心したように頷いている。たしかに竜人ってあんまり太っているイメージがないな。
あ、でもジョン爺さんはぷっくりとしていたような? まぁ、個人差ってあるからな。
「太らないとか、羨ましすぎるのですよ」
サラさんの言葉にプーレががくりと肩を落としていた。
肩を落としながら、お腹のあたりを擦っているね。
プーレは余分なお肉はついていないと思うんだけどなぁ。
むしろ余分なお肉が胸とかに回っているタイプだと思うのだけど。
というか、うちの嫁ってみんなそういうタイプばっかりなような。
もしかして俺が巨乳好きとかわけのわからない噂が流れる理由ってそれなのかな?
「レンさんもいい加減認めればいいんですよ。ビバおっぱいなのです」
タマちゃんはなぜか胸を張って、そんなどうしようもないことを言っている。いかん、この二十歳救いようがないぞ。まぁ、タマちゃんだから致し方がないかな。
「その言い分はひどいですよ?」
タマちゃんがじとりと俺を睨んでくる。普段であればシリウスがタマちゃんへと攻撃を仕掛けるのだから、今日のシリウスはタマちゃんに攻撃を仕掛けるつもりはないようだった。
「わぅわぅ、プーレママ、落ち込んじゃダメだよ。プーレママはお胸にお肉がついているから問題ないの」
「え、えっと、ありがとう」
「わぅわぅ、どういたしまして」
えっへんと胸を張ってシリウスは得意げだ。対するプーレは困ったように笑っている。困ったように笑っているけれど、そのまなざしはとても穏やかだった。というか最近のプーレはすごく穏やかだ。
少し前まではヤンデレを前面に押し出していたというのに、そのヤンデレ成分はどこに旅行へと向かわれたのか、ヤンデレさはかけらもなくなっていた。
特にこれと言ったことをしてはいないのだけど、なにがあったのかな?
「どうされました?」
プーレが不思議そうに首を傾げる。とてもかわいらしいです。うちの嫁はどうしてみんなきれいどころなのに、ふとしたときにかわいいところを見せてくれるのやら。まったく困ったものだぜ。
「最近プーレは穏やかだなぁって」
「そうですか?」
「うん。だって少し前はどこからともなく包丁を取り出していたじゃん?」
あれは実に怖かった。下手したら殺されるかもしれないと思うくらいには、とても怖いものでしたね。まぁ最近はすっかりとなりを潜めているし、なにも問題は──。
「ふふふ、包丁が懐かしいのですか?」
あれ?
「でしたら三枚おろしにしてあげるのですよ?」
お、おかしいな? なぜか死亡フラグを踏んだっぽいような? いやいやそんなバカな。そんなバカなことがあるわけが──。
「今日の昼食は浮気者の三枚おろしで──」
「待って!?」
なぜかプーレが包丁を持っているんですけど!?
しかもすでに高らかに掲げて俺をロックオンしているんですけど!?
え、なに、俺なにかやらかしたの!?
「ふふふ、遠慮しなくていいのですよ」
「遠慮するよ!?」
むしろこの状況で遠慮しないとか普通にないからね!? なんてことを言っても聞いてくれそうにないですけどね!?
「──なんて冗談ですよ?」
そう言ってプーレは包丁を下げてくれた。
じょ、冗談だったのか、あれでも。いやいや冗談には見えなかったよ。むしろ本気にしか見えなかったぜ。
「本気で三枚おろしにした方が」
「勘弁してください」
素直に頭を下げた。プーレはやれやれなのです、とため息を吐いてくれました。
なんだろう、このうだつのあがらない旦那さんみたいな状況は。
まぁ、カカア天下の方が夫婦仲は長続きするものだから、これはこれでありかな。
……できることなら冗談と本気をもっとわかりやすくしてくれればありがたいんですけどね。無理だとは思うけれども。
「パパ、プーレママ、イチャイチャしていると置いて行っちゃうよ」
いつのまにかシリウスたちは俺とプーレのそばから離れていた。
距離を取っていたのか。それとも単純に俺たちが脚を止めている間に進んでしまったのか。
悩ましい問題だね。
「とりあえず、行こうか」
「はい」
プーレに手を差し出すとプーレはそっと俺の手を掴んでくれた。
「き、きゃぁぁぁー!」
不意に甲高い叫び声が聞こえてきたんだ。




