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Act0-63 とある守備隊隊員の話

PV7400突破です!

いつもありがとうございます!

 今日は変わった日だった。


 首都にある門は、王族専用の門を除けば、基本的には夜閉じられている。


 王族専用の門はその性質上、常に門番が立っているが、他の門は城門の上の通路にいる歩哨が、警備している程度だった。


 しかし今日はいつもとは違っていた。


 王族専用の門だけではなく、主要の出入り口である大門にまで、夜間の門番が配備されていた。


 守備隊の隊長も、詳しいことは聞かされてはいないようだった。


「とにかく、コアルスさまの指示に従おう」


 隊長でさえも不思議がる指示ではあるが、蛇王のペットであり、蛇王の片腕と言われているコアルスの言うことは、いままで一度も間違ったことはない。


 隊長よりもかなり格上の上司の指示通りに従うのは、悪いことではないだろう。ただ不可解な指示ではあるが。

 なにせ、コアルスの指示はおおむね三つ。


 ひとつは、大門にも今晩だけは、門番を配備すること。


 普段は王族専用の門だけにしか配備しないのだが、今晩だけは、大門にも配備しろということだ。


 なんで今晩だけは、大門に配備するのかは、わからない。


 なにかしらの意味があるのだろうが、下っ端である自分には理解できないことだ。


 なにせ直接の上司である隊長にもわかっていないのだから。


 ふたつめは、夜間の歩哨の配備。


 普段はふたり一組で、決められたルートを見回る。


 それは今晩も同じだったが、ルートが通常とはまるで違っていた。


 なんと、大通りを歩哨のルートから外せというお達しなのだ。


 加えて、大通りに面する裏道やら路地には、通常よりも歩哨の数を増やせとも。


 大門に門番を配備するのは、まだわかる。


 なにかしらの意味があって、そうするのだろうから。


 だが、歩哨のルートを変えることは、不可解だった。


 それも大通りの歩哨が必要ないと言われてしまったのだ。


 昼間であれば、トラブルがあったら、どうするんだと思うことだが、幸いなことに夜間の歩哨だったので、人の往来はほとんどなかった。


 だからと言って、昼間は往来のある大通りを外すのは、いかがなものかと思ったが、隊長も納得はしていなかったようだが、上司であるコアルスに逆らうことはできなかったようだ。


 普段であれば、夜間でも大通りにも歩哨は配備する。


 その配備するはずの歩哨を別の場所に回せというのは、大通りの警備を手薄にしろと言うようなものだった。


 コアルスの考えが、さっぱりと理解できなかった。


 だが、それもまだましな方だった。なにせ三つめの指示は、完全に意味がわからなかった。


 三つ目の指示。それは夜間にふたりの少女が訪れるので、なにも言わずに通用門から出してやれというものだった。


 ちなみに特徴は言われていないらしい。

 

