Act6-80 お嫁さんという名の死神さんの微笑みが怖いです(Byカレン
わけがわからないまま、胴上げをされてしまった。
いきなり「姐さんを胴上げじゃ」と言われて、実際に胴上げされた俺です。
うん。こうして考えてみても、胴上げされた理由がまるでわからんね。
そもそもなぜに胴上げをしようという発想になったのかさえもわからないもの。
しかもその胴上げには、プーレに絡んでいた変なのも含まれていたのだから、余計に状況がわからなかったよ。
「ふふふ、やるじゃないか」
「そなたもやるではないか」
そんな困惑する俺をおいてけぼりにするように、リーダーマッチョと変なのは肩を組んで笑い合っている。非常に暑苦しい光景ですね。
加えて揃って汗だくだというのが余計に暑苦しいぜ。
シリウスとプーレは揃ってドン引きしているもん。
汗だくの姿を見て、女性が心動かされるのはイケメンに限るというところなんでしょうね。
リーダーマッチョと変なのは残念ながらイケメンではないので、シリウスとプーレの関心を得ることはできなかったのは、そのいい証拠だ。
まぁイケメンではないけど、リーダーマッチョは意外と男気があるみたいだし、変なのも一応は吸血鬼らしく紳士的なところはあるみたいだ。
だけど、顔面偏差値が揃って残念すぎるのが敗因なんでしょうね。
かといって勇ちゃんみたいな顔だけなのもダメかと思うけどね。あれは内面が残念すぎるし。
ちょうどいいイケメンってなかなかいないですよね。
まぁそれはさておきだ。
「すまなかったな、兄弟。奥方にちょっかいを出す変態かと思っちまったぜ」
「気にするな、兄弟。我もそなたらにひどいことをしてしまった」
「なぁに、弱かった俺たちが悪いのさ」
「ふ、おまえは強いさ。心がとてもな」
「そうかな?」
「あぁ、そうさ」
……えっと、なにこれ?
なんでもう義兄弟の契りを交わしたみたいになっているわけ?
少し目を離していた間に、なんで兄弟と呼び合っているんだよ?
急展開すぎて、プーレとシリウスが固まっているよ。
手下マッチョどもは、まるで感動的な物語を見たかのように泣いているけども。
類は友を呼ぶというところかな。
本当に理解できませんけども。
「……あ~、あのさ。そこの変なの」
「なんでありましょうか、姐さん」
「いつ俺が姐さんに」
「なにを言っているんですかい? 俺らの姐さんなのだから、当然兄弟にとっても姐さんですぜ」
「……あぁ、そうなんだ」
意味がわからない。その理屈は意味がわからないよ。
でももういまさらだ。
姐さんになる気はないが、とにかく事情を説明してもらいましょうかね。
「えっととりあえず説明してくれない? なんでプーレに絡んでいたわけ?」
こいつらははっきりと言わないと別の説明を始めてしまう。
だからこそ先手を打って、ことのあらましを教えてもらおう。
じゃないと延々とどうでもいい話を聞かされてしまいそうだもの。
「それはですね。奥方がとても我の好みど真ん中でありまして」
「おまえ、去勢されてえのか?」
変なのは「ひぃぃ」と悲鳴をあげたけど、そんな悲鳴程度で俺の怒りが治まると思うなよ!?
どんな理由があると思ったら、プーレが好みだったからだ?
好みの女だからってなんでもしていいわけがないだろうが。
本当にふざけんなよ。そもそもなぁ──。
「プーレは俺の女なんだから、手を出すな!」
この類にははっきりと伝えないと理解しないだろう。
ここまで言えばどんなおバカさんでも理解してくれるに違いない。
うんうん、これで少しはプーレのセクハラ被害も減るに──。
「パパ、パパ。プーレママが目を回しているの」
「んん?」
思わず変な声が出てしまったよ。
だっていきなりプーレが目を回しているとか言われても、なんのことだよと思うもの。
というかなぜに目を回すよ? 意味がわからない。
もしかしてシリウスなりの悪戯かな?
まったくうちの愛娘ったら、こんなところでお茶目を出さなくてもいいのにね。
やれやれと肩を竦めつつ、振り返ると──。
「きゅ~」
「プーレぇぇぇーっ!?」
本当にプーレが目を回していました。
ってなんでだよ!? なんでいきなり目を回しているの、この子!? 目を回すようなことあったか!?
「なにを言っているの、パパ。パパが変なことを言うからプーレママが目を回したのに」
「パパはそんな変なことを言っていないよ!?」
娘がひどいよ。
俺はプーレが目を回すようなことはなにひとつとて言っていないのに、俺のせいにされているんですけど?
だってこうして胸に手を当てて考えてみてもプーレが目を回すようなことは言っていない。
ただ事実を述べただけなのに。なんで?
「……パパって本当に無自覚さんだよね。ママたちは本当に大変だね。ねぇ、そうでしょう?」
シリウスはなぜか俺の背中に向かって言っていた。
いったい誰に言っているんだろう?
俺の背中には誰もいないというのに──。
「そうねぇ。パパが無自覚さんなところもママは好きだけど──」
「少しお灸を据えてあげるのもいいかなぁと思わなくもないかな?」不意に背後からそんな声が聞こえてきました。
同時に肩をとても優しく叩かれました。
振り返りたくない。振り返りたくないよ。
だって振り返ったら死んじゃうもん。
俺の背後には嫁という名の死神が──。
「誰が死神ですか?」
肩を強く握りしめられていく。
痛い。愛が痛いよ。
けれどこの愛の持ち主はやめてくれません。
わかっているよ。俺の発言が不用意すぎたってことは。
でもさ、言いたくなるのも無理はないと思うんですよ。
だってなにかあるたびに俺は追いかけまわされてばっかりだもん。
少しくらい愚痴を言ったって──。
「いまのは愚痴じゃなくて、完全に悪口だと思いますよ? 「旦那さま」」
肩が痛いです。
肩を握りしめる力がとても、とても強くなっていきます。
肩が壊れちゃうよ。
でもやめてくれないよね。
だって悪いのは俺だもん。
「わかっていらしているのであれば、ちゃんとこっちを見ましょうね?」
「……ハイ、スミマセン」
涙目になりつつ、俺は振り返る。
そこにはニコニコと笑うレアと気の毒そうな顔をしているデウスさんとタマちゃんがいました。