 ただ少女ふたりが来たら、通すだけでいいと言われたらしい。


 隊長から説明されたときは、なんだそれと思った。


 そしてそれは自分だけではなく、ほかの守備隊の隊員も同じことを思っただろう。


 隊長も同じなのか、納得どころか、理解に苦しんでいるような顔をしていた。


 通常、理解は納得する前にあるもの。


 理解せずして納得はできない。


 納得できるということは、理解したうえではじめてできることだ。


 その理解の段階で、躓いてしまう。


 三つめの指示はそんな内容だった。


 そもそも少女ふたりが訪れるというのは、なんのことだろうか。


 訪れるかもしれないではなく、訪れると断定しているということは、そういう予定があるということなのだろうが、なぜ夜なのだろうか。


 昼間であれば、勝手に出ていけるのだから、昼間にすればいいのに、なぜわざわざ夜に出ていくのか。


 加えて、なんでふたりの少女が訪れるのがわかるのだろう。


 しかもご丁寧なことに、大通りの方から現れるらしい。


 大通りの歩哨を外せというのは、そのふたりの少女のためなのだろうか。


 いやそれ以外にはありえないだろう。


 ただそうすると、ふたりの少女とは何者なのかという疑問にたどり着いてしまう。


 どんなにバカでも、不思議な三つの指示が、その少女たちのためであることに、気づかないわけがない。


 蛇王の片腕であるコアルスが、わざわざ指示を出すほどなのだから、相当に位の高い少女たちなのだろうか。


「蛇王さまの隠し子ですかね?」


 ひとまず思いつくのは、そのあたりだろう。


 が、口にした瞬間、隊長を含めた、ほかの隊員たち全員から、睨まれることになった。


 肝を冷やされることになったが、無理もない。


 蛇王は厳しい方であるが、それ以上にお優しい人でもある。


 その優しさを、「蛇の王国」、特に首都で生まれ育った者は、みなが知っている。自分もそのひとりだ。


 実際、蛇王はいつも笑っている。


 その笑顔はとても穏やかで温かい。


 しかしその笑顔の下に、冷徹さを隠している。


 時折、訓練と称して、殺そうとしているとしか思えない、魔法の弾幕を放ってくることがある。おかげで何度か死にかけたことがある。


 首都の警備は誉れある仕事ではあるが、その首都の長にして、この国の王直々に殺されそうになるというのは、守備隊の任務と言えるのだろうか。


 隊長やほかの隊員曰く、耐えろ、とのことだ。


 耐えてなんになるというのか。


 何度も思ったが、自分以外の隊員たちも、みな耐えていた。


 そういう性癖でもあるのかと、何度も思った。


 だが、思いながらも、自分も耐え続けてきた。


 単なる蛇王の憂さ晴らしではないかとも思った。


 だが、蛇王の訓練に耐えれば耐えるほど、実力がついていくことは、はっきりとわかっていた。


 それに隊長曰く、蛇王さまのお考えがある、とのことだった。


 考えなんてあるものか、と何度も思ったし、訓練を受けるたびに、内心で蛇王に悪態を吐いたものだ。


 だが、その悪態はもう吐く気にはなれない。


 ある日の訓練後、蛇王から直々に声を掛けられたのだ。


 あの日のことはいまでも忘れられない。


「頑張っていますね、アルカ」


 名前を呼ばれ、頭を撫でられた。


 蛇王はいつものように笑顔を浮かべていた。


 その笑顔に胸が高鳴ったし、頭を撫でられているだけのはずなのに、それがなによりも勝る光栄と感じたのだ。


 自分でもなんでそう思ったのかはわからない。


 加えて、守備隊でも、下っ端にしかすぎない自分なんかの名前を憶えていてくれたと思った。


 だが、そのときは、名前を呼ばれ、笑顔を向けられ、そして頭を撫でられた。


 それだけで、自分は選ばれた存在だと思えてしまった。


 実際はそんなわけがなかった。

 

 だが、そのときの優越感は半端なものではなかった。


 なにせ隊長を含めた、その場にいた全員が、羨ましそうに見つめていたのだ。


 入隊したばかりの下っ端にしかすぎない自分をだ。


 あれからだ。

 

 隊長やほかの隊員が言っていた、耐えろという言葉の意味を理解したのは。


 耐えれば、褒めてもらえる。


 誰よりも耐え、頑張れば、さらに褒めてもらえる。


 そのうえで強くもなれるのだ。


 これほどまでに素晴らしいことはない。

 

 だからこそ、耐えるのだ。


 すべては蛇王さまに、お褒めいただくためにだ。


 あれ以来、蛇王への悪態を吐いたことはない。


 むしろ守備隊にいる誰よりも、蛇王を崇拝するようになった。


 その蛇王の隠し子など口にするということは、どう考えても不敬だった。


 処刑されなかっただけでも、ありがたいことだ。


 ただ隠し子ではないのであれば、いったいその少女たちは何者なのか。


 守備隊の詰め所では、結局答えは出ないまま、夜間の歩哨の時間になった。

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